ビル・エバンスの「エブリバディ・ディグズ」

このアルバムは、ビル・エバンスの2枚目のリーダー作なのですが、とても完成度が高く、私は『エバンスの最高傑作の一つ』だと思います。

スコット・ラファロ(ジャズ界の伝説的なベーシスト)と共演しているアルバム以外では、一番好きです。

ビル・エバンスは、ジャズ・ピアニストの最高峰の一人で、白人のジャズ・ピアニストではナンバーワンの存在です。

彼は、マイルス・デイビスのバンドに参加して名を上げ、独立後にスコット・ラファロを加えたピアノ・トリオを結成して伝説となりました。

このアルバムの録音日は1958年12月で、エバンスがマイルスのバンドを辞めた頃の作品です。

ドラムはフィリー・ジョー、ベースはサム・ジョーンズが参加しており、「ピアノ・トリオ」で録音しています。

参加メンバーを、きちんと書いておきましょう。

ビル・エバンス(p)

サム・ジョーンズ(b)

フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds)

このアルバムが傑作になったのは、ドラムのフィリー・ジョーの貢献が大です。

私はフィリー・ジョーがジャズドラマーの中で一番好きなのですが、このアルバムで彼は最高のプレイをしています。

エバンスのプレイも、素晴らしいの一言です。

フィリー・ジョーのアグレッシブなプレイに影響されて、いつもよりも奔放で力強い演奏をしているのですが、最高に決まってます。

彼はキャリアの後期になると、麻薬の常習のためか、プレイにまとまりがなくなりました。
私は、キャリア初期の頃のエバンスが、はつらつとしてメロディアスなので好きです。

このアルバムは、全曲の完成度が高く、アレンジも凝っていて、何回聴いてもあきません。

しかし、素晴らしいアルバムなのに、知名度はとても低いです。

この状況を打破するために、ここで取り上げます!

内容は凄いのに知名度が低い理由は、この録音のすぐ後に、伝説として語り継がれている「エバンス+ラファロ+モチアン」のトリオが結成されたため、「エバンスが真価を発揮する前の録音」的な印象があるからでしょう。

そういえば、スコット・ラファロが事故死した後の、チャック・イスラエルが代わりに加入したトリオも、演奏内容は良いのに「ラファロのいないトリオ」的な低い扱いになってますね。

ラファロの居た時が凄すぎたために、その前と後は停滞期みたいな評価になっています。
とても残念な状況です。

ここからは、アルバムの中でも特に好きな曲を、いくつか解説していきます。

まずは1曲目の「Minority」です。
これが最高なんですよ! 

イントロから、エバンスとフィリー・ジョーは絶妙の絡み合いをしていきます。

エバンスとフィリー・ジョーは、とても相性が良いですね。
お互いの音を感じ合いながら、補完しあうようにプレイしています。

テーマ・メロディに入ってからも、2人はとても気持ちのいい絡みをしていきます。

曲のメロディのクールの響きもあり、研ぎ澄まされた感じのある、心地よい緊張感が漂っています。

テーマの後は、エバンスのソロが始まります。
曲調はクールな雰囲気なのに、リズムを強調したダイナミックなフレーズを連続させており、静かに燃え上がるグレイトなソロです。

この時期のエバンスには、強い躍動感があって、そこが私は好きです。

エバンスとフィリー・ジョーの絡み合いは、ピアノとドラムのソロ交換になると、絶頂に達します。

2人は交代でソロを取っていきますが、特にフィリー・ジョーのソロが素晴らしく、間を活かした(休符を活かした)フレーズは、何度聴いてもしびれます。

『フィリー・ジョーは、間を活かすのが神レベルに上手く、その点ではドラム史上でナンバーワン』だと、私は思っています。

その神技が、この曲のドラム・ソロで聴けます。
バネの効いたフレーズの数々を、ぜひ多くの人に楽しんでほしいです。

特に、バスドラムとハイハットの使いっぷりを、ぜひ聴いて下さい。
「なんてかっこ良いんだ!」と、叫びたくなりますよ。

このソロでのバスドラムのかっこよさの具体例をあげると、ソロ交換の中ほどで出てくる「タドドタ、タドドタ、タドドタ、タドドン、ンドドン、ンドドン、ンドドタ、タドドン」というフレーズです。

ドがバスドラム、ンが休符なのですが、ンドドンが続く所では、バスドラムしか使っていません。

『バスドラムだけで1小節以上を叩いてしまう』という、彼のセンスと勇気。
そして極めてシンプルなフレーズなのに、激しくスウィングするリズム感覚に、本当にしびれますねー。

この休符を活かしたセンスが、フィリー・ジョーなんですよー。

やや玄人的な話になりますが、『ソロ交換中、エバンスがソロを取っている間に、フィリー・ジョーが行うバッキング』も聴き所です。

最初はエバンスのソロに注目すると思いますが、慣れてきたらドラムを聴いてみて下さい。

特にスネアがかっこ良くて、「ンンタンンン、ンンタンンン」と裏拍で入れていくのが彼の特徴なのですが、彼にしか出来ない柔らかで即興的な感覚があり、私は痺れます。

テーマに戻ってからの、『ピアノのメロディ・アクセントに合わせて入れるバスドラム』も、鳥肌ものです。
ピアノと被っているので少し聴きづらいかもしれませんが、耳をそばだてれば大丈夫です。

このリズムパターンでバスドラムを入れるのは、激ムズなんですけど、フィリー・ジョーは余裕を持って、おしゃれにこなしています。

フィリー・ジョーは、どんな時も、おしゃれさを忘れない人です。

難しいフレーズを軽々とした感じでこなすのが、実にダンディですねー。

次は、3曲目の「Lucky to be me」です。

この曲は、ベースとドラムは参加せず、エバンスのピアノソロ曲になっています。

そうして、エバンスの音色の美しさ、タッチの繊細さが、最高の形で表現されています。

メロディの一音一音に、和声を次々とつけていくのですが、その展開が最高に感動的で、何度聴いても「本当に美しい、ビル・エバンス最高!」と思います。

この曲は、最初に聴いた時から、感動しっぱなしです。
エバンスの最高のプレイの1つだと思います。

テーマ・メロディの甘さと可愛らしさが、エバンスのタッチやフィーリングと良く合っていますね。

この曲の玄人的な楽しみ方は、『音の強弱の付け方を聴く』ことです。

音の強弱の変化によって、エバンスは全体のストーリーを見事に作り上げています。

静かにする所と盛り上げる所の流れがきっちりと練られており、ピアノ・ソロのお手本みたいな演奏です。

エンディングに入ってからが、また素晴らしいです。

エンディングの後半(曲の一番最後)における、ⅠM7とⅣM7の繰り返しは、美しく切ない幻想的な雰囲気をすっごく出しています。

こうした印象派的な響き(和音)の音作りは、ジャズではエバンス以前にはほとんどありませんでした。
エバンスがジャズ界に普及させたと言えます。

次に、4曲目の「Night and day」です。

イントロはドラム・ソロで始まるのですが、そこでのフィリー・ジョーのプレイからすでに味わいがあります。

リハーサル無しで録音したのか、かなりリズムがいい加減なのですが、フィリー・ジョーだとかっこ良くなるんですよねー。

この曲は、メロディとコード進行の美しさから多くの方が演奏しますが、メロディが間延びした感じでゆったりしています。
だから大抵の人は、甘い雰囲気で演奏するのです。

ところがエバンスは、ハードなタッチで、ワイルドに弾いています。

それが、めちゃくちゃかっこいいんです!

「いいセンスしてるなー。なるほど、こう演奏するかー」と、感心します。

エバンスのプレイでは特に、ドラムとベースが休んで、『ピアノだけで演奏する短いソロの部分』が、力強いタッチでぐいぐい迫ってきて好きです。

気迫のみなぎる熱いソロを展開しています。 ぜひ、注目して聴いてみて下さい。

そこでのエネルギー感には、聴く度に感動します。ジャズの創造的なエネルギーが凝縮されています。

気合が入りすぎて、最後にはリズムがずれてしまいますが、ご愛嬌ですね。

エバンスの後には、フィリー・ジョーも、かっこいいソロを叩いています。

彼は、細かい装飾フレーズの入れ方が、実に上手いです。
単に上手いだけでなく、共演者への配慮があるんですよね。 優しさがあります。

彼のドラムを聴いていると、「共演したら気持ちいいだろうなー」と思います。

次は、6曲目の「Tenderly」です。

この曲もスタンダード曲で、ステキなメロディとコード進行をしてますが、
エバンスは3拍子で弾いています。

これまた、すごくステキなアレンジで、私はTenderlyは3拍子のイメージが出来てしまいました。

エバンスは、最高にメロディアスで上品な、素晴らしいアドリブソロを弾いています。
最初から最後まで、全く無駄の無いソロです。

この曲もエンディングが凝っていて、最高に美しいです。

メジャーセブンス・コードで次々と転調していくのですが、美しく展開していくのを聴くたびに、「やるなー、最高のエンディングだよ。 やったな、エバンス」と感嘆します。

フィリー・ジョーは地味ながらも、センスあふれるバッキングをしていますね。

ハイハットだけで(ライド・シンバルやスネアを使わずに)、おしゃれにサポートしていくのを聴いていると、「さすがのセンスだなー」と感心しちゃいます。

次は、7曲目の「Peace piece」です。

これはモードの曲で、Cメジャースケールで最初から最後まで進みます。

コード進行でいうと、CM7-CM7-F/C-F/Gです。

この曲もピアノソロ曲ですが、実に深みがあります。

聴き所は、最初は音数も少なく、スケール内の音しか出していないのに、後半になって盛り上がるにつれて音数を増やし、スケール外の音を出して緊張感を高めていく『絶妙の流れ』です。

スケール(音階)外の音を増やす事で、だんだん無調的になっていくのですが、気持ち悪い響きならないのは音楽の素養を感じますねえ。

普通のピアニストが同じ事をすると、もっと破綻した気持ち悪いサウンドになってしまいます。

この曲でも、エバンスの音色は本当に美しいですねー。

さて。
最後になりますが、今まで全くふれなかった「ベースのサム・ジョーンズ」について書きます。

彼は地味ですが、素晴らしいリズムを出しています。

この人は、やや線が細いですが、良い音色をしています。
優しさとコクのある、やや渋みを帯びた音ですね。

彼はリズムが正確で、フィリー・ジョーが芸術表現(多彩なフレーズ)を追求しすぎてリズムが乱れた時に、献身的にサポートをしています。

フィリー・ジョーのリズムが乱れた時に、落ち着いてリズムをキープし、「これに合わせなさい」と訴えるような温かいリズムを出すのを聴くと、彼の愛を感じますねえ。

このアルバムは、飽きがこない味わいがあり本当におすすめです。

まだ聴いた事がない人は、ぜひ聴いてみて下さい。

(2012年7月下旬に作成)


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