(『ケネディ暗殺』ロバート・モロー著から抜粋)
キューバのミサイル基地のコントロール・センターを破壊する計画を話した後、
トレーシー・バーンズはさらに話を続けた。
「 別の用件に入る。
コーリーの仲間が、『今年の4月と7月にジャック・ルービーが、キューバに数週間
滞在したこと』に気付いた。
ルービーは武器商人だが、メキシコ・シティ経由でキューバに入り込んでいる。
CIAはしばらく前から、その事を知っていたが、中国がコカインをキューバの砂糖と
取引している事がはっきりするまでは黙認していた。
どうやらルービーは、この取引を知り、カストロのキューバから麻薬を買って、
アメリカに密輸している。
カルロス・マルセロのためか、あるいは自分のために。 」
「 そんな事が、あり得るのですか? 」
「 もう1つ教えてやろう。
これは、どんな事があっても漏洩してはならない。約束できるか? 」
「 もちろんです。もうここまで足を突っ込んでしまった。 」
「 君が拷問されても白状しないのは、以前の件で承知している。
だが、この話し合いの後、ある時点で、君に特殊な前歯を埋め込むことになる。
他に選択の余地のない状況になったら…、ほんの数秒で片がつく! 」
私は、血の気が引いていくのが分かった。
バーンズは、不気味な笑顔を見せつつ説明した。
「 ピッグズ湾侵攻の直前に、私の上司のリチャード・ビッセルは、
CIAの技術サービス部に対して、特別暗殺プロジェクトを遂行できる組織の立ち上げを
命じた。
この作戦は、ウィリアム・ハーベイが指揮官となった。
君はパリでハミルトンから、ハーベイの包みを受け取って、私に渡したことがあったね。
ハーベイは現在、『ZR/RIFLE』という計画の一部として、『カストロ暗殺作戦』を
実行している。
コーリーの『オペレーション・フォーティ』もそうだが、『ZR/RIFLE』にも
殺しのライセンスが与えられている。
『ZR/RIFLE』は、国家元首を殺す許可が与えられているのだ。
『ZR/RIFLE』は、外国から一団の暗殺者を雇って、監督している。
暗殺者の1人は、1959年からジャック・ルービーと関係を持ってきた、
トーマス・デイビスという男だ。
デイビスは、カストロ暗殺作戦のための亡命キューバ人の訓練にも関係している。
デイビスは現在、クレイ・ショーとニューオーリンズの彼のグループと共に
行動していると思う。
彼はまた、カルロス・マルセロ(ニューオーリンズ・マフィアのボス)とも
関係している。
ニューオーリンズに拠点を置く暗殺チームがあり、CIAの支援を得て、
マルセロの指示の下で行動している。 」
トーマス・デイビスは、CIAのファイルにはトーマス・エリ・デイビス三世という名で情報がある。
1973年9月6日に死亡した。
ルービーは、オズワルド殺害後の尋問で、「デイビスは反カストロ運動に関わる銃砲密売人で、デイビスと組んで銃砲密売をするつもりだった」と話した。
デイビスは、ケネディ暗殺時はアルジェリアで投獄されていた。
投獄の理由は、ドゴール仏大統領の暗殺を企てたテロリストに銃を密輸したため。
その後、ひそかに釈放されてアメリカに戻ってきた。
釈放に尽力したのは、ビクター・マイケル・マーツらしい。
私は尋ねた。
「 カストロ暗殺は、コーリーの組織の管轄でしたよね? 」
「 亡命キューバ人の過激派は、今ではニューオーリンズのショーと行動を
共にしている。 」
「 この1年で、事態は急変したようだな。 」
バーンズはさらに説明を続けた。
「 ジャック・ルービーだが、CIAの保護の下で、公然と麻薬ビジネスを行っている
疑惑がある。
もっと悪いことに、我々の直接の指揮下にあるはずのデイブ・フェリーも、マルセロや
ショーと行動している。」
「 クレイ・ショーは、ルービーの麻薬ビジネスについて知っているのですか? 」
「 いや、知っていると思わない。
ショーの部下たちは、ほとんどがミニットマン(共産主義侵略阻止の秘密団員)から
引き抜かれている。
そのような人員補充を採っていれば、いかなる麻薬密売も排除されると考えられる。
(共産主義の中国やキューバと麻薬取引をするとは考えられない)
我々は、こうした行動にコーリーが関係していない事を、確かめなくてはならない。
君は、彼といちばん親しい。 」
「 他に関わっている可能性があるのは、誰ですか? 」
「 ショーの右腕で、フェリーの上役である、ガイ・バニスターという40代の男だ。
CIAの契約諜報員だが、私は彼についてほとんど知らない。
バニスターは、元FBI局員で、シカゴ支局の捜査官だった。
そこでは、あのロバート・メイヒューの上司だった。
メイヒューは、かつてのCIAのカストロ暗殺計画に加わり、マフィアのロゼリと
ジアンカーナと知人だ。
バニスターは現在、ミニットマンの活動的なメンバーで、『カリブ反共連盟』の
リーダーになっている。
この組織は、『反共ブリゲード』というマイアミに拠点を置く組織の一部と、
我々は見ている。
バニスターは、61年1月に『民主キューバの友(FDC)』という組織も
設立している。
FDCは、元は『キューバ革命戦線』の一部隊だ。
キューバ革命戦線は、かつてのカストロの部下達で占められているため、
コーリーと対立しており、後に『キューバ革命委員会』となった。 」
「 思い出した。
彼らは、ニクソン副大統領の許可の下で、オペレーション・フォーティが殺すことに
なっていた者達ですね。 」
「 我々が心配しているのは、これまで信頼してきた者の多くが、手の内から離れて
いっている事だ。 」
「 ルービーに指示を出しているのは、誰ですか? 」
「 これまではバニスターだと思っていた。今では、マルセロとショーの可能性も
出てきている。 」
「 こうした事態になっていると、全く知らなかった。
コーリーが何を知っているのか、探り出してみましょう。 」
「 ありがたい。
コーリーが我々の許から去ってしまわないか、知る必要がある。 」
「 バニスターには、かなりの部下がいるんでしょう? 」
「 およそ数十人だ。ただし、数人だけが内部サークルの者だ。
バニスターは、補佐役兼パイロットとして、フェリーを重用している。
ヒュー・ウォードという若者は、殺し屋と調査員の両方で使われている。
モーリス・ガトリン・シニアは、パイロットで、CIA内部者だと思われる。
最も危険な男は、カルロス・リガルだ。
フランス出身の殺し屋で、CIAのコードネームはQJ/WIN。
『ZR/RIFLE』作戦にいた男だ。」
(バーンズは後に、QJ/WINはビクター・マイケル・アーツという、有名な国際麻薬
密売人だと明かした)
「 クレイ・ショーは、CIAを通してバニスターを勧誘したのですか? 」
「 いや、紹介したのはニューオーリンズの弁護士ガイ・ジョンソンだ。
ジョンソンは元海軍情報部の士官で、ショーの顧問弁護士をしている。
私が憂慮しているのは、ガトリン・シニアが別のCIA諜報員がバニスターらと
一緒にいるのを数回目撃したと言っている事だ。
その諜報員は、最近にソ連でのCIAの任務を終えたばかりで、ロシア人の妻がいる。
(オズワルドのことです)
ケネディ大統領がキューバにミサイルが存在すると発表したら、こうした過激分子たちは
彼を付け狙うだろう。
誰かがケネディの暗殺を試みるだろう。 」
「 でも、あなたはそんな事はさせない。 」
「 もちろんだとも。とはいえ、何が起こっているかを知らねば手の打ちようがない。
可能性のある筋書きについて、できる限りの情報を集める必要がある。
ショーはすでに、いくつかの準軍事組織を訓練している。
その目的は分かっていないが、メンバーにはCIAの人間とコーリーの仲間が何人か
含まれているだろう。
コーリーが彼らの計画について、何を知っているかをおさえる必要があるのだ。 」
私は言った。
「 探らねばならない男達について、もう少し説明していただけますか? 」
「 もちろんだ、頭に叩き込んでくれ。 」
バーンズはブリーフケースから、いくつかのフォルダを取り出して、説明を始めた。
「 これが、クレイ・ショーの内部組織だ。
ショーはかなりの間、ニューオーリンズ・ワールド・トレード・センター
(ニューオーリンズ・トレード・マート)の代表を務めている。
また、CMCとパーミンデックス社の役員でもある。
両方とも、CIAが設立した会社だ。
ショーとCIAの公式な関係は、コンサルタントだ。
次に、ガイ・バニスター。
彼は副司令官をしている。
彼は1955年まで、FBIのシカゴ支局長をしていた。
それからニューオーリンズに行き、警察副署長となって数年をつとめた。
その地位を去った後、猛烈な反カストロ主義者となり、特殊な探偵事務所を始めた。
バニスターのFBI時代の部下に、ロバート・メイヒューがいる。
メイヒューは、元CIAで、マフィアの暗殺コーディネーターをしている。
バニスターの事務所には、『自由キューバ委員会』も入居している。
この団体が、コーリーの新しい組織『キューバ・キリスト教民主委員会(CDM)』の
一部である可能性もあるから、調べてくれ。
さらにバニスターは、「ルイジアナ・インテリジェンス・ダイジェスト』という反共の
三流紙を発行している。
バニスターの副官は、デイブ・フェリーだ。
フェリーは過去に、バニスターの下で調査員兼パイロットをしていた。
現在はマルセロのパイロットもしている。
フェリーにはホモという噂があるが、事実そのとおりで、イースタン航空のパイロットを
辞めさせられたのもそのためだ。
フェリーは多才な男で、準軍事組織の訓練所をルイジアナ州ポンチャトレイン湖畔に
建設したとの報告が入っている。
さらに彼は、数人の仲間を飛行訓練し、自らもキューバへの任務飛行をしている。
ショーの指揮の下で、フェリーとバニスターが、ルイジアナ州での反共および親共の
人物調査書を作成している。 」
「 コーリーのニューオーリンズでの役割も、私に調べさせたいのでしょう?
彼が関係していればですが。 」
「 率直に言って、イエスだ。
もしショーがコーリーの部隊をコントロールしているなら、コーリーがケネディ政権に
怒り狂っているからだ。
君はコーリーに頻繁に会うから、我々の知らない何かが分かるかもしれない。
ジャック・ルービーについてだが、彼の最も重要な仕事仲間は、トーマス・デイビスと
ローレン・ユージン・ホールだ。
ホールについては、元キューバ・マフィアという以外は分かっていない。 」
(後に判明したが、ホールはかつてカストロと共に闘ったが、1959年にキューバから
追放され、反カストロ勢力に加わった。
彼はケネディ大統領に発砲した1人とされ、75年7月11日にアメリカから逃亡した。
彼は、自由キューバ委員会の一員で、麻薬取引に従事していた。)
「 彼らは、ダラスを離れて活動しているんですか? 」
「 ダラス、マイアミ、ニューオーリンズで活動している。 」
(2016年4月6〜7日に作成)