セロニアス・モンクの「モンク・ウィズ・コルトレーン」②

「モンク・ウィズ・コルトレーン」①では、このアルバムが作られた背景と、このアルバムの特徴を書きました。

②では、アルバムの中から、特に好きな曲をいくつか紹介・解説します。

まず重要な事を伝えますが、このアルバムは『大きく分けると3つの演奏』に分けられます。

1  カルテット(4人編成)の演奏

2  7人編成の演奏

3  モンクのソロピアノ演奏

このうち、私が愛聴しているのは1です。

カルテットで演奏している曲は3曲あるのですが、それが好きなのです。
ですので、それを中心に紹介します。

まず、参加メンバーを書きましょう。

セロニアス・モンク(p)  ジョン・コルトレーン(ts) 

ウィルバー・ウェア(b)  シャドウ・ウィルソン(ds)

以上が、カルテット時のメンバーです。

この4人が、ジャズ・クラブ「ファイブ・スポット」に出演して、今でも伝説として
語られるほどの名演を繰り広げました。

このメンバーでは、「Ruby,My Dear」「Trinkle,tinkle」「Nutty」の3曲を演奏しています。

7人編成の時は、ドラムはアート・ブレイキーに代わり、

さらに、コールマン・ホーキンス(ts) ジジ・グライス(as) レイ・コープランド(tp)が加わっています。

このメンバーでは、「Off Minor」「Epistrophy」を演奏しています。

それでは、各曲を解説しましょう。

まず、1曲目の「Ruby,My Dear」です。

私は、この演奏が大大大好きなのです。

愛聴しているので、1週間に1回は必ず聴きます。 そして、聴く度に感動します。

このアルバムの中でも、傑出した名演だと思っています。

音に、魔法があります。 深遠なオーラが演奏をおおっています。

「Ruby,My Dear」はモンクの代表曲の1つで、同じ時期に、サックスをコルトレーンではなくコールマン・ホーキンスにして録音したヴァージョンもあります。

(それは、別のアルバムに収録されています)

私は聴き比べた上で、断然こちらのコルトレーン・ヴァージョンの方が優れていると思います。

モンクの曲は、コード進行の複雑な曲が多く、深いコード理解(音楽理論への精通)を必要とします。

私が思うに、ホーキンスのヴァージョンは、ホーキンスのコード理解が浅いのでアドリブに輝きや説得力がないです。

(音は外していませんが、活き活きとしたアドリブになっていないのです)

コルトレーンは、『研究者』と言えるほどに、音楽を探究するタイプです。
こういう、感性よりも地道な勉強を重視するタイプの方が、モンクの曲とは相性がいいです。

彼は、この難しいコード進行の曲で、自由自在にメロディをフェイクしたり、輝くスケール(音階)を紡いだりしています。
本当に見事だと思います。

この演奏の最大の特徴は、深い精神性があり、神聖なエネルギーを放っている事です。

世の中には、演奏を聴くと「どれだけ聖なるエネルギーがあるか」を計る人がいます。
それを評価の基準にする人もいるんですよ。

私はあまり演奏から聖なるエネルギーを感じる事はありませんが、この演奏からはビリビリと感じます。
その手の感覚に鋭い人だったら、涙を流すかもしれません。

あるオーディオ雑誌で、『あなたが天国に召される時に、バックミュージックにかけたい曲は?』との質問をゲストにしていました。

なかなか含蓄のある質問だと思いますが、私がこの質問に答えるなら、かけたい曲は2つあります。

1つは、この「Ruby,My Dear」。

もう1つは、アンドール・フォルデスの弾く、ドビュッシーの「亜麻色の髪の乙女」です。

両演奏ともに、心が洗われた気持ちになる、美しく優しく愛に満ちた素晴らしいものです。
神聖なエネルギーがあるし、心を落ち着ける力を持っています。

もっとも、私は『神へ帰る』という本を通して、
『天国も地獄も、自分の心の状態であり、天国はいつでも入れるものである』という真実を知りました。

ですので、今の私にとっては、上記の質問は意味を成しません。

とにかく、ここでの「Ruby,My Dear」は、私が生涯で聴いた音楽の中でも、最も感動的な曲の1つです。

ぜひ、多くの方に聴いてもらいたいです。

ここからは演奏を細かく解説しますが、まず好きなのは、

『コルトレーンがテーマ・メロディを吹いている時に、バックでモンクの入れるバッキング』です。

コルトレーンを導くかの様に、力強くモンクのバッキングが入っていくのですが、カリスマ性に溢れたダンディな音なんです。

特に、コルトレーンが音を伸ばしている時に、「ダン、ダン、ダン」と半音で上昇するコードを弾く所がたまりません。
本当にしびれるコード進行です。 (コード進行は、おまけで詳しく解説します)

この曲は、テーマ・メロディがとても美しいですが、そこに独特のピアノ・バッキングが加わる事で、ただ美しいだけでない充実感のある濃い曲に仕上がっています。

コルトレーンのサックスと、モンクのピアノの絡み方に、大注目してみて下さい。

テーマの後は、コルトレーンは1コーラスのソロを取りますが、素晴らしい出来です。

吹きすぎないで(音数を多くしないで)、ロングトーンやタメ(休符)をたくさん入れているのが、ポイントです。
タメを作る事で流れの中に緩む瞬間をもたせているので、音を「バババッ」と素早く連続させた時に「ググッ」と勢いがつきます。

コード進行にも、全ての音が完璧にフィットしています。

ほんと、最高のソロだなあー。

その次には、モンクの半コーラスのソロになります。

ここも、大好きです。
モンクらしい豪快なソロですが、優しさがあるんですよ。

途中に入ってくる彼のうなり声も、気迫を感じさせてグッドです。

モンクのソロが終わるとサビに入り、コルトレーンは「タララーーララーーー」と、
ゆったりした感じの優しいフレーズで演奏に加わってきます。

ここの所が、私は大好きなのです!

この時のコルトレーンの音は、込められているエネルギーがとても純粋かつ自然で、深い祈りを感じさせるスピリチュアルなものなんです。
清らかな愛を感じます。

実に残念な事に、私の持っているCD(モンク・ウィズ・コルトレーン THE COMPLETE)では、このエネルギーを感じ取れません。

LPレコードで聴くと、感じられるんですけどねー。

『レコード盤からはバシバシ感じ取れるミュージシャンの精神性が、CDだとほとんど感じられない』という事は、よくあります。

CDの音(デジタル・サウンド)は、まだまだ改善の余地がありますよ。

次に、2曲目の「Trinkle,tinkle」です。

この曲もカルテットの演奏で、すばらしい内容です。

テーマ・メロディがやたらと難しい曲で、聴いていると「よくやれるなあ」と感心します。

こういう曲を聴くと、「モンクはテクニックがあるなあ」と思いますね。

「モンクはテクニックに弱点があり、演奏が下手だ」という人もいますが、私は全然そうは思わないです。

モンクは、こういう複雑なメロディでも流れるようなフィーリングで弾けるし、何よりもいつでも音が粒だってはっきりと出ています。

音の粒立ちがすばらしいので、エネルギー感や強い説得力が生まれます。

楽器を演奏する方なら分かるでしょうけど、音をはっきりくっきり出すのは凄い技術が必要です。

モンクほどの明快な音は、他のピアニストに「出してみろ」と言っても、まず出来ないでしょう。

それにしても、この様なテーマ・メロディをよく考えられるなあと感心します。

頭にこうしたメロディが浮かぶのでしょうが、相当にキテいると思います。

私も作曲をした事がありますが、こんなとんがったメロディが浮かぶ事は1度も無かったです。

モンクの作曲の凄いところは、『とんがっているのに、ちゃんと秩序があること』です。

ギリギリのところまで追い込みますが、破綻しないようにきちんとカバーリングがされています。

ほんと、上手く出来ていますよ。 

テーマが終わるとコルトレーンのアドリブに入りますが、彼はバンバンと吹きまくります。

この曲は吹きまくるのが似合う曲なので、とてもかっこ良いです。

コルトレーンが熱く吹く中で、モンクは途中でバッキングを止めます。
この演出もいいですね。 

ピアノがいなくなる事で、空間が生まれ、コルトレーンの音が聴きやすくなります。

モンクのソロも、最高です。
原メロディを生かしながら、ワイルドに弾いていくのですが、音色にツヤや味があってすばらしいです。

お茶目な感じがあるのも、かわいくて好きですね。

モンクの後には、ウィルバー・ウェアのソロになります。
これもかっこいいです。

ウェアは、ベース・ラインが変わっていて、滑らかじゃない(音の跳躍が多い)独特のラインを弾きます。

これが、いいんです!

モンクのとんがった曲調に合ったベース・スタイルだと思います。

ウェアは、モンク・バンドに参加した沢山のベーシストの中で、最も独創的なプレイを見せたと思います。
モンクの音楽と非常にフィットしていたので、短期間しか在籍しなかったのは残念です。

次は、3曲目の「Off Minor」です。

これは、7人編成で演奏されています。

非常にクールな曲調で、ダークな感じもします。

コールマン・ホーキンスの温かいテナー・サックスが入る事で、適度に冷たさが緩和されているのがポイントですね。
上手い人選だと思います。

この曲は3管の編成ですが、その活かし方が、通常とはぜんぜん違います。

普通だと3管の場合、きれいなハーモニーを築けるようにアレンジするものです。
でもモンクはそういうアレンジに興味がないようで、とにかくテーマ・メロディが浮き立つように荒々しく仕上げています。

「センスが違うなー、さすがモンクだ」と思います。

テーマの後はホーキンス→コープランドとソロを取っていきますが、ソロよりもモンクのバッキングを聴いてしまいます。

「カーン」とか「カン、カン、カン」と硬質なニュアンスで入れてくるコード(和音)に、独特のダンディさを感じてしびれます。

モンクのソロも好きです。

聴き手を挑発するようなフレーズを、挑発的なリズム(タイミング)で入れてくるので、
「次には何をするんだろうか」とドキドキします。

彼のソロは、調子がいまいちだとうるさくなるのですが、このソロはとんがっていてもうるさくないです。
コンディションの良さを感じますね。

最後に、4曲目の「Nutty」です。

この曲は、再びカルテットで演奏されています。

コルトレーンのロング・ソロがあるので、そちらの印象が強くなりがちですが、私はモンクのソロが好きです。

ソロの2コーラス目では、モンクならではのコードを「カキーン」と連発するのですが、その響きのかっこ良さに「いいねー」と思わず頷きます。

モンクのソロでは、ウェアのバッキングも聴き所です。
とても独創的なラインを弾いています。

ウェアは、他のベーシストには無い「ニヒルさ」があります。
意表をつくラインを弾いて、「どうだ、付いてこれるかい?」と聴き手を試すような感じがあります。

このニヒルさが、モンクのサウンドにフィットするんですよ。

最後に、ドラムを叩いている『シャドウ・ウィルソン』について書きます。

彼はとてもシンプルに叩きますが、温かみのあるリズムをしており、私は好きです。

ウィルソンは、リズムをゆったりと出しますね。
トニー・ウィリアムスなんかの前のめりで攻撃的なリズムとは対極に位置します。

シンバルの音色が美しいのも、好きな点です。
引き締まったツヤのあるシンバル・レガート音には、いつも感心します。

彼がゆったりと叩く事で、バンド全体のバランスが取れて、聴き易いサウンドになっています。

コルトレーンは音数が多くて落ち着きのないスタイルだし、モンクは我が道を100%行く孤高の芸術家です。
そしてウェアもマイペースに独自の道をいきます。

だから、それをまとめる存在が必要なんですよ。

ウィルソンのドラム・スタイルは、他者を包み込むような大らかさがあり、目を引くようなフレーズを出す事もせずに黙々とリズムをキープします。

最初にこのアルバム聴いた時は、「ウィルソンのリズムは、少し遅れているのではないか」と思いました。
それ位に、他の3人の挑戦的なプレイに対して『冷静なリズム・キープっぷりが目立つ』のです。

そして、モンクとコルトレーンが真理を探究するようなシリアスな世界に浸っているのに、ウィルソンときたら能天気な少し間の抜けたような感じで、リラックスしきったリズムを出しています。

「他の3人が熱いプレイをしているのだから、それに付いていけばいいのに」とも思いました。

しかし、何度も聴いているうちに、「なるほど、これでいいのだ。ウィルソンまで挑戦的なプレイをしたら、バンド全体の響きがうるさくなってしまう。」と気付きました。

モンク、コルトレーン、ウェア、ウィルソンの4人は、お互いを補い合う関係を作っています。
特に努力しないでも良い関係性を築いている感じなので、『メンバーを集めてみたら奇跡が起きた』というパターンだったのだと思います。

良いバンドはみんな、メンバーが補完し合えるような構成になっています。

ウィルソンは、この録音の後しばらくすると、駅の階段から落ちて亡くなってしまいます。
殺されたのではないか、とも言われているようです。

ジャズ・ミュージシャンは、麻薬がらみのトラブルで殺されてしまった人が何人かいます。
本当にもったいないと思います。

最近のジャズ・ミュージシャンはクリーンな人が多いですが、すばらしい事ですよ。

(2013年12月24~25日に作成)


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