チャーリー・パーカーの「オン・ダイアル Vol.4」②

チャーリー・パーカーの傑作アルバムである「オン・ダイアル Vol.4」の紹介ページ、後半です。

ここからは、残りの曲を解説していきます。

最初に、参加メンバーを書いておきます。

チャーリー・パーカー(as)  マイルス・デイビス(tp)

デューク・ジョーダン(p)  トミー・ポッター(b)

マックス・ローチ(ds)

まず、5~7曲目の「Dewey Square」です。

私は、この曲が大大大好きなのです。

パーカーの作曲の中でも、特に好きな曲ですねー。

具体的に「どうしてそこまで好きなのか」と言うと、『適度な哀感』があるから。

これは、パーカーの演奏では大変に珍しい事なんです。

パーカーは天才的なミュージシャンで、音に様々な表情を込められるマジシャンでしたが、おそらく性格に起因すると思われますが、あまり「切なさ」とか「寂しさ」を表現しない人でした。

彼は、誇り高い人物だったため、演奏においてはいつでも格調高さや毅然とした態度を崩さない人でした。

プライベートでは数々の弱みを見せた瞬間のエピソードが証言されているし、彼は弱い部分をたくさん持っていた人でしたが、ステージ上や録音ではそれを見せていません。

唯一つ弱みを見せてしまった録音が、かの有名な『ラヴァーマン・セッション』ですが、パーカーはその録音を毛嫌いし、「あの録音は、発売するべきではなかった」と言い続けていました。

彼はその誇り高さゆえに、演奏において自分の弱い部分をさらけ出すのを、好みませんでした。

そうした強気でストイックな姿勢が、彼のかっこいい所なのですが、芸術には弱さや切なさも重要な要素です。

この「Dewey Square」は、パーカーの作曲では珍しく「切なさ」に溢れたメロディをしており、アドリブでも長調の曲にも関わらず「短調的な響き」があります。

そのため、この曲でのパーカーのアドリブは、彼としては本当にレアな事ですが、『泣きのフレーズ』が頻発します。

私はそこに、深く魅かれるのです。

日本人は全般的に、「切なさ」とか「うるおい」とか「愁い」を好む気質があります。

私にもこの気質があるようで、パーカーとしては異色なこの曲に、激しく心を動かされます。

この曲を初めて聴いたのは23歳の時でしたが、一聴してすぐに惚れ込み、さっそくギターでコピーを開始しました。

この曲は、3テイクが残されていますが、その3テイクすべてのパーカーのプレイが大好きになったので、全てのテイクのソロを完全コピーしました。

私は、パーカーのアドリブは、大抵は覚えていて一緒に歌えますが、この曲もそうです。

この曲のパーカーのソロは、大好きだし、頑張ってコピーもしたので、いつも聴く度に意識せずとも一緒に歌ってしまいます。

この3テイクでのパーカーのソロは、本当に美しいし、音楽史上で見ても屈指のアドリブだと思います。

パーカーの全アドリブの中でも、最も好きなものの1つですね。

要所で醸される哀感が、たまりません。

そして、それぞれのソロに個性があって、連続して聴いても飽きがこないです。

ぜひ、3テイクの全てを、じっくりと聴いて下さい。
その切ない雰囲気と、パーカーの創造的なアドリブの素晴らしさに、ノックアウトされると思います。

私はこの曲が大好きなので、パーカーがライブで演奏しているのを探してますが、見つかりません。

彼にとっては、やはりこの曲は異色であり、あまり馴染まなかったのでしょう。
ライブのレパートリーには入れなかったのでした。

この曲では、マイルス・デイビスとデューク・ジョーダンのソロも、とても良いです。

2人共、美しいメロディを創造していますよ。
パーカーが素晴らしいソロをとっているので、それに触発されています。

次は、10~12曲目の「Bird Of Paradise」です。

これは、スタンダード曲の「All The Things You Are」のコード進行を使って、パーカーがアドリブを繰り広げる演奏です。

彼は、「All The Things You Are」本来のメロディも混ぜつつ、大胆なフレーズを連発して、スケールの大きなアドリブをします。

かなりスローなテンポで、夜を思わせる暗い雰囲気の曲なのにも関わらず、彼は抑えた表現にはしないで、攻撃的なフレーズを次々と出していきます。

この硬派で常に全力投入なのが、パーカー・スタイルです。

この曲はコード進行がかなり難しいのですが、パーカーはスムーズにアドリブを展開し、簡単なコード進行の曲だと聴き手が錯覚するくらいに、自然な流れでメロディを創造します。

彼は、コードとコードを繋ぐのが、信じられない位に上手いんですよ。

かなりの音数を使って、次のコードへの道を敷くのです。

この繋ぎのフレーズをバンバン入れるのも、パーカー・スタイルです。

この曲については、私は最初は好きではありませんでした。

自分がこの曲を演奏して、原メロディやコード進行を知ってから、ここでのパーカーのアドリブの素晴らしさを理解できるようになりました。

けっこう敷居の高い曲なのかもしれません。

転調が多い曲なので、全体像を掴みづらいんですよね。
バンバン転調するので今いるコードを把握しづらいのですが、把握できないと迷子になってよく分からないままに曲が進んでしまいます。

コード進行を知ると、「このコードを、こうやって解決するのか!」とか、「えっ! そういうフレーズをここで出す!?」といった、驚きを経験できます。

パーカー・マジックを、より堪能できます。

ピアノやギターを演奏できる方は、パーカーのアドリブに合わせてコードを一緒に弾くと、より深く理解できますよ。

「上手く解決するなあー」とか「おおっ! そう来るか!」などと、盛り上がれます。

最後に、13~14曲目の「Embraceable You」です。

この曲は、「テイクA」と「テイクB」の2つのヴァージョンが収録されています。

そして日本では、「テイクA」が圧倒的な名演とされています。

でも私は、『テイクBの方がかっこいい』と思います。

テイクBの雄大で挑戦的なフレーズの数々は、何度聴いても感動します。

このテイクは音質も良くて、パーカーの艶やかな音色がしっかりと聴き取れる。

Aの方が良いとされているのは、著名なジャズ評論家の方がテイクAをべた褒めしたからです。

それ以来、テイクAばかりが注目されてきたわけですが、非常にもったいない状態だと思います。

ぜひ、テイクBも聴いて下さい。まじに凄いです。

パーカーについては、『最初のテイクが一番すごい』というのも、日本では常識になっていると思います。

これもジャズ評論家の方が言い出した事で、「パーカーはインスピレーションに任せて演奏する人なので、最初のテイクが最も良く、後のテイクになるほどクオリティが落ちる」とされています。

私は、数多くのパーカーの録音に接しましたが、これは明らかに当たっていません。

このアルバムでも、今まで書いて説明してきたように、後のテイクの方がかっこいいものがあります。

パーカーの凄い所は、『どのテイクにも創造性が溢れていること』なんです。

つまり、同じアイディアの繰り返しが無い。そして出来に波がない。

パーカーは、ライブを録った海賊版を聴くとけっこう波があるんですよね。
守りに入らないチャレンジャーだし、酒と麻薬に溺れているので体調に落差があるし、共演者も一定していないからです。

そういう出たとこ勝負な所も魅力なのですが、スタジオ録音だと波がありません。

おそらく彼は、ライブで色々と試して「これはぶっ飛ぶぜ」と思った決めのフレーズを沢山ストックしておき、それを後世に残るスタジオ作で発表しています。

もちろんその瞬間に生み出されるフレーズもあるが、単なる即興の連なりではあれほどの完成された美にはならない。
私はそう分析してます。

パーカーのスタジオ録音は、どれもライブ活動の中で練られた極めつけのアドリブばかりで、各テイクに本質的な上下は無く、評価は聴き手の好みで変わると思います。

ですから、全テイクの網羅されている『完全版』を聴くのが、とても重要です。

ここでのパーカーは、テイクAとテイクBでは、大幅に表現を変えています。

端的に説明すると、Aでは繊細さとブルーなムードを重視し、Bでは力強さと大胆さを重視しています。

同じ曲で、ほぼ同じテンポなのに、全く異なる表現に挑み、完璧に仕上げてしまうその力量には、ただただ脱帽です。

こんな事ができた人は、人類史上でもわずかです。

ベートーベンやモーツァルトは、即興演奏家としても有名だったし、同じ曲でも様々な表現・表情で弾けたそうです。

パーカーは、こういったクラシックの大家と並ぶくらいの、音楽の能力を持っていたと思います。

ぜひこの曲で、人類史上でもトップクラスのミュージシャンの、創造的な即興演奏に触れてみて下さい。

この曲では、デューク・ジョーダンのイントロも、最高です。

メロディが美しいし、音色と醸しだす雰囲気にも味わいがあります。

この当時に、パーカー・バンドの音楽監督を任されていたマイルス・デイビスは、

「デューク・ジョーダンは、コードの理解が浅く、しょっちゅうミスをしていた。

俺は何度もパーカーに『他のピアニストに替えろ』と進言したが、あいつは受け入れなかった。

バド・パウエルやジョン・ルイスを雇った方が良かったのに…。」

と、悔しそうに回想しています。

マイルスにはジョーダンの良さは分からなかったわけですが、パーカーはジョーダンを気に入っていました。

私が推測するに、パーカーは『イントロやバッキングが上手く、あまり表に出てこないピアニスト』が好みだったのだと思います。

バド・パウエルとジョン・ルイスは個性が強くて、前に出てくるタイプです。

彼らが参加したパーカーのアルバムもありますが、それを聴くと全体のクオリティは上がっているが、パーカーのアドリブだけに集中できるしっとりした雰囲気になっていません。

もし彼らがこのアルバムに参加していたら、パーカーはここまで落ち着いた心理状態でアドリブできなかったでしょう。
特にバドは、ソロイストを煽り立ててくるからね。

ジョーダンは、確かにコードの理解がいまいちですが、繊細なタッチとニュアンスを持っていて、ソロイストを邪魔しません。

そして、イントロの名手であり、数々の名イントロを残しています。

付け加えると、この録音の1年ほど後に、ジョーダンの後任としてパーカー・バンドに参加したアル・ヘイグも、繊細なタッチのバッキングとイントロの上手さが際立つ人です。

ジョーダンは、紹介してきた「オン・ダイアル Vol.4」の次作品である「Vol.5」でも、素晴らしいイントロを連発しています。

彼は、ジャズ史でも特筆されるくらいの、『イントロの名手』ですよ。

ついでに言うと、次作品の「Vol.5」も本当に素晴らしい作品です。

私は、パーカーのダイアル時代の演奏は、「Vol.4」と「Vol.5」がベストだと思います。

「Vol.5」も大好きなアルバムなので、そのうちに紹介ページを作ります(^-^)

(2014年2月11日に作成)


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