ジェフ・ベックの「ワイアード」②

久しぶりの更新ですが、ワイアード紹介の後半スタートです。

まず、4曲目の「Head For Backstage Pass」です。

この曲は、CDを購入して出会った当時は、良いとは思いませんでした。
と言うのも、この曲は、ベックがいい感じでアドリブをしている途中で、尻切れトンボの様に終わってしまうからです。

テーマ・メロディもすごくステキなものではないし、全体として中途半端な印象がある。

だから私は、いつも飛ばしていました。

それから10年位が経ち、ワイアードをLPレコードでも手に入れて、久しぶりに全曲をじっくりと何回も聴く機会ができました。

そうして、この曲を聴いた2~3回目の時の事です。
「うげっ、このベックのアドリブソロは、半端じゃなくかっこいいじゃん。何で今まで気が付かなかったんだよ!」と、衝撃を受けました。

突然に、この曲の魅力に気付いたのです。

この曲は、前半は「イントロとテーマ・メロディ」、後半は「ベックのアドリブソロ」で構成されています。

で、何気なく聴くと、前半の印象の方が強くなります。
でも実は、前半はおまけで、『後半が主役』なのです。

この事実に気付くと、何となく単調な前半部分が「後半で盛り上がるための助走」と分かり、後半が尻切れトンボになるのも「いや、これでいいんだ。この曲は完成度よりも、一瞬のアドリブのきらめきに特化しているのだ」と納得できるのです。

イントロのベースソロ、それに絡むドラムがめちゃくちゃかっこいいので、前半が主役のような気がしてしまうんですよね。
トラップです、それは。

ここでのベックのアドリブソロは、「躍動感と、ぐいぐいと突き進む疾走感」がすばらしいです。
聴いていると、チャーリー・パーカーの音が思い浮かんできます。

ギターソロを聴いて、パーカーのエネルギーとダイナミックさを連想するのは、他ではウッドストックのジミヘンのプレイくらいです。
数あるベックのソロの中でも、最良のものの一つだと思います。

何で長い間、それに気付かなかったんだろー。時間を損をした気分ですよ。

このアルバムには、二人のドラマーが参加しています。
一人はナラダ・ウォルデン、もう一人はリチャード・ベイリーです。

私はベイリーの方が、リズムにリラックスしたものがあり、良い意味で音に隙間があるので好きです。

この曲ではベイリーが叩いていますが、バネの効いた、フレーズを入れすぎずに共演者を立てる、味のあるプレイをしています。

聴く度に、「いいドラマーだなー」と思います。

ベックのギターソロに入る直前には、ベースとキーボードがユニゾンで「ダラララ、ダラララ、ダラララ、ラ」とのフレーズを演奏します。

私は、この演出が心底好きです!

ここの所だけドラムが休むのもあって、とてもインパクトのあるメロディになっています。

この演出によって、その後に登場するベックのソロについて、「御大の登場です。みんな拍手で迎えましょう。」と、予告アピールしています。

このイカしたユニゾン・メロディの後に、ベックは「テュエェー」と音をスライドさせたフレーズで入ってきて、そこからギター・アドリブソロが始まります。

このスライドを使った登場の仕方も、「さあ行くぞ!」という感じがすごく出ていて、
とても好きです。

「テュエェー」とお洒落に登場した後には、「ンンタン、タンタラ、」とベックは軽やかなタッチでソロをスタートさせるのですが、
「イエー、行くぞー」との気持ちが聴き手に伝わってくる実に活き活きとした表情をしており、ジャッジーな雰囲気が出ています。

もしここでのベックのアドリブソロを聴いてもピンと来ず、「村本尚立さんの言っている事が、よく分からないなあ」と感じたら、音量をもっと上げて少しうるさい位にしてみて下さい。

そうすると音のダイナミックレンジが広がるので、演奏の表情が豊かに再生されて、ベックのソロが持っている「キレた凄み」に気付けると思います。

次は6曲目の「Sophie」です。

これが、いい曲なんです。とにかくテーマ・メロディが最高です。

前半の「静かで幻想的な世界」と、後半の「劇的に感情を爆発させたような世界」の対比が、実に見事です。

後半部分は、途中から8分の14拍子という変拍子になります。
でも、あまりそれが気にならないですね。

マックス・ミドルトンとベックのソロもあるのですが、私にとってはそれほど印象的なものではありません。

この曲は、「前半部分と後半部分の対比によるコントラスト」を楽しむ曲だと思います。
流れを楽しむといいと思います。

次は7曲目の「Play With Me」です。

私はこの曲が、このアルバムの中で一番好きです。
大大大好きなのです。

この曲は、ABC形式の曲なのですが、A・B・Cのそれぞれに異なる世界があり、次々に新しい世界に連れて行ってくれます。

イントロからして、めちゃくちゃかっこいいです。
マックス・ミドルトンのクラヴィネットが、ファンキーなリズムでリフを弾くのですが、音色もリズム感も最高で、ご機嫌な心持ちになります。

Aメロになると、ベックとヤン・ハマーがユニゾンでメロディを奏でていきます。
この二人の絡みが、スーパーすてきです。

美しいデュエットですねー。お互いに敬愛し合っているのが、伝わってきます。

Bメロに変わると、リズムが落ち着き、しっとりした雰囲気になります。

このAメロからの大きな変化が、実にすばらしいアレンジで、「効くー!」となるんです。

ここではメロディはハマーが担当して、ベックはリズム・ギターに徹するのですが、このバッキングが最高なんです。
ベックはリズム・カッティングが荒くて大ざっぱなのですが、なぜかスウィングしますね。

普通、リズム・ギターが上手い人は、手首を柔らかく滑らかにして、「シャカシャカ」と弾きます。
それに対してベックは、「ガキッ、ガキッ」と無骨に荒く弾きますが、それがかえって味になっています。

こういう「セオリーの対極を行って、それで最高のプレイをしてしまう人」を、人は『天才』と呼びます。

ベックは天才肌の人ですが、私は自分が演奏をした経験から思うのですが、
『人から何を言われても、自分の道を信じ続けて突き進む人』が、最終的には大成しますね。

セオリーやノウハウは、あくまでも「目安」です。
それに執着しすぎると、成長が止まります。

私は自分自身が他人の意見に執着してしまいスランプに陥った経験があるので、音楽を志す若者には「人から何を言われても、自分の道を貫け」と、ここでアドバイスいたします。

さて、Cメロに入ると、再びベックとハマーがユニゾンでメロディを奏でます。

ここのメロディは、非常に高音で演奏されるのですが、それが泣き叫ぶような雰囲気を醸して、Bメロから大きな変化をもたらします。

Cメロもすごく美しいです。幻想的でロマンチックな世界です。

この曲を熱く解説してきましたが、実はここからが本番なのです!
テーマ・メロディの後に始まるヤン・ハマーのソロが、天上のサウンドなのです!

ハマーは、A→B→Cと1コーラスに渡る、長いアドリブ・ソロをしていきます。(この曲には、ベックのソロはありません)
これが、とてつもなく凄いのです。

これまでずっと、ベックのソロのすばらしさを語ってきたので、少々言いづらいのですが、『ここで繰り広げられるハマーのソロが、このアルバムで一番のソロだ』と思っています。

ええ、そうなのです。
ベック名義のアルバムであり、ハマーはあくまでも「数曲のゲスト参加」なのですが、
『ハマーが一番かっこいいソロを叩き出してしまっている』のです。

ここで演奏されるハマーのシンセサイザーによるソロは、私が今世で聴いた「シンセで演奏されたソロ」の中で、ダントツに一番です。

ハマーはシンセ・プレイヤーのパイオニアの一人ですが、音を曲げる(ベンドする)テクニックが超絶的に上手いです。

ここまで絶妙にベンドを使用できるシンセ・プレイヤーは、他には知りません。
神技です。

彼は、独特の音色を持っていて、甘くふわふわ漂うサウンドです。
これに超絶レベルのベンド・テクニックが加わる事により、彼の音は『小鳥のさえずり』の様な世界を創り上げています。

聴いていると、「そこまで鍵盤楽器で歌わせるか! お前は超人か!」と思います。

鍵盤楽器をプレイしている人は、ぜひ聴いてみて下さい。
「鍵盤楽器でこのような表現が可能なのか」と、衝撃を受けると思いますよ。

ここでのハマーのソロは、最初から最後まで神がかっているのですが、特に好きな部分を語っちゃいます。なにしろ大好きなので。

BからCに移る所で、ハマーは「タララー、タララー、タララー、タララー、ラー」と上昇するフレーズを弾くのですが、泣きそうになるくらい美しいです。

最後の「ラー」はCの1小節目の1拍目なのですが、B→Cへの転調が最高のかたちで結実しています。
この「ラー」の音にはすばらしい開放感があり、スカッとした気分になれます。
すばらしいアイディアだと思いますねー。聴くたびに感動です。

そしてCに入ってからも、凄いフレーズがあります。
Cは1小節半+2小節でワンセットになっているのですが、これの3セット目に「ンンター、ターター、ターター、ターター」と少ない音使いで下降していくフレーズが出ます。

これが、ベックの奏でるメロディと絶妙のコントラストを描き、神秘的・宇宙的なエネルギーを放つのです。
きゃー、すてき。

ドラムはナラダ・ウォルデンが叩いていますが、このアルバムにおいて一番のプレイだと思います。
スウィングしていて、聴いていると身体が自然に動いてしまいます。

ハマーのソロのバックで叩き出すドラム・フレーズは、しびれる熱さです。

最後は、8曲目の「Love Is Green」です。

この曲は、とにかく美しいメロディを静かに堪能しましょう。
聴いていると、癒されるメロディです。

よく聴くと、実に凝った作りをしており、何拍子なのかが分かりません。

何と! こんなに複雑で凝ったこの曲は、ナラダ・ウォルデンの作曲です。
ドラマーの作曲だから、こんなに変わっているのですかね。

ここでは、ベックは珍しく、アコースティック・ギターを弾いています。
いい味を出していますね。

ベックはシンプルに単音で弾いているだけなのに、ちっとも飽きさせません。

通常だと、あまりいい音色じゃないアコギの場合(ベックの音色はあまり良くないです)、
シンプルに弾くと飽きてしまうものなんです。

なぜ、ベックだと飽きがこないのか。
「天才ジェフ・ベックだから」というのも正解なのですが、分析してみると『音のスライドを上手く使っているから』という事だと思います。

普通だと、アコギの場合はあまりスライド・テクニックを使いません。
アコギは、弦やネックが太いので、スライドをしづらいからです。

ベックは、ばんばんスライドを使います。これでもかという位に使います。
これによって、表情豊かな演奏にしているのです。

たぶんベックは、かなり細い弦を使用していると思います。
音色を犠牲にして、ニュアンスを出す方に特化しているのではないかと考えます。

すみません。ギター弾き以外にはさっぱりの話を、してしまいました。

以上のように、このアルバムは最高です。

出会った時からもう15年以上経ちますが、今でも聴くたびに「すげえー」と思います。
冷静に考えると、私にとっては「一生の宝物」なんでしょうね。

出会えた事に感謝します。

(2013年2月15日に作成)


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