「ミュージカル レディ・べス」を観た
かなり良い、だが改善点もある
(2014.5.28~30.)

初演を日本で行うので話題になっているミュージカル『レディ・べス』を、5月22日に観てきました。

この作品は、エリザベートなどを手掛けたミヒャエル・クンツェさん&シルヴェスター・リーヴァイさんの新作です。

主役のベス(後のエリザベス女王)は、花總まりさんと平野綾さんが担当しています。

このような話題作の主演をまりさんが任されるのには、私も驚いています。

少し前までは半ば引退状態だった人が、復帰してすぐにこのような大作の主役をするとは…。

まりさんの実力を高く評価している私ですが、それでも驚くのだから、花總まりを知らない人だともっと衝撃があるでしょう。

正直に言って、キャスティングをした人は素晴らしいセンスをしていると思います。

で、すぐに観に行きたかったのですが、このところ忙しかったので、ようやく22日に観劇してきました。

「開演してから1ヵ月ほどが経過しているので、劇評もかなり出ているだろう」と思い、観劇の前日にはネットで、観劇した方々の感想文を10ほど見ました。

初演なので得体が知れないし、どういうストーリーなのかや、どこが見所なのかを、事前に把握しておいた方が良いと思ったからです。

その結果なのですが、意外にも低評価の人が多く、賛否がもろに割れていました。

「エリザベートやモーツァルトと違い、印象に残る曲がない」

「ストーリーに魅力がない」

「舞台セットや衣装はきれいなのだが…」

「再演されても、観に行かないと思う」

といった評価が多いのです。

私は驚き、「今回ははずれなのだろうか…」と少々心配になりました。

で、賛否が割れているし、「まあ観劇した上で、自分で判断するしかないな」と思いつつ当日を迎えたわけです。

そうして観劇した結果なのですが、『かなり良い作品じゃないか。曲も悪くない。でも、低い評価をつけた人の気持ちも分かるぞ。』と感じました。

私が感じた事を、できる限り精細に書いていきます。

ここで、いきなり話が少し脱線するのですが、今回の観劇では面白い事が起きたので書きます。

私が公演場所である帝国劇場に着き、自分の席に向かったところ、席にたどり着く間際に「村本さん」と声を掛けられたのです。

で、そちらを見ると、Aさんが居るのでした。

Aさんは、スピリチュアルの決定本とも言われる『神との対話』の勉強会を開いている方で、私も参加した事があり、「私の先輩」とも言える方なのです。

(私は、『神との対話』を素晴らしい哲学書だと考えています。

深く感動したので勉強会に赴いた事があり、そこでAさんと知り合いました。

この本について、私のウェブサイトでは専用の紹介ページを設けています。
興味のある方はご覧くださいませ。)

私が自分の座席を調べたところ、Aさんのすぐ後ろでした。

いきおいAさんとの会話が弾んだのですが、Aさんは「村本さんのホームページ(このウェブサイトのこと)を見たら、花總まりをすごく推しているので、観に来た」というのです。

凄く嬉しかったですねー(^-^)

それと同時に、このような方が他にもいるかもしれないと考えると、身の引き締まるような気もしました。

「どんな人が私のウェブサイトを見るか分からない、うかつな事を書けんなあ。私の記事で行動を決める人がいると考えると、責任を感じるなあ。」と思ったのです。

でも、正直に書かない記事ほどつまらないものはないし、そもそも嘘やお世辞を言えないタイプなので、誰の目を気にする事もなく、思いっきり自分の感じた事を書いていきますよ。

Aさんは母親と一緒に来ており、お母さんの方は宝塚のファンだという事でした。

お母さんも、とても良い方でした。
いいですねえ、親子での観劇って。

さて。
いよいよここからは、レディ・ベスの内容を書いていきます。

ちなみに、スーパー・ネタバレの記事になります。

最初に指摘しておきますが、『帝国劇場は音響がいい』ですねー。

響きが自然で耳が疲れないし、役者の声とバックのオーケストラのバランスも良いです。

結果的に、疲労を感じずに終演を迎えられました。

観劇前にぶらぶらと劇場ホール内を一回りしたのですが、この劇場は木を基調にしており、横壁には木板を大量に配置しています。

最近の新しい劇場は音響のひどい所が多いので、こういう劇場に出会うと嬉しくなります。

音響は、劇場の大切な要素の1つですが、ほとんどの日本の劇場建築家は重視していないと思います。

「よくこんなに大量の酷い音響の劇場を造れるなあ」と、逆に感心するほどです。

「お金をドブに捨てているな」と思う時すらあります。

基本的に、木を使ったシンプルな形の建築が良いと思うのですが。

鉄骨やコンクリートがむき出しの劇場やホールは、冷たい音がするので、私は嫌いです。

話を本題に戻しますが、この公演では、とても斬新な演出をしていました。

それは、次の2点です。

①幕を閉じての舞台転換はない

②舞台の中央に大きなナナメの置物があり、そいつを回転させる事で死角を作り、役者や小道具を入れ替える

この工夫により、ストーリーが途切れることなく展開していく感じを与えてます。

私としては好印象の演出でした。

最近は、話の流れ具合(スムーズな繋がり)を重視するからか、明確な舞台転換を入れずに、少しセットを変えるだけで場面の転換を意識させる演出が多いです。

それを推し進めて芸術性を高めたのが、今回の演出といえます。

音楽については、ネットで見た限りでは評判が良くなかったのですが、私は「エリザベートなどと同様に作りこまれた曲たちであり、良いんじゃないか」と思いました。

ただ、難しいコード進行の曲(転調が多い曲)ばかりなので、役者がきちんと音程を出せていない事が多かったです。

結果的に、良い曲に聴こえず、評判がいまいちなのだなと感じました。

世界初演のため、お手本となる人物も見い出せず(大抵の大作は海外から輸入されるので、海外ヴァージョンを参考にできる)、役者の大半は苦戦していましたね。

特に大勢で歌う場面では、音を外している人が何人かいて、きれいなハーモニーになっていません。

こうした点が改善されれば、良い曲との評価に変化すると思います。

「いくつかの曲は美しいメロディをしているし、役者がきちんと歌いきれれば、良い曲だと皆が認識するはずだ」

これが、曲についての総評です。

ストーリーについては、どことなく平板で詰まらない感じがあります。

私が思うに、この作品は様々な人物が登場しますが、圧倒的にレディ・ベス(エリザベス姫)が主役のお話です。

「ベスの成長を描く物語」と言っていいと思うのですが、ベスの1つ1つの行動に知的な感じがあまりなく、「賢く冷静なベス」という全体を通したメッセージと矛盾しています。

しょっちゅう動揺しまくるベスを描きながら、「やがて偉大な女王になるエリザベスは、若い頃から凄い人だったんだよー」と要所で語られるので、観客は首をかしげる状態になるのです。

ベスに訪れる様々な困難に対して、ベスが堂々と対処していく脚本になっていれば、矛盾が生じずにもっと見応えのあるものになりますよ。

この問題の解決法としては、脚本を大幅に変えるか、ベスを演じる役者がどっしりとした感じで演じていくかの、どちらかでしょう。

ここからは、各役者について評していきます。

まず主役の花總まりさん。

レディ・ベスを演じており、歌はいつも通りに素晴らしいのですが、演技そのものには違和感を持ちました。

というのも、彼女の演じ方だと、ベスが「落ち着きの無い、小心者」に見えるからです。

これは、すぐ前にも書いていますが、脚本のせいもあるでしょう。

ベスについては、教育係をしているロジャー・アスカムの評価を重視した方がいいと思います。

彼は歌の中で、「ベスは、聡明で、冷静沈着で、この国を救えるほどの人物なんだ」と力説していますが、これを基本路線で演じないと、ストーリー全体が破綻すると思います。

具体的に言うと、今の1.5倍の落ち着きを持って演じると、ちょうどいいと思います。
まりさんの今の演技は、1つ1つの事件に動揺しすぎであり、剛腹さが足りないです。

ベスはストーリーの中盤で死刑になる直前まで行くのですが、それでも心が折れない人物でないと、その後に立派な女王になる事に無理が生じます。

今の演技だと、すっかり心が折れてしまった様に見えるし、恋人のロビン・ブレイクに頼りきりに見えます。

歌唱力については、すでに相当なレベルにきていますね。

元々まりさんは、音程やリズム感がいいので、難曲でもきちんと歌える人です。

上記した方向で表現する感情を変えれば、さらに歌が聴き手の心に響くようになるでしょう。

次に、石丸幹二さんです。

彼は、ベスの教育係のロジャー・アスカムを演じています。

そうして、私は一番良い演技をしていると感じました。

彼の良い点は、役をきちんと把握している事です。
演技に無理がないです。

ベスを偉大な王にするために英才教育をほどこし、一貫してベスの力量を信じるアスカムは、ある意味では一番かっこいい役ですね。

アスカムの持つ知的な雰囲気を、石丸さんはしっかりと表現していました。

石丸さんは歌も良くて、太くて落ち着いた声で、歌詞が分かり易いし、音程にも不安がありませんでした。

次に、山崎育三郎さんです。

彼は、ベスの恋人となる、音楽家のロビン・ブレイクを演じています。

ブレイクは平民の出で、ベスは貴族階級なので、2人は禁断の恋をする事になり、いろいろと展開します。

で、山崎さんの演技ですが、悪くはないのですが、ぴんと来なかったです。

彼は、歌がいまいちです。
そのために、表現している事の半分くらいしか、こちらに届かない感じなのです。

やっている事の方向性は間違っていないと思うので、歌の精度を上げる事が大切だと思います。

次は、未来優希さんです。

彼女は、女王としてイングランドに君臨するメアリーを演じています。

それで、普通にセリフを言っている時は、実に素晴らしい演技でした。
メアリーの持つ貫禄や孤独さを、とても良く表現しています。

メアリーが持っているベスへの憎しみ(嫉妬)の感情は、とても伝わってきたし、的確な演技をしていると感心しました。

私は、彼女が宝塚歌劇団でやっていた時代も知っているので、そこから比べて「すげー演技が上手くなっているじゃないか」とびっくりしました。

ところが、です。

歌が始まると、一気に演技が大げさになり、ぐぅーとレベルが落ちてしまうのでした。

彼女は、「歌の場面でこそ自分の役を表現できる、ここがポイントだ」と感じているようですが、やりすぎです。

歌詞が聞き取りづらいし、ストーリーの流れから浮き出しています。

もっと落ち着いて歌えば、役の存在感はさらに増すでしょう。

もっとも、落ち着きすぎてもいけないので、バランスが重要です。

次は、古川雄大さんです。

彼は、スペインのフェリペ王を演じていましたが、かなり良かったです。

力を抜いた演技で、飄々とした感じを上手く出していました。

役柄が伝わってきたし、周囲と噛み合わない感じをとてもよく表現していました。

歌がやや弱かった(自信なさげだった)ので、それが改善すればさらに良くなります。

古川さんは、リズム感がいいですね。

踊りや歌でのノリが、他の役者よりも明らかに躍動しています。これは凄い長所だと思います。

最後に、和音美桜さんです。

彼女は、ベスの母親のアン・ブーリンを演じています。

アン・ブーリンは、すでに他界している状態で、霊的な存在として登場し、歌でベスを説得したり励まします。

そうして、歌が上手いので、なかなか良い感じでした。

「うむうむ、この歌ならベスが説得されるのも分かるなあ」と納得できました。

ただ、ものすごいエコーがかかっているためもあるのですが、頭の上の方をフワーッと抜けていく感じで、心に響く点でやや物足りなかったです。

聴き手の心に届ける力が、まだ少ないと思います。

この公演では、オーケストラの演奏も、まだ手探りな感じがありましたね。

遠慮がちというか、曲を把握しきれていないというか、後ろで大人しくしている感が濃厚です。

役者とオーケストラの出来が向上すれば、今の倍は見応えのあるミュージカルになると思います。

これからも各地で公演していくので、どこまで向上していくかが見物ですねー。


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