タイトル安倍政権を見極める㉓
内田樹さんの解説①
政権を支持する人々の心理①
(2016.5.23.)

安倍政権は、無能さを誰もが知り、独善的な態度も際立っています。

だが、政権を支持する者は日本人の4割にも上っている。

政権の無能ぶりを、国民はずっと目にしています。

国民生活がちっとも良くならない事だけでも、彼らの力量不足は明らかなのに、なぜ支持率が高いのか。

安倍政権は、独裁的な政権運営を続けています。

多くの人の英知を結集するという姿勢は、全くない。

私は、安倍晋三を強烈に支持している人々を観察してきました。

その結果、気付いたのは、『彼らが支持しているのは、安倍を有能だと考えているからではない。安倍にはリーダーシップがあると考えているからだ。』です。

安倍の支持者は、熱狂的でどんな政策でも支持する信者は別として、「安倍は大して有能ではない」と気付いている。

ただし、「国益を守ってくれる」とか「リーダーシップがある」と考えて、安倍から離れない。

この状況は理解していたのですが、そこからさらに深い考察をして、安倍支持者の深層心理にせまった論文に出会いました。

内田樹さんの著作『街場の戦争論』です。

私は、ここでの内田さんの視点に、深く納得できました。
「なるほど!」と、感心しました。

そこで、内田さんの考察を『安倍政権を見極める㉓』として紹介しようと思います。

その前にまず、安倍政権の独裁気質を人事面から述べた文章を、紹介します。

私のような人間は、このような人事を見ると、「無能なのに暴走をしている、危険きわまりない」と考えます。

ところが安倍支持者は、「ルールをぶっ壊して改革をしている、安倍さんにはリーダーシップがある」と高い評価を下すのです。

(以下は、東京新聞2015年7月7日から抜粋)

安倍政権は、公共放送であるNHKの人事へも、大胆に介入した。

国会は2013年11月に、新任のNHK経営委員の人事案を了承した。

そこには、百田尚樹や長谷川三千子ら、安倍首相に近い人物がいた。

同年12月には松本正之・NHK会長が突然に退任の意向を示し、14年1月にやはり首相に近い籾井勝人が就任した。

安倍政権は、「異例」の人事をくり返してきた。

2013年8月には、内閣法制局の長官に、小松一郎・駐仏大使を据えた。

法制局の勤務経験のない人物で、異例の起用だった。

小松は、第一次安倍政権では外務省・国際法局長だった。

彼は、安倍が集団的自衛権の行使容認に向けて設置した、有識者会議の事務にたずさわっていた。

著書「実践国際法」でも、集団的自衛権の行使に理解を示していた。

14年5月に、体調不良で小松が退任すると、横畠裕介が内部昇格した。

横畠も、集団的自衛権の限定的行使は合憲と説明している。

日銀総裁についても、内部昇格の慣例を破って、13年3月に財務省出身の黒田東彦を起用した。

黒田は、「異次元の金融緩和」を主導している。

原子力規制委員会の人事でも、活断層を調べていた島崎邦彦・委員長代理が任期を終えると、原発推進派の田中知らを抜擢した。

田中は、過去に電力会社の関連財団からカネをもらっていた。

(抜粋はここまで)

こうした異例の人事は、起用された人が有能ならばまだ理解できます。

だが、籾井や黒田の能力が低いことは、皆さんもご存知の通り。

安倍は、有能かどうかを基準にせず、自分と同じ価値観を持つ、言いなりになる人物を選んでいる。

人事面以外でも、独善的・独裁的な決定を連発している安倍政権。

そんな政権の中枢と、それを支持する人々は、どんな考えを持っているのか。

いよいよ、内田さんの解説に入ります。

(以下は、内田樹著『街場の戦争論』からの抜粋です)

憲法は、行政府に恣意的な政権運営をさせないための規制です。

『国が簡単には進路を変えて急旋回できないようにする安全装置』、それが憲法です。

改憲派は(安倍政権および安倍の強固な支持層は)、この惰性を嫌います。

「社会はめまぐるしく変化している。好機を逸すると巨大な国益を逃す。合意形成のために立法府でぐだぐだと議論するよりも、首相に全権を委託しよう。」と、改憲派は考える。

ですから彼らは、行政府の独裁を「一種の理想状態」と考えています。

それは、自民党の改憲案を読めば分かります。

自民党の改憲案には、緊急事態をいくらでも延長できる「穴」が用意されている。

「緊急事態宣言は、速やかに解除しなければならない」とあるが、速やかにの解釈は内閣に一任されています。

そもそも、緊急事態宣言が出れば、内閣は法律と同一の効力をもつ政令を出せる。
行政府の権限を縛る法律を、改廃できるのです。

「100日を超えて宣言を維持する時は、100日ごとに事前に国会の承認を得なければならない」ともあるが、衆院で過半数を有していればずっと継続できてしまう。

憲法が行政を掣肘するのを、これほど嫌う憲法草案は、稀有のものです。

この改憲案は、逆説的なことですが、『憲法ができるだけ機能しないことを目指すもの』なのです。

自民党の改憲案は、「官邸が、国会よりも憲法よりも上位に立つ体制」を理想とする人々の作品です。

民主化の努力の果実を、ことごとく否定しています。

現行憲法とこの改憲案を並べて、「古くて出来の悪い憲法はどちらでしょう?」との質問を世界の中学生にしたら、ほとんどの人が「自民党の改憲案だ」と答えるでしょう。

この改憲案は、明らかに時代遅れなものです。

問題は、『どうして、この様な憲法を(社会体制を)、彼らは切望しているのか』です。

彼らが独裁的な政体を好ましいと感じるのは、「そのほうが経済活動にとって効率的だ」と信じているからです。

「国家は、株式会社のように組織されるべきである」というのが、安倍・自民党(およびその支持層)の考えです。

このアイディアを公言したのは、僕が知るかぎり、息子ブッシュが最初です。

彼は2000年の大統領選挙中に、後に粉飾決算がばれて起訴されるエンロン社のCEOであるケネス・レイを絶賛し、こう述べました。

「大統領に選出されたら、CEOが経営するように政府を運営するつもりだ。ケネス・レイとエンロン社は、そのモデルになる。」

ブッシュがモデルにしたのが、CEOでありながら自社株を高値で売り抜けて、エンロン社を破綻させながら自分の資産を守った人物であるのは、まことに教訓が多い。

日本で改憲派(実際には廃憲派)を形成しているのは、これに考え方の近い人々だと、僕は思っています。

彼らは、立憲主義と民主主義の効率の悪さに耐えられないのです。

「非効率が嫌い」という彼らの気分は、分からないでもない。

というのは、現代人の多くは、組織というと株式会社しか知らないからです。

ほとんどの人は、20歳すぎに株式会社の従業員となり、定年まで留まります。

職場のルールが、自然に刷り込まれてしまう。

だからビジネスマンの父親は、子供の教育でも「投資と回収」というスキームで考えるようになる。

費用対効果を計算するのが、当然だと思っている。

株式会社は、民主的な組織ではありません。

「従業員の過半数の支持が必要である」とか、「取締役会の議事内容を開示する」とかは、存在しません。

株式会社の良否を判定するのは、従業員ではなく、市場です。

意思決定の手続きが、独裁的で非民主的でも、売り上げが伸び株価が上がるなら、誰も文句は言わない。

「マーケットは間違えない」との原理を、身体深く内面化した人々が、立憲主義や民主制の意味を理解できなくなるのは、仕方のない事です。

なにしろ、そんなものは彼らの日常に存在しないから。

会社には無いし、通っていた学校でも見たことがない。

表現の自由も、集会結社の自由も、どこにもなかった。

だから、ビジネス・マインドに染まりきった人々は、エンロンのCEOのような人を理想の統治者だと思うようになります。

「国家の株式会社化」の成功例は、シンガポールです。

日本には、「シンガポールをモデルにして、社会システムを変えよう」としている人達がいる。

シンガポールは、民主国家ではありません。

人民行動党の一党独裁が半世紀もつづき、国内治安法という法律があって、反政府的な活動は令状なしで拘禁できる。

反政府メディアは存在せず、労働組合は政府公認のものしかない。

大学生は入学に際して、反政府の意見を持っていないことを証明する書類の提出を求められます。

シンガポールの国家目標は「経済発展」で、すべての社会制度がそれを基準に判断される。

法人税と所得税が安いので、起業家や富裕層が世界中から集まってくる。

この国は、もともと住民のいなかった小島で、金儲けを国是にした。

リーさん一族が権力と国富の多くを所有しているけど、それは「金儲けのうまいワンマン経営者」みたいなものです。

日本の改憲派は(安倍の支持者たちは)、シンガポールを理想にしている。

彼らだって、独裁制が好きなわけではないと思います。

でも、「独裁制のほうが民主制よりも経済活動に有利な場合がある。だったら民主制じゃなくていい。」と考えている。

ここでの選択肢は、「民主制か独裁制か」ではなく、「民主制かカネか」なんです。

そして日本人の相当数は、この問いに対して「カネ」と答えようとしている。

民主制も立憲主義も、『意思決定を遅らせるためのシステム』です。

憲法はもともと、行政府の独走を阻害するための装置で、「物事を決めるのに時間をかけるシステム」です。

だから、効率をめざす人々にとっては、「無駄なもの」に感じられ理解できない。

大手メディアも理解できなかった。

そして、「決められる政治」とか「衆参のねじれの解消」とか「民間ではありえない遅さ」とか「待ったなしだ」という言葉を、景気よく流した。

そうしているうちに、日本人には「民主制や立憲主義は、良くないものだ」との刷り込みが果たされたわけです。

現在の安倍政権の政策は、このトレンドの上に展開されている。

自由を制約し、戦争のリスクが高まる政策を掲げる内閣に、国民が高い支持を与えるのは、「民主制や立憲主義を守っていると経済成長できないなら、そんなものは要らない」と思っているからです。


目次【日記 2016年4~6月】 目次に戻る

目次【日記 トップページ】に戻る

home【サイトのトップページ】に行く