クリフォード・ブラウンの「メモリアル・アルバム」②

ここからは、アルバムの後半部分を紹介・解説していきます。

まず参加メンバーですが、トランペットのクリフォードと、ベースのパーシー・ヒース以外は前半のメンバーと異なります。

ジジ・グライス(as)  チャーリー・ラウズ(ts)  ジョン・ルイス(p)
アート・ブレイキー(ds)

これが、新たに参加しているメンバーです。

正直に言って、グライスとラウズは、特に印象に残るプレイをしていません。
私の文章では、スルーします。

後半のセッションは、みんながかっこ良いプレイをしていた前半のセッションとは、
色合いが違います。
クリフォードに焦点を絞って聴く、セッションですね。

まず、10曲目の「WAIL BAIT」です。

この曲は、誰の演奏がいいというのではなく、曲のメロディがすばらしいです。

難しいコード進行なので、みんな苦戦しており、あまりいいアドリブはありません。

しかし、イントロ部分からしゃれたアレンジがされており、テーマのメロディが落ち着いていてお洒落なので、聴いていると心が安らぐんです。

作曲者のクインシー・ジョーンズは、後にマイケル・ジャクソンなどと組んで有名になった人ですね。

この曲では、ジョン・ルイスのピアノがすてきです。
彼のピアノは、独特の落ち着きと美しいタッチがあるのですが、それがこの曲の雰囲気とマッチしています。

次は、13曲目の「Cherokee」です。

この曲は有名な曲なので、知っている方も多いと思いますが、演奏する側からすると、コード進行が複雑でなかなかの難曲です。

その難曲を、クリフォードは超アップテンポで演奏します。

このテンポ設定は、この曲のコード進行を使って演奏した、チャーリー・パーカーの「Coco」というヴァージョンを意識したものだと思います。
Coco」と同じ位のテンポで、演奏しています。

Coco」は、『チャーリー・パーカー・ストーリー』というアルバムに入っている、パーカーによる伝説の名演奏です。

パーカーは「Coco」において、Cherokeeのコード進行を使って、超アップテンポの凄まじいアドリブ演奏を見せつけました。

それまでのジャズでは、そこまでテンポの速い演奏はなくて、パーカーのアドリブが完璧といえるクオリティだった事もあり、ジャズ界に衝撃を与えました。

Coco」はジャズ史上の名演奏の一つで、普通のミュージシャンは1回聴くだけで、
「これは、神の演奏です。真似できません。」と、完全降服をします。

それに挑戦をするなんて、さすがクリフォードですよ。

その挑戦した結果なのですが、正直に言うと、いまいちの出来です。

パーカーのヴァージョンと比べるからもありますが、フレーズのひらめきにも、リズムの正確さにも粗さがあります。

ですが、トランペットはサックスに比べて、素早いフレーズを吹くのがはるかに難しいんです。
トランペットでここまで速いテンポでプレイをし、ちゃんと正確な音程が出ているだけでも、実は凄い事なんですよ。

「チャレンジしていまいちの出来ならば、単なる失敗だったのか?」と思われそうですが、待って下さい。

実はこの曲では、もっとテンポを落として演奏した、「別のテイク」があります。

そして、そのテイクがすごくかっこ良いのです!

その別テイクが、17曲目の「Cherokee」です。

多分これは、練習テイクだったのだと思います。

途中でドラムとのソロ交換があるのですが、意志の疎通がうまく行かず、ドラムが最初は入ってきてくれません。
演奏全体を通して、「とりあえず演奏してみた」感が濃厚です。

ジャズでは、『本番直前の練習演奏を、いちおう録っておいたが、凄い演奏だったので後に発売してしまう』という、反則みたいな事がたまにあります。

ここでのクリフォードは、テンポが遅くて余裕があるからですが、しっかりとコードに対応をしたフレーズを吹き、リズムもほとんど乱れません。

コード進行を知らない人でも、聴き比べた時に、こっちのテイクの方が安定感やメロディの美しさがあると、何となく分かると思います。

私は、この曲が難曲だと知っているため、クリフォードが難しい部分を上手くしのぐたびに、「よーし、いいぞ。その調子で、音を外さないで行くんだぞ。」と応援しちゃいますねー。

それにしても、トランペットでここまで自由自在にメロディを即興的に吹けるなんて、やっぱり凄いです。
人類史上でも最高のトランペッターの1人ですよ。

最後は、14曲目の「Easy living」です。

この曲もスタンダード曲であり、多くの人が演奏しています。
メロディが美しく、とてもすてきな曲です。ロマンティックな世界がありますね。

私は、「Easy living」の演奏は、このクリフォードのヴァージョンが一番好きです。

この曲は、メロディに跳躍が多いので、滑らかにメロディを歌いあげるのが難しいのです。

でもクリフォードはスムーズに吹きこなし、さらにメロディの跳躍を上手く活かして、ダイナミックかつスリリングなものに仕上げています。

元のメロディを活かしつつ、そこに緊張感を生み出すリズミックなフレーズを加えていく、センス溢れるソロを聴いていると、
「クリフォード、お前は天才だ。 何であんなにも早く死んでしまったんだ。」と切なくなります。

スローテンポの演奏を、この演奏のようにスリル溢れるプレイにするのは、実はかなり大変なんです。

スローテンポで演奏する場合、くだけた演奏にするのは、何となくそれらしい雰囲気を出せば誤魔化せるし、それほど大変ではありません。

しかし、緊張感を表現しつつ甘いムードも出す、深みのある演奏に仕上げるには、フレーズに無駄の無い構成が必要になります。

パーカーやマイルス・デイビスのようなバラードの上手いプレイヤーは皆、ソロに構成力があり、無駄な音を出しません。
ここでのクリフォードも、無駄な音は全くありません。

ソロの途中で一時的に倍のテンポにするアレンジも、見事ですよ。

最後のまとめになりますが、彼くらいにスケールの大きいトランペッターは、彼の後には出ていません。

最近のジャズ・トランペッターには、この時代のトランペッターにあった「気迫」が無いですね。

今思ったのですが、ジャズ・トランペットに一番必要なのは、もしかしたら気迫かもしれないです。
昔のプレイヤーには、音自体に説得力がありました。

クリフォードが吹いている映像を見た事がありますが、身体全体で音を出しているという気迫がビシビシ伝わってきました。

極端に言うと、重量挙げの選手がバーベルを持ち上げている時くらいに、全身に力を漲らせていました。

そこまで力を込めて演奏するトランペッターを、他に見た事がなかったので、「おおっ!」と驚きましたよ。

マイルスやディジー・ガレスピーもそうなのですが、昔のプレイヤーは音を出すときに「うおりゃあ!」という感じがあるところが、私は好きなんです。
音に力を込めているのが、映像で見ても伝わってきます。

これは、最近のトランペッターには、ほとんど見られない絵です。

(2012年11月18日に作成)


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