ジョン・コルトレーンの「ジャイアント・ステップス」②

「ジャイアント・ステップス」の紹介記事の、後半です。

ここからは、残りの曲の解説をしていきます。

最初に、参加メンバーを書いておきます。

ジョン・コルトレーン(ts) トミー・フラナガン(p) ポール・チェンバース(b)

アート・テイラー(ds)

まず、3曲目の「Countdown」です。

この曲は珍しい事に、前半部分は、コルトレーンのテナー・サックスとテイラーのドラムの「デュオ」で演奏していきます。

ベースとピアノが休んでいるので、テナーとドラムがとてもよく聴こえます。

そうして、コルトレーンは「パラララ、ヒャラヒャラ」といつも通りですが、
テイラーがめちゃくちゃカッコイイのです。

イントロはドラム・ソロで始まるのですが、その時点からテイラーは素晴らしい。

彼のドラムは、軽い感じで柔らかく、カリスマ性とか凄みは無いのですが、歌心があります。

このアルバムは、録音状態が良くて、シンバルやスネアやタムタムの音がすごくフレッシュな音で録れています。

ドラムの1つ1つの音に、艶やかさがあるし、瑞々しさがある。

そのため、シンバルの「チンン、チンチ、チンン」というレガートを聴いているだけで、
美しい音色と活き活きした躍動感に、ワクワクドキドキします。

この2人は、ごく当たり前のようにデュオで熱く絡み合っていきますが、
ベース無しにジャズでリズムを合わせるのって、とても大変なんですよ。

ジャズは、お互いにアドリブでフレーズを作っていくので、ベースが支えてくれないと、
リズムがなかなか安定しないものなんです。

こんなにアップ・テンポで、ベース無しでさらさらとスムーズに演奏していく2人を聴いていると、「人間ですか?」との問いが、どうしても頭に浮かんできます。

『神との対話』的に言うと、神性(自分の魂)と一体になった、超絶意識での演奏ですね。
理屈を超えた領域にいかないと、こういう演奏は出来ないです。

彼らに「何で出来るんですか?」と尋ねても、「出来るから、出来るんだよ」との
答えしか返ってこないと思います。

さて、演奏の後半になると、フラナガンのピアノの和音が「タン、タン、タン」と入ってきます。

ここにきて初めて、「おおっ、こういう和音(コード進行)の曲なのか」と聴き手は気づきます。

コード進行をコピーしていないので確証はないですが、この曲も相当に難解なコード進行
のようですね。

フラナガンの弾く和音の響きの流れが、尋常でないです。

曲の終盤になると、ベースのチェンバースも「ドォドォドォドォ、ドォドォドォドォ」と、重厚な4ビートで参加してきます。

そして、それと同時にコルトレーンはテーマ・メロディを吹きます。

この曲は、『曲の最後に、テーマ・メロディが初めて出てくる』という、大変に珍しい構造になっています。

この時のチェンバースのリズムと存在感が、最高なのです!

「ついに主役が来たか!」と感じさせる位に、ダンディな雰囲気で登場します。

普通に4ビートを刻んでいるだけなのに、何なのでしょうか、このかっこ良さは。

テーマ・メロディもかなりお洒落なので、この曲を聴く時にはいつも、『最後のテーマ・メロディになるのを待ち構えて』しまう。

フラナガンのピアノが入ってくる辺りから、「あと少しで、あのかっこいい場面になるぞ」と、心を躍らせながら、チェンバースの登場を待つのです。

こうして改めて考えてみると、ポール・チェンバースって本当に凄い奴ですね。

聴き手に、出てくるのを心待ちにさせるベーシストなんて、音楽史上でもわずかでしょう。

次は、4曲目の「Spiral」です。

この曲は、アート・テイラーのドラムを聴きましょう!

私はいつも、ドラムばかりに耳を集中させています。

この曲は、定期的に

「タツーー、ツーータ、タツーー、ツーータ、タツーー、ツーータ」

 というリズム・フレーズが出てきます。

このフレーズが終わると、今度は通常の4ビートに移行します。

要するに、リズムが頻繁に変わるのですが、テイラーは最高にいかした感覚で、
リズムの変化を叩きこなしていきます。

4ビートの時に入れる、スネアの「ンタン、タンタ」とか「ンタタ、タタタ」との3連符も、見事なまでに歌っています。

私は、この曲でのテイラーは、彼のキャリアの中でもベスト・プレイの1つだと思います。

彼の良さである、軽やかなリズムや、小気味よいアクセント・フレーズを、こんなに堪能できる演奏はなかなかありません。

他の演奏者では、フラナガンのソロが良いです。

コルトレーンが激しいソロをとるのに対して、フラナガンは穏やかな優しいソロを展開します。
これが、とてもおしゃれです。

私の感性では、コルトレーンが頑張って激しく熱く吹いても、その後の美しいフラナガンのソロが始まった瞬間に、
「こっちの勝ち! こっちの方が深みがあるもん」
 と思い、コルトレーンのソロは忘れてしまいますねー。

ピアノ・ソロの後は、ベースのソロになります。

チェンバースはいつもの様に抜群のリズム感でソロを取っていきますが、
私はテイラーのバッキングを聴いてしまいます。

テイラーは、かなり先走りぎみのリズムで(ジャストのタイミングよりも早いリズムで)
叩くのですが、なぜかとてもベース・ソロとマッチするのです。

魔法です。 普通だと、ここまで先走るとずれてしまうのですが。

次は、7曲目の「Mr.P.C.」です。

タイトルになっているMr.P.C.とは、ベースを弾いているポール・チェンバースの事です。

作曲者のコルトレーンは、偉大なベーシストであり親友でもあるポールに、この曲を捧げたのです。

この曲は、マイナー・ブルース(短調のブルース)ですが、コードを増やして少し凝った作りにしています。

(コード進行については、おまけのページで詳しく説明します)

ここでは、とにかくポール・チェンバースが凄いです。

ウルトラ・スウィングしています。 「そこまでやるか!」という感じです。

これほどまでに、滑らかに音を出しつつ熱いエネルギーを注ぎこめるベーシストは、
他には居ません。

本当に神技だと思います。

曲のタイトルにしてもらって気を良くしたのか、いつも以上に気合が入ってますね。

私は、ジャズ・ベーシストでは、ポール・チェンバース、チャールズ・ミンガス、
スコット・ラファロの3人が、頂上だと思っています。

生演奏で彼らのプレイを聴いたら、たぶん涙を流すか、小便をちびるか、どちらかでしょう。

上か下から、液体が出ます。

この曲では、コルトレーンやフラナガンも素晴らしいプレイをしていて、
このアルバムでもベストと思えるほどのソロを取っています。

コルトレーンのソロは、メロディアスですてきなフレーズが沢山ある、聴き易いものになっています。

マイナー・ブルースは、かなり暗い感じがするので、私はあまり好きではありません。

でもこの演奏は、ジメジメしていないので、私でも楽しめます。
演奏の湿度が低いので、助かります。

最も好きなマイナー・ブルース演奏の1つですねー。

最後に、9曲目の「Naima」です。

Naima」は、6曲目にも収録されていて、そちらが「オリジナル・テイク」です。

この9曲目は、「別テイク」であり、CD化された時にボーナストラックとして加わりました。

要するに、コルトレーンやプロデューサーは、6曲目のヴァージョンの方が良い出来だと思い、そちらを採用したわけです。

で、レコードからCDになって、収録可能な時間が増えたので、おまけとしてこの9曲目も追加収録されました。

大抵の場合、「別テイク」はあまり出来がよくありません。

「やっぱり、オリジナル・テイクの方がいいね~」というパターンが、ほとんどです。

しかし! 今回はなんと! 別テイクの方が美しくステキなのです。

私は、こっちのテイクばかり聴いています。

このテイクの特徴は、『ソロをコルトレーンが取っている』という点です。

このソロがいいんですよ。
真実、感動的です。「泣く人もいるのではないか」と思うほどです。

タイトルになっているNaimaは、当時のコルトレーンの妻の名前です。

彼女に捧げる思い入れのある曲だからでしょう、コルトレーンはすばらしくスピリチュアルなソロを吹いています。

コルトレーンは、情感たっぷりに、音数をあまり増やさずに吹いていきます。

この『厳選した音を出している』ところが、いいんです!

音数を減らして、1つ1つの音を大事に吹くときの彼は、本当に最高です。

6曲目のヴァージョンでは、ソロは、ピアノのウィントン・ケリーがとっています。

私には、このケリーのソロが、ピンとこないのです。

こっちのコルトレーンのソロの方が、10倍くらい感動します。

エンディングも、こっちのテイクの方が、シンプルな作りで美しいです。

どうしてこっちを採用しなかったのか、不思議でなりません。

コルトレーンは、とてもシャイな人です。

「自分の妻に捧げる曲を発表するだけでも恥ずかしいのに、自分が熱く演奏するなんて
 恥ずかしすぎる。
 ケリーがソロを取るヴァージョンで出そう。」
 と思ったのでしょうか。

アルバムの紹介は、以上です。

この記事を作成するにあたって、アルバムを何度も聴き、コード進行をギターで調べる作業をしました。

そうして気付いたのですが、コード進行がえらく難しい曲ばかりです。

曲に合わせてギターを弾きながら、「こんなややこしい曲を、よくやるなー」と感心しつつ呆れました。

ほんと、コルトレーンは真面目な人ですねー。

調べたコード進行は、いつも通りに「おまけのページ」に書きます。

(2013年11月4日に作成)


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