子供の頃の思い出F
焚き火・番外編A

自らが主催した焚き火を無事に成功させた事で、私は深い満足感を覚えました。

単に楽しい遊びをしただけではなく、『大きなミッションを成功させた』気持ちになり、マンガなどに出てくる「人目を忍んで活動し、人知れず大きな成果を上げているヒーロー」になったような気分になりました。

私を含めて4人全員がすぐに焚き火をやりたがったので、次の土日まで待たずに、
数日後に2回目の焚き火をする事になりました。

私たちは、学校を終えるとすぐに帰宅して、秘密基地で集合することに決めました。

よく憶えていないのですが、学童クラブが休みだったか、学童クラブをサボったか、
したようです。

学童はたまに休みの日があったし、親が家に居る日は行かなくてもいいので、「今日は親がいる」と言えばサボれました。

私と弟が秘密基地に着くと、すでにY君とA君がいました。

Y君はやりたくてしょうがないのでしょう、すでに枯れ枝・枯れ草を集める作業に着手しています。

基地には枯れ枝・枯れ草が置かれ始めており、Y君は忙しく移動をしながら甲斐甲斐しく
集め続けています。

(やる気があるなあ、Y君は)と、思わず感心しました。

Y君の献身によりすぐに準備が整ったので、さっそく火を付けます。

前回は初めてだったので弱火を維持しましたが、「今回はもう少し火を強くしてみよう」と私は考えていました。

順調に5分ほど焚き火を進めると、中火でいい感じの炎が上がるようになりました。

当然ながら弱火よりも盛り上がりますが、(ここらが限界だな)と私は判断します。

すでに基地(空き地)の余裕が無いほどに焚き火は広がっており、これ以上火を強くすれば周りの草に火が及んでしまう状態でした。

火のコントロールに入る段階になったため、私は薪の投入を減らすように指示しました。

そんな中、Y君は焚き火の魅力にすっかり有頂天になってしまい、火力を気にする事なく
どんどん集めてきたものを火に投入するようになります。

嬉しそうに顔を輝かせながら、両手いっぱいに集めてきた燃やすものを、ドサッと火にくべるのです。

弟とA君も、読み捨てられた本を持ってくるなど、そこらの燃えそうな物を手当たり次第に持ってきます。

前回とは全く違う、イケイケの空気になっている事に、私はやや戸惑いました。

私は、Y君ら3人が燃やす物を集めているあいだ、火の側に居続けて火力を監視していました。

リーダーとして火の番をしなければならない、と考えていたからです。

私が気になったのは、Y君の態度でした。

それまで見た事がないほどに情熱的に動き回り、危険なほどに燃えるものを次々と投入するので、「おいっ、気をつけて入れないとダメだろ」と注意しました。

ところが、どうも耳に入っていないようでした。

「ああ」などといちおう返事はするのですが、立ち止まる事もなく、すぐに燃やす物を
探しに行ってしまいます。

そして疲れて休憩したくなると焚き火に戻ってきて、大満足の表情で焚き火を観察し、
団扇で焚き火をあおぐのでした。

Y君は、人見知りの激しいタイプで、どちらかというと無口で大人しい奴です。

気の良い奴なので、私は大好きだったのですが、彼は感情を爆発させないタイプでした。

外で元気よく遊ぶタイプでしたが、いつも控え目でどこか周りの様子を窺うところがありました。

そんなY君が、かつてないほど興奮し、嬉々として躍動しているので、(本当に焚き火を
楽しんでいるんだな)と感じて、私はそれ以上Y君に何も言えませんでした。

(仕方ない、俺がきちんと火を見ていればいい)と思い、火が強くなりすぎると燃やす物の投入に待ったをかけました。

このまま監視を続けていれば良かったのですが、私もまだ若かったので、だんだんと厭きてきました。

焚き火を始めてから15分位すると、気分転換をしたくなりました。

そうして、(少しくらい火から離れてもいいだろ、俺も燃やせる物を探しに行こう)と、
すたすたとその場から離れました。

2分くらい雑草の茂みの中をぶらぶらして燃せそうなものを物色し、
のんびりと焚き火に戻っていると、弟が血相を変えて駆け寄ってきます。

そうして「大変だ! 火が周りに拡がってる!」と言うのです。

驚いた私は、走って焚き火の場所に向かいます。

すると、すっかり動揺しきったY君がおり、隣にいるA君が「Yが入れすぎて、火が周りの草に付いてしまった」と報告してきました。

焚き火を見ると、山盛りの状態で火力もかなり強く、基地のエリア(直径1mほど)からはみ出して、周りの雑草にも火が及んでいます。

(まずい!! このままでは火事になる。手を打たないと。)と私は思いつつ、
予期しない事態にショック状態で硬直しました。

私が3秒ほど硬直していたところ、Y君が驚きの行動に出ます。

「自分のせいだ」と完全にテンパっていたY君は、手にしていた団扇を使い、猛烈な勢いで焚き火をあおぎ始めたのです!

焚き火の前にウンチ座りをし、両手で持った団扇でもって、全力で「バサッバサッバサッ!」と大きな動作であおぐのでした。

おそらくY君にも風を当てるのは逆効果だと分かっていたと思いますが、動揺しきっていたので思わずしてしまったのでしょう。

「何とか誤魔化したい。火を見えなくしたい。」との想いが、必死の形相であおぐ彼から伝わってきました。

もしかするとY君は、ロウソクの火に息を吹きかけて消す様に、焚き火も大きな風を当てれば消せると思ったのかもしれません。

完全に意表をつかれて、呆然と5秒ほどY君の暴走を傍観していた私は、
さらに火が拡がっていくのを確認して我に返ります。

「ばか! やめろ!」とY君に言い、急いで止めました。

しかし時すでに遅く、煽られた火は一気に拡がり、周りの雑草たちにしっかりと移ってしまいました。

そのヘビーな光景に、私たちは完全に絶句し、そのまま10秒ほど何も出来ないまま立ち尽くしました。

もの凄い急展開で火事が進行していくので、把握するのに手間取りましたが、
どうにか10秒ほどで私は思考停止から立ち直り、頭の活動が復活しました。

そこで、3人に相談しようと、彼らの方を見ます。

すると3人は私の方を横目で見て、

「どうします? 逃げますか?」と、アイ・コンタクトで訴えてくるのです。

3人は完全にびびっており、出来る事なら今すぐここから逃げ出したいのがありありで、
思いっきり腰が引けていました。
決断するのも意見を出すのも無理なのが、全身から感じ取れました。

私は、3人に頼れないのを確信し、

(リーダーの俺が決断するしかない!  どうする? 火を消す作業にかかるか、
 それとも逃げるか。 どっちを選ぶ?!)

 と、心の中で絶叫しました。

本能的に、ここでの選択は非常に重要なものになると、直感しました。

そこで、かつてないほどの集中力を、身体が自動的に発揮します。

そうして2秒ほどの間、頭をフル回転させ、今までに得た智恵と経験を総動員して、
全力で思考しました。

あれほど凄い集中力で思考したのは、今世では初めてでした。

おそらく2秒ほどだったはずですが、頭の中ではかなりの記憶や情報が駆けめぐり、
体感では10秒くらいに感じましたね。

心の中でいきなり決心がつき(突然に回答がばっと頭に浮かんできた)、私はこう言いました。

「逃げちゃだめだ! 何とか消すんだ!」

この言葉を期に、3人も消火活動に気持ちがシフトしました。

この時の「消火する」という決断は、ある経験(ある意識)が大きく影響していました。

それは、『がき大将タイプが見せるいざという時の無責任さと、それに対する反感』です。

私と同じクラスや、学童クラブの先輩には、いつも威勢のいい事を言う「がき大将タイプの人間」がいました。

彼らはいつも偉そうな事を言い、リスクのある行動を取るのですが、問題が発生すると
真っ先に逃げてしまうのです。

そうして、弱い奴や不器用な奴や、普段は大人しいがいざという時には肝の据わる奴が、
尻拭いをしていました。

私はそういうのを何度も見て、

「なんてかっこ悪い連中なんだ。最低じゃないか。

 俺は、ああいう口だけの奴にはならないぞ。」 と強く決心していたのです。

この経験があったので、逃げれば逃げ切れる状況だったと思いますが(急いで逃げれば、誰にも見つからずに公園から出られたと思う)、それを選びたくなかったのです。

正直言って、私の判断では消火できるかは5分5分でした。

消せない可能性も充分にあると感じていました。

もし消せなければ、大人に見つかるか、こちらから大人に助けを求める事になります。

そうなれば、大変な事になるのは間違いありません。

要するに、私の決断は「状況判断」とか「利害得失」ではなく、『美意識』に基づいたものでした。

「逃げたらかっこ悪いじゃないか」、これです。

考えてみると、本当にいざという時になると、決断に与える『美意識』の影響は大きいと思います。

美意識の無い人だと、上記したがき大将タイプみたいに、情けない行動をしてしまうのだと思います。

話を戻します。

私が「消火をするぞ」と断固とした口調で伝えたので、他の3人も精神的に立ち直り消火モードに入りました。

私たちは、どうすればいいか意見を出し合います。

まず誰もが考えたのは、当然ながら「水をかける」でした。

それで水のある場所を探したのですが、この公園は整備されていないので、水飲み場がありません。

人家も少し離れており、そもそも人家にアクセスするのは最終手段です。

離れた場所まで行って水を汲む事も考えたのですが、バケツが無いし、時間がかかりすぎると判断しました。

次に出たのは、「フタをする」でした。

誰が言ったのかは忘れましたが、「炎は酸素が無くなれば消える。だからフタをすればいい」と発言したのです。

非常に科学的な意見(まだ学校では教わらない高度な知識で、本でぼんやりと知ったような話)だったので、「おおっ」と皆が感心しました。

急いで木の板を焚き火の上に置いたのですが、ほんの少し焚き火が弱まっただけで、周りの雑草に燃え移った火に関しては全く効果なしでした。

で、次に出たのは「砂をかける」でした。

これはY君が出したアイディアで、私は(砂で火が消えるのか?)と半信半疑だったのですが、実行してみるとかなり効き目がありました。

焚き火に皆で砂をかけると、一気に火の勢いは減退します。

私たちは、「こっちに砂をかけろ」「こっちの火の勢いが強いから、もっと砂が必要だ」などと言い合いながら活動します。

そして1分〜2分で、焚き火をほぼ消火できました。

しかしながら、周りの雑草たちには、うまく砂をかけられないのです。

地面から離れた高い所で燃えているため、砂をかけてもほとんど効果はありませんでした。

何とか大元の焚き火は処理しましたが、雑草たちにはまだ効果的な事ができていません。

このままでは、雑草から燃え拡がっていくのは明らかです。

私たちは、考えられる策を実行したのに消火しきれないので、焦ってきました。

極度の緊張状態の中での作業であったため、消火活動に入ってからまだ5分ほどしか経っていなかったと思いますが、徐々に集中力が落ちて、疲労も溜まってきています。

私は、(まずい…、このままでは消せないで終わる)と直感しました。

私は砂をかける作業の途中くらいに、『1つの策』を思い付いていました。

そして思い付いた瞬間に、「これは最後の手段だ。どうしようもなくなったら使おう。」と決断しました。

敗北の色が濃くなり、策が尽きてきた中、(行くしかないか、あれを。それでダメなら、
もう大人に助けを求めるしかない。)と決意を固めます。

手詰まり感が漂っているなかで、私は強い口調でこう言いました。

「小便だ! お前ら、小便をかけろ!」

私の気迫のこもったメッセージを感じ取った3人は、すぐに行動を起こします。

ところが、私にとって完全に当ての外れる事態になります。

3人はすぐにちんちんを出して小便をする体勢になったのですが、Y君はすぐに「シャー」と出し始めたのに、弟とA君はいっこうに出さないのです。

そうして弟とA君は、「さっき出したばかりだから、出ないよー」「緊張して出ないよー」と、情けない顔で訴えてきました。

私は思わずカッとし、「ばかやろう!!」と激しく叱責しました。

(この緊急事態に、なんて使えない奴らなんだ)と、深くイライラしました。

私としては、3人に小便を出させたうえで、後方から指示をするつもりだったのです。

的確な指示を下して、限りある資源(小便)を無駄なく消費し、効率良い鎮火に充てようと考えていました。

その目論見は、あっさりと崩れ去りました。

思わず2人を叱責しましたが、2秒ほどすると冷静さを取り戻して、(ちょっと待て、他人を非難している場合か?)と思い直しました。

そして、(俺が最年長なんだから、俺がやるしかない)と、気持ちに変化が現れます。

さらに1秒ほどすると、(くそっ、やってやる! やってやるぞ!)と、闘志がふつふつと湧き上がってきました。

私はズボンとパンツを勢いよく下ろすと、弟とA君をどかして、炎の前にさっと立ちました。

そうして小便を出そうとします。

しかし、緊張のために、出ませんでした。

目の前にコントロールの利かない炎があり、そいつにちんちんを持って対峙するという
シチュエーションは、想像以上のプレッシャーがありました。

私は目を閉じ、(集中しろ、小便を出す事だけを考えるんだ)と自分に言い聞かせました。

精神統一をはかり、無念無想の境地を目指したところ、2秒ほどで小便が「シャー」と
出始めました。

ほっとしましたが、そのまま集中を切らさないように心がけます。

油断したら出なくなるような気がしたからです。

小便の勢いを弱らせないように意識を集中し、小便をスムーズに出し続けながら、すでに小便を出して消火活動に従事しているY君に向かって、
「こっちを狙え」「よし、次はこっちだ」と指示をしていきます。

そして2人で、雑草についている火を狙って、小便をかけ続けました。

先に小便を出していたY君が10秒ほどで小便が出なくなると、私1人になりました。

そこで、Y君をどかして自由に動けるスペースを作り、カニ歩きで細かく位置を修正しながら、最適のポジションめがけて小便をかけました。

私も20秒ほどで小便が尽きました。

小便が尽きかけてくると心細くなり、何とか出し続けようと気張ったのですが、無いものは出ません。

普段通りに、全て出し尽くすと、あっさりと止まってしまいました。

出し尽くした脱力感から一息ついて立ち直り、火を確認すると、驚くことにほぼ雑草の火が消えています。

夢中で作業したから分からなかったのですが、小便により、雑草の火を5分の1くらいに
縮小することに成功していました。

私はホッとし、同時に(小便にはこんなにも消火力があるのか。普段ただ小便をトイレに流すだけでこの消化力を活かさないのは、もったいない気がするなあ。)と思いましたよ。

わずかに雑草に残っている火は、木の棒で叩いたり、足で蹴りをいれて消しました。

そうしてついに、無事に鎮火し成功したのです。

激闘の末に、ついに火に打ち勝ちました。

私たちは勝利感に酔いしれ、激しい疲労からぐったりとし、その場に佇みます。

一件落着のはずだったのですが、恐ろしいことに、この後にさらなる災難に巻き込まれることになります。

それは次回でお話しましょう。

(続きはこちらです)

(2014年8月10日、17日に作成)


エッセイ 目次に戻る