子供の頃の思い出E
コンピュータ・ゲーム@ ゲームセンターとS君の思い出(後半)

S君とゲーセンに行く約束をしてから、数日が経ち、当日の日曜日になりました。

私は、ゲーセンのデビュー戦なので、基本的にはただ見学をするつもりでした。

でも、(せっかく行くのだから、少しはプレイしたいなあ)と思い、考えた末に、
全財産500円のうち、200円をズボンのポケットにねじ込みました。

当時の業務用ゲームは、1プレイが50円だったので、4回のプレイが可能のはずです。

私は、「よし、すべての準備は完了したな」と最後の確認をし、大きく深呼吸をしてから
待ち合わせ場所の駄菓子屋に向かいます。

ゲーセンに行く事は、悪い事とされていたので、母親には内緒にしておきました。

弟には、「ゲーセンに行って来るぞ、帰ってきたら報告するからな。お母さんには言うなよ」と言っておきました。

私は期待で一杯だったので、約束の10時よりも10分も早く、駄菓子屋に着きました。

まだS君は来ていなかったので、待ちます。
S君は10時きっかりに現れました。

私はすぐに出発すると思っていたし、行く気満々だったのですが、
S君は「けっこう遠いから、腹ごしらえをしてから行こう」と言います。

仕方がないので、2人で駄菓子屋に入り、私は「チューチュー・キャンディ(20円)」を買って、チューチューと吸いました。

2人で駄菓子を食べながら、駄菓子屋の外でたたずんでいると、「スーッ」と中学2年生
くらいの人相の悪い人物が、自転車に乗って現れました。

この駄菓子屋の顧客は、私の通う小学校の生徒ばかりで、中学生はほとんど来ません。

私は、(中学生が来るなんて、珍しいなあ)と思いつつ、彼が自転車を止めるのを見守ります。

彼は着いた途端に、S君の顔をじっと睨み付けました。

S君にしか興味を示さず、自転車に跨ったままで、駄菓子屋に入ろうともしません。

私が(あれ? 知り合いなのか?)と思った時、いきなりその中学生は、

「おい、お前。俺と会った事があるだろう?」

 と、S君にガンを飛ばしながら、けんか腰で言うのです。

私はびっくりして、S君を見ました。

S君は、かなり動揺した表情を見せながらも、
「お前と会った事など、無い」と、強気に切り返しました。

いきなり非常に険悪なムードが漂う事態に、私はハラハラしました。

その中学生は、イラついた表情をしながら首をひねり、
「何処かで会った事があるんだがなあ」
 と記憶をたどる努力を20秒ほどしますが、思い出せない様子です。

そして、「おい、お前の名前を教えろ」と、S君に言いました。

S君は正直に、「○○だ」と本名を言いました。

私は、何かやっかい事に巻き込まれると、偽名を使う事が多かったので、
(本名を言ってるよ、大丈夫か?)と心配になりました。

中学生は、S君の名前を頭の中で反芻している感じで、何かを思い出そうと努力しながら、さらに1分ほどその場に居ました。

その間は、ずっとS君の事を、上から下までジロジロと観察し続けていました。

そうして結局は思い出せず、憎々しげにS君を睨みながら、去っていきました。

私は、中学生が居なくなるとすぐに、「あいつは一体、何なんだ?」とS君に訊きました。

するとS君は、顔をしかめて憎しみと軽蔑を込めながら、こう言いました。

「しばらく前に、これから行くゲーセンの辺りで、あの中学生に絡まれたんだ。

 俺と友達が自転車で道を行くのを、あいつが足を出して通せんぼしようとしたから、
 『短い足』とけなしたんだ。

 そうしたら、あいつに呼び止められて、名前を聞かれた。

 あいつは、あの時に俺の名前を聞いたのに、いま名前を言っても思い出せなかった。

 あいつは、バカだ。」

私はこの話を聞いて、(S君は、俺の知らない間に、不良になったのだろうか)と、
少し不安になりました。

私が同じクラスだった小学3〜4年生の時の彼は、生意気ではありましたが、根は真面目で悪ガキ・グループとも距離がありました。

彼は、口の悪い奴でしたが、けんかっ早いタイプではありませんでした。

(5年生になってから、付き合う友達が変わり、性格も変わったのだろうか…)と、
彼の将来が少し心配になりました。

思わぬ事件がありましたが、気を取り直して、ゲーセンに出発する事にしました。

私の知らない場所にあるゲーセンなので、S君の案内に任せて、付いていく事にします。

私は、自転車で5〜10分くらいの距離だろうと思っていたのですが、驚くことに
20分くらいもかかる遠い所への遠征です。

10分くらいすると、私が1度も行った事のないエリアに入り、全く道が分からなくなりました。

私は、(こんな所まで、S君は遊びに来ているのか)と、びっくりしました。

普通の小学生は、自分の学区域内は友達が居るので詳しくなりますが、学区域の外へは
子供だけではほとんど行きません。
夏休みなど、特別な時に1〜2回、遠征するくらいです。

この時に行ったエリアは、学区域から大幅に外れていました。

私は、(こんな所、来た事がない。大丈夫だろうか…)と、不安になってきました。

ゲーセンに向けて出発すると、私はごく自然に、
「これから行くゲーセンは、どういう感じなの?」と、並走しているS君に訊きました。

私としては、『どんなゲーム機があるのか』を知りたかったのです。

着く前に、軽く情報を仕入れておこうとした訳です。ごくごく軽い気持ちで、
この質問をしました。

すると、S君は待っていましたとばかりに、恐ろしいエピソードを次々と語り始めたのです。

これから行くゲーセンがどれだけ危険な場所かを、延々と説明し続けます。

私は心底から、びっくりしました。

彼は、私の反応を見ながら、脅かすような口調で、

「 これから行くゲーセンは、地元の不良のたまり場になっていて、危険な場所だ。

  絶対に油断するな。やられてしまうぞ。

  そのゲーセンは『チュウプラ』(中央プラザの略でしょうか?)と呼ばれているが、
  地元の不良に『チュウプラは何処ですか?』などと訊いたら、お前はぶん殴られて
  シメられてしまうぞ。

  チュウプラに行く小学生なんて、めったに居ない。すごく勇気のある奴しか
  行かないんだ。(ここだけ自慢調)

  危険な人でいっぱいだから、目を付けられないように、慎重に行動しろよ。 」

  と、真顔で言うのです。

話の途中で、何度も彼は、
「あそこは、本当に危険な場所だ」と、強調しました。

おそらく彼は、「俺は、そういう危険な場所に出入りしているんだぞ。どうだ、凄いだろう」と、言いたかったのだと思います。

彼は、私が驚く姿を見て、満足そうな表情をしていました。

でも、私はS君への尊敬心などまったく芽生えず、ただゲーセンに行くのが嫌になった
だけでした。

(この間の話と、ぜんぜん違うじゃないか。 聞いてないよー。

 そんなんだったら、もう行きたくないなあ。 危ないのは、ごめんだよ。)

 と、話を聞くうちに、どんどん帰りたくなってきました。

私は、危険なリスクを抱えてまで、ゲーセンに行く気はありませんでした。
だからこそ(高校生になったら、ゲーセン・デビューしよう)と思っていたのです。

完全に、想定外の事態になってきました。

いつもの私ならば、このような事態に遭遇したら、
「ごめん! 用事を思い出した!」
 と言って、一気にUターンをして帰ります。

私は、危機に巻き込まれてしまったら、皆と一緒に全力で戦いますが、あえて危険に
飛び込む真似はしない人間です。

この場面は、まだ誰も危機に陥っていないので、逃げても卑怯ではありません。
少なくとも、私の感覚ではそうでした。

私は、(帰ろうか)と何度も思ったのですが、実に残念なことに、
『帰りの道が分からないので、帰ろうにも帰れない』のです。

私の知らないエリアに入ってから、すでに5分くらい経っていました。

S君は近道を使っているらしく、細くて入り組んだ道ばかりを進んでいきます。
私は完全に、現在地が何処か分からなくなっていました。

Uターンして一目散に帰りたいのに、帰れない状況に、

(参ったな… 何という事だ…。 最悪の事態になってしまった…。)

 と、深い絶望感に襲われました。 

徐々に、目まいと吐き気がしてきたほどです。

S君は上機嫌で会話を進めていましたが、私は途中から顔面蒼白になり、
死傷率85%の戦場に赴く兵士のような、沈痛な面持ちになりました。

私はS君の後に、悲壮感を漂わせつつ、ノロノロと付いていきました。

やがて、問題のゲーセンに到着します。

そこは、やや古びた感じの、2階立てのコンクリートの建物でした。
けっこう敷地面積のある建物でしたね。

1階は関係ないお店で、1階の端っこにある細い階段を上ると、2階のゲーセンに到着します。

そこは、私のイメージしていた通りに、薄暗くて不気味な気配を醸していました。
悪い奴が居そうな臭いが、プンプンしていました。

昔のゲーセンは、本当に暗くてジメついた雰囲気をしていましたよね。

フロアーはかなり広くて、業務用ゲーム機がバラバラと50台ほど置かれています。

店内全体が暗くて、非常に見通しが悪かったですが、私は(危ない人はいないか?)と、
急いでフロアー全体を眺め回しました。

そうしたところ、日曜日とはいえ午前中だからか、5人くらいの客しかおらず、
見た感じでは危険な人も居ません。

さらに、店員らしき22歳くらいの若者が、1人だけですがカウンターの奥に座っていました。

私は、(良かった〜)と、かなり落ち着きを取り戻しました。

S君は、どれをプレイするか迷う素振りは見せず、やり込んでいるらしきゲーム機に座り、すぐにプレイを始めます。

私は隣りに陣取って、彼のプレイを見守りました。

私は不安に押しつぶされそうでしたが、ようやく味わうゲーセンを満喫しようと、
ゲームに集中しようと努力します。

でも、周りが気になって、どうしても集中できません。

誰かが階段を上がって、フロアーに現れるたびに、(危ない人じゃないだろうか)と気になって、ドキドキしながらそちらを見てしまいます。

私は緊張のあまり、S君のプレイ画面を見るよりも、周りを警戒する時間の方が長いのでした。

誰かが怪しい動きをしないかと、店内全体に絶えず気を配りました。

誰かが少しでも動きを見せると、(こいつが危険な人物なのか!?)と、緊張して様子を窺います。
神経のすり減る、過酷な戦いです。

緊張ゆえに、S君がどんなゲームをプレイしていたかの記憶は、一切ありません。

画面を見ていても、『心はそこにあらず』でした。

10分ほどすると、私は心労がかさんで、かなり疲れてきました。

S君はゲームに集中しており、私の行動は目に入っていません。

12分くらいが経ち、S君が2プレイ目を終えた時に、私はもう帰りたい気持ちで
一杯になっていたので、
「おい、そろそろ帰ろう」と、声を掛けました。

彼は、(お前は、アホか? まだ来たばかりだろ)といった、不審そうな目で私を見て、
「まだプレイし足りないよ。お前もどれかをプレイしたらどうだ?」と言いました。

私は、ゲームをプレイしようかとも考えましたが、(プレイに集中している間に、
万が一でもS君が帰ってしまったら、大変な事になる)と心配で、
ゲームをする事が出来ませんでした。

15分も経つと、帰る事しか考えられなくなりました。

そして、S君がゲームオーバーになる度に、「もういいだろう、そろそろ帰ろう」
と言い続けます。

彼はずっと「まだ、いいだろう」と言っていましたが、4プレイか5プレイを終えた
20分を過ぎたあたりで、
「分かったよ。じゃあ帰ろう」と言いました。

彼はまだゲームをし足りない感じで、不満そうな表情をしていました。

私がうるさいからプレイを諦めたのか、お金が尽きたのかは、分かりません。

帰れる事になったので、私は嬉しさでいっぱいになりました。

嬉しさの中でも、(いや、まだ安心は出来ない。外に出るまでは、油断はできないぞ)
と考えて、自分を戒め続けます。

一刻も早くゲーセンから去りたいので、名残惜しそうな彼を急かして外に出て、
すぐに自転車にまたがりました。

彼がノロノロと自転車の鍵を開けているのを見て、
(早くしろ、この野郎! ここがどれだけ危険な所か、分かっているのか!)
 と、イライラしました。

私は、ゲーセンから50mくらい離れた時に、ようやく緊張を解きました。

(危なかった… 何とか、生き延びることができた…)と、心からほっとしました。

私は、一気に元気を取り戻し、帰りの道中ではS君との会話を楽しみました。

でも、S君が「また、一緒にゲーセンに行こう」と言った時は、
思わず「ドキッ」としました。

私は冷静さを装いつつ、「う〜ん、考えておくよ」と答えて、やんわりと断ります。

でも心の中では、「2度と行くもんか! 絶対に行かん!」と叫んでいました。

ようやく出発点の駄菓子屋に戻った時には、激しい脱力感に襲われました。

私はすごく長い時間に感じていたのですが、時間を確認すると、まだ12時前でした。

S君は、「もう少し、一緒に遊ぼう」と誘ってきましたが、
私は疲労感があり、S君と早く離れたい気持ちもあり、
「今日は、もう帰る」と言って、すぐに家に戻ることにしました。

家に着くと、すぐに弟は「ゲーセンは、どうだった?」と聞いてきました。

私は答えようがなくて、困ってしまい、彼の質問を黙殺しました。

弟は、楽しい話を聞かせてもらえると思っていたようで、とても不満そうでした。

結局、この体験をした事で、私はゲーセンが苦手になります。
完全にトラウマが生じてしまいました。

中学生になると、「ファイナル・ファイト」と「ストU」という、業務用ゲーム史上の
傑作が登場して、何度も友達からゲーセンに行こうと誘われるようになります。

でも、私は1回も行きませんでした。

あの日以来、「ゲーセン」という言葉を聞くだけで、ドキッとして、冷や汗が出てしまうのです。

戦争からの帰還兵が、ちょっとした音や誰かの動作にも過剰に反応してしまうのと、
程度は違いますが同じです。

このトラウマからようやく脱却できたのは、20歳になる頃でした。

この出来事の後、私はS君を避けるようになります。
S君についても、ある種のトラウマになりました。

私は「もうS君とは関わらないぞ」と思っていたのですが、ひょんな事から彼と
その家族と一緒に出かけることになります。

それは、おまけとして次回に話したいと思います。

(続きはこちらです)

(2013年10月24日に作成)


エッセイ 目次に戻る