（アメリカの時代、世界歴史体系アメリカ史２、から抜粋）
１９６５年の南ベトナムでは、アメリカの支援する軍事独裁政権が成立していましたが、
農村部の７５％は北ベトナム勢力の支配下に入っていました。
そのためアメリカ軍は、南ベトナムの農村を爆撃したり、農民を強制移住させました。
１９６５年７月〜６７年１１月までに、アメリカの爆撃機は、第二次大戦を通じて連合国がヨーロッパに落とした爆弾の総量を超えるほどの、膨大な爆弾を北ベトナムに落とします。
この間に、３４.４万人の北ベトナム兵が死んだ。
アメリカ軍は、核兵器以外のあらゆる爆弾を投下しました。
枯葉剤の投下までが強行され、それにより二重胎児などの深刻な後遺症が戦後まで残ります。
この戦争では、宣戦布告のないままに戦争に突入したため、報道規制が少なく、
マスコミは「お茶の間戦争」と言われるほどに生々しい映像を放送しました。
（私は、なぜベトナム戦争ではたくさんの映像が残っており、戦争の実態をきちんと
捉えているのか不思議でした。
こういう理由があったのですね。）
戦争の悲惨さが報道されるにつれて、アメリカ国内でも、同盟国のあいだでも、ベトナム戦争に反対する声が高まっていきました。
６５年の半ばからは、北ベトナム軍は南下して、南ベトナムで戦いました。
北ベトナムとしては、「ジュネーヴ協定で定められた統一選挙がアメリカの反対で実施されない以上、武力統一もやむを得ない」と考えていました。
戦争は激化し、アメリカ兵の派兵数はうなぎ昇りに増え、６８年の末には最高の５３.６万人となった。
アメリカ兵の死者数は、６６年末には５千人を超え、６７年末には１万人近くとなった。
アメリカにとってベトナム戦争は「ゲリラとの戦い」となり、アメリカは無差別な殺戮も
しばしば行いました。
６６年２月にアメリカ議会で、ジョージ・ケナンが「過剰な介入だ」と批判し、世論に大きな影響を与えました。
ジョンソン政権は福祉予算も増やしていたため、インフレを起こし、６７年秋にはドル危機が発生しました。
６７年に入ると、「福祉予算が減る」として、キング牧師らが反戦の声を挙げ始めます。
ジョンソン大統領は、訪米の際にベトナム戦争を批判していく西側同盟国の指導者たちに、
腹を立てるようになります。
１９６５年にカナダ首相のレスター・ピアソンが批判した時には、ジョンソンはピアソンの
衿元をつかんで「土下座して謝れ」と怒鳴りました。
１９６７年に南ベトナムでインチキの総選挙が行われると、批判はさらに高まった。
しかしジョンソンは、望みを持ち続けていました。
なぜなら、６８年の初頭までは、アメリカのメディアがベトナム戦争に賛成していたからです。
世論は、当初はベトナム介入の支持が圧倒的でした。
６７年１０月に、初めて世論調査で反対派が賛成派を上回りました。
しかし、和平派のマクナマラ国防長官は、１１月に辞任させられた。
アメリカの世論は、６８年１月末にベトコンがテト（旧暦の正月）に大攻撃を仕掛けたために、一変します。
この攻撃では、サイゴンのアメリカ大使館が一時は占拠されました。
アメリカ人は、ベトコンがここまでの攻撃ができる事に驚き、政府が「アメリカは勝利に向かっている」と説明するのに疑問を持ちました。
当時のＴＶ界で最も尊敬されていた、ＣＢＳニュース・キャスターのウォルター・クロンカイトは、「この戦争には勝ち目はない」と表明するようになります。
こうした中、ロバート・ケネディが和平を唱えて大統領選に出馬表明をし、注目されました。
（ロバートは、選挙活動中に暗殺されます）
ベトナム戦争でアメリカ軍の総司令官だったウエスト・モーランド将軍は、２０.６万人の増派を大統領に求めます。
すっかり動揺したジョンソンは、ワイズメン（賢者）グループを呼び寄せました。
このグループには、ディーン・アチソンとマクジョージ・バンディもいた。
彼らは、当初は戦争を強く支持していたが、この頃になると戦費の増大とアメリカ経済への
悪影響を心配するようになっていました。
アチソンは、「大統領は、軍事顧問たちにより間違ったアドヴァイスを与えられている」と苦言します。
ジョンソンは、「ベトナムでの敗退は、アメリカ国内の内紛を引き起こすのではないか」と
心配していました。
ジョンソンは、ベトナム戦争の心労で、不眠症になり強迫観念に陥りました。
１９６８年３月３１日にジョンソンは、
「ホーチミンとの和平交渉を始める。 そのために北爆は制限する。
私は、戦争の終結に集中するために、大統領選挙に出ない。」
と宣言し、国民を驚かせました。
５月１３日からは、和平への予備会談が始まります。
しかし交渉はすぐに行き詰まり、アメリカ軍はむしろ増強されました。
（2014.4.9.作成）