なでしこジャパンのW杯4戦目、その感想
今まででベストのサッカーをした
(2015.6.25.)

昨日に、なでしこジャパンはW杯の4戦目となる、「対オランダ」の試合をしました。

女子サッカーW杯は決勝トーナメントに入り、いよいよ佳境を迎えています。

なでしこジャパンは2対1で勝利しましたが、間違いなくここまででベストの試合ぶりでした。

なでしこジャパンの歴史の中でも、かつてないほどに、素晴らしいパス・ワークを見せていましたね。

「この試合内容を続けられば、ドイツ以外なら問題なく勝てるし、ドイツとも互角の闘いができる」

これが私の率直な感想です。

私は前回の日記(6月20日の日記)で、『サイドMFやサイドバックは、相手陣地の深いエリアでフリーでボールをもらった時は、味方がペナ内に2人以上いるならば、1タッチですぐにセンタリングを上げたほうがいい』と指摘しました。

これが、見事に実践されており、感動しましたよ。

私の予想通りに、素早い展開に相手DFは対処できず、次々とチャンスになりました。

これまでの日本は、センタリングを上げるのが遅くて、相手DFが陣形や体勢を整える時間を与えてしまっていた。

スピードアップした事で、大幅に攻撃が活性化されました。

前回の記事では、『日本の攻撃での生命線は、FWがボールをキープして味方に繋げられるかだ』とも書きました。

この試合では、大儀見さんは素晴らしいキープ力を見せて、それが日本の安定した闘いぶりに繋がりましたよ。

彼女はここ2試合では、何度もシュートに繋がるポストプレイをしており、今までとは全く違うレベルのプレイヤーになっています。

オランダ戦での2点目は、実に美しい得点でしたが、大儀見さんのポストプレイからスタートしています。

(厳密にいうと、スライディングタックルでボールを奪った所からスタートしています)

彼女は、今までだったらあそこで味方に繋がずに、強引にシュートを打っていたと思うんです。
もしそうしていたら、DFの身体に当たって、得点にはならなかったでしょう。

彼女は今、『ニュー大儀見』を見せています。
ぜひこの先の試合でも続けてほしいです。

オランダ戦では、出場した選手全員が素晴らしいプレイを見せました。
チーム状態が良いのを感じましたねー。

最後の1失点だけがもったいなかったです。
GKの海堀さんがキャッチミスをしてしまったのですが、映像で見る限りは変なバウンドもしていないし、簡単なボールに思えます。

ロスタイムに入り、集中が切れていたのでしょうか。

男子代表だったら厳しい言葉を書くのですが、女性なので控える事にします。

この試合のスタメンを見た時、宇津木さんのボランチでの起用が、少々不安だったんですよ。

というのも、これまでボランチで起用された時にいまいちだったからです。
左SBでは良かったので、そこで使われると思っていました。

でも、すごく良い動きを見せていました。
まあ、この試合では皆が機能していたので(良いポジションをとっていたので)、パスの出し所も多かったし、やりやすかったはずです。

この試合では、大野さんがFWで使われたのも目立ちました。

私は6月12日の日記で、「安藤さんが離脱した今、大野さんをFWで使えばいいのではないか」と書きました。

その後に岩渕さんが怪我から復帰したので、大野さんのFW起用は無くなったと思ったのですが、ここで使ってくるとは。

大野さんは非常に大儀見さんとフィットしていて、連係が抜群でした。

大儀見+菅澤のコンビはまだ連係がもう一つなので、この起用は有効だと感じました。

川澄さんの調子は上向いてきているようだし、右サイドMFは川澄さんでいいと思う。

佐々木監督は、意表をつく起用をしますよ。
堅実な起用をする監督も(特に大舞台では)多いので、凄い勇気だと思います。

人が驚く起用をして、結果を出しているのだから、名将なのでしょう。

その起用に応える選手達のほうが凄いのかもしれませんが。

意表をつくといえば、相手が過度に引いている時に、CBの岩清水さんがドリブルで敵陣の深くまで入るのも、目立ちました。

この戦術は、FCバルセロナが得意にしているものですが、なでしこジャパンでは今まで使われた事は無かったです。
監督の指示で行ったのでしょうが、それなりに敵陣を混乱させていました。

あれは、パスセンスの高い人がやると、凄い効果的です。
私としては、パスセンスを買っている川村さんにやってほしいんですけどねー。

なでしこジャパンを見ていると、監督の指示に上手く対処していますね。
みんな、頭が良いです。

男子代表だと、監督から「これをしろ」と指示されると、それで頭が一杯になるのか、他の事をしなくなるんですよ。
そうして、つまらない試合にしてしまいます。

頭の良さ(判断力、臨機応変な対応力)では、女子代表と男子代表では雲泥の差があります。

さて。
ここからは、オランダ戦で気付いた対処すべき点について書きます。

まず気付いたのは、『日本のCKの時に、ボールを相手に奪われてから危険なカウンターを食らう事が多かったこと』です。

あれは、改善する必要があります。

CKを見ていると、ペナ内でフリーになっている日本選手がいました。
その人に合わせれば、チャンスになる。

フリーの人をちゃんとつくれているから、人数をかけすぎなくてもいいと思う。
後ろの人数をきちんと確保しておかないと、カウンターを受けた時にピンチになる。

あとは、『守備の時にFWとMFが多大な貢献(運動量)をしているので、疲労が溜まってくる可能性がある』という事です。

守備の時に、FWとMFはかなりの距離を戻って、守備に参加しています。

それが守備の安定に繋がっているのですが、体力的にはきついです。

決勝トーナメントは中3日で試合が続くので、疲労が溜まってくる選手が出てくるでしょう。
その場合、無理はさせずにスタメンから外したほうがいいと思う。

グループリーグでの内容を見ると、ベンチにいる選手達も、出場すればきちんと役目をこなせていました。
だから、疲労が顕著な選手に固執する理由はないです。

私はこれまでに2回、「守備の時は、フリーな状態で精度の高いクロスボールをペナ内に上げさせてはいけない。ボールホルダーに寄せ続ける事が大切だ。」と書きました。

オランダ戦では、皆がボールホルダーにきちんと寄せていましたが、終盤には疲労から寄せきれず、それにより正確なロングボールをペナ内に放り込まれて、ピンチを招いていました。

あれを見て、「疲労のかさむ終盤にはこの展開も仕方ない。何とかCBとGKに処理してもらうしかない。ミスが失点に直結するので、CBとGKの連係が重要だ。」と感じました。

日本を見ていると、CB同士の連係は完璧ですが、CBとGKの連係に多少の不安があります

特にGKが山根さんだと、CBに任せたほうがいい場面でも、飛び出してボールを取りに行ってしまう事がある。

この部分は、もう少し修正をはかる必要があると思います。

残りは3戦ですが、一番最初に書いたとおり、オランダ戦と同等のサッカーをすれば優勝も十分に狙えます。
気を抜かずに闘っていって下さい。

最後に、少し雑談をしようと思います。

なでしこジャパンについては、「前回のW杯では、美しいパスサッカーで優勝した」との伝説(事実とはかけ離れた虚像)が浸透しています。

今回のオランダ戦も、「本来のなでしこらしいパスサッカーが出た」と評されています。

私は、こうした意見を耳にすると、違和感を持ってしまうのです。

というのは、実際には前回W杯でもロンドン五輪でも、日本のサッカーはどちらかというと「カウンターサッカー」に近かったからです。

せいぜい、「カウンターサッカーが5割、パスサッカーが5割」だったと思います。

当時のスタイルは、パスを繋ごうとしてもうまく繋げず、守備偏重で、縦パスをドーンと出して少ないパス交換でシュートに持ち込むものでした。

佐々木監督は、当時から「パスを繋いでいきたい」と言っていましたが、出来ていなかった。

この意見に疑問を感じる方は、当時のなでしこの試合を見返してみて下さい。
きっと納得していただけるはずです。

実のところ、今回のオランダ戦で見せたような華麗なパスサッカーは、今までは女子代表では(強豪国が相手の時は)見られなかったのです。

では、なぜ皆が「これこそ、なでしこジャパンのサッカー」と言うのでしょうか。

それは、男子のザック・ジャパンがいくつかの試合で強豪国相手にも華麗なパスサッカーを実現し、それが人々の記憶に焼き付いているからなのです。

日本の皆さんには自覚が無いようですが、ザック・ジャパンのサッカーに魅了された結果、いつしかあのスタイルがスタンダードになってしまった。

そうして、あのスタイルを見せられると「そうそう、これこそ日本のサッカー!」と頷く。

つまり、長年ずっと存在しなかった『日本のサッカー・スタイル』は、(多くの方にはまだ自覚は無いが)実はすでに誕生して確立されている。

無意識のレベルで、「日本のサッカーとは何ぞや」という概念についての共通理解が、すでに成立しているのです。

ザックが展開したパスサッカーは、日本のスタンダードにできる素晴らしいものだと、私は今でも考えています。

ブラジルW杯では結果が出ませんでしたが、日本人をワクワクさせるサッカーだったし、本質的に日本人に合っていると思う。

私が思うに、ザッケローニのサッカーは男子代表では完成せずに終わりましたが、女子代表でいま完成品として現れつつあるようです。

佐々木監督は、ここ3年くらいの間、ザックジャパンのサッカーに大きな影響を受けたスタイル(真似をしたと言ってもいいと思う)を展開してきました。

ザックのスタイルは、世界トップクラスのテクニックと判断力を必要とする、高度で緻密なパスサッカーです。
男子代表の手には負えませんでしたが、実際にテクニックと判断力では世界で3指に入る女子代表ならば可能です。

ザックさんのやった事は、男子代表では受け継がれていない感じ(早くも忘れられている感じ)ですが、直接の指導はなかった女子代表で花開こうとしていますよ。

私はこのサッカーが大好きなので、続けていってほしいです。


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