三浦カズが長寿命の要因

(『ナンバー2019年2/14号』から抜粋)

(※これは、カズ(三浦知良)が自らの選手生命が長い理由について語ったものです)

今51歳ですが、(未だに現役でプレイしている事に対して)「よくやれますね」とか「辛くないですか」と言われます。
でも、僕だけが大変なわけじゃない。

僕は、飯を食うのに困っているわけではないし、寝る家もある。

純粋にサッカーに向かっていける環境があることは、最大の幸せですよ。

試合に出られなくても、落ち込んでいる暇はないよね。

すぐに次の作業に取り掛からないといけないから。

試合が終わった瞬間から、次の試合のために準備しないと。
その作業をずっと繰り返しやってきているんです。

もちろんトレーニングはきついけど、試合に出るためにはやるしかない。

努力の質が上がっているかは、自分では分からないけど、先発で90分出るという目標は18歳でプロになった時から変わらない。

だから、ひたすらやるしかないです。

少しでも(自分のプレイが)良くなるだろうと思ってなきゃ、やれないよね。

もちろん20代の選手と比べると、パワーとか走力はいくら練習しても敵わない部分はありますが。

「なぜ同じ事を、繰り返し飽きないでやれるのですか?」と驚く人が多いけど、そんなに特別じゃないと思う。

サラリーマンの人だって、30年間ずっと満員電車に乗って会社に通っているじゃない。
きついけど生きていくために会社に行くわけでしょ。

だからサッカー選手が特別なわけじゃないんですよ。

ただし、サッカーだと50歳までやりたくても出来ないから、その点で僕は特別かもしれない。

でも、やれる環境があるなら、練習が嫌だと思わず続けるんじゃない?

僕が20代の頃は、「サッカー選手は30歳を過ぎたら終わる」という認識を持っていました。

当時は35歳までプレイする人は珍しかった。

あの頃は、前十字靭帯や半月板を損傷する大ケガだと、即引退することも少なくなかった。

それに(Jリーグの前の)日本リーグの時代は、10チームしかなかったし、社員契約をしている人が多かった。

だから会社から「そろそろやめなさい」と言われたら、引退しなきゃいけない時代だった。

Jリーグが発足した時は10チームだったけど、今はJ3まで含めて55チームもある。

それで無名のチームだと、知名度を上げる役割も含めて、元日本代表の選手を獲得することもある。

そんな背景もあって、選手寿命は長くなっているんです。

もちろん、スポーツ医学の進化も大きいでしょう。

30歳を過ぎてから大ケガをしても、戻ってこられるようになった。

昔は、半月板の中を縫うという手術がなくて、切ってみるしかなかったけど、今はドクターの知識と経験が全然違います。

あと、昔はスポーツを一括りで治療していて、今ほど細やかなリハビリも無かった。

医学の進歩で、少なくとも5歳は選手寿命が伸びたと思う。

以前は33~34歳までだったのが、30代後半から40歳までになった。

とはいっても、そこまで長くプロでやれる人は一握りです。

未だにプロサッカー選手の実働年数は、平均4年ですから。

1つ言えるのは、日本代表まで行った選手だと、下のカテゴリー(のリーグ)で大きな需要があるんです。

J2までの人と、日本代表まで行った人では、当然違ってくる。

J3が頂点の選手が、そこで20年はやれないでしょ。

やっぱり上のリーグに行くことが、長くやる事に繋がります。

横浜FCの場合、僕が加入した2005年はJ2の一番下のほうで、Jリーグで行き場所のない選手が集まっていました。

専用の練習場すら無かったけど、僕が入った年にLEOCというパートナーができて、どんどん変わっていった。

2006年にJ2で優勝して、J1に昇格した。

僕は1990年代に、日本サッカー界のパイオニアみたいになれた。

それは、(いち早くヨーロッパ・リーグに挑戦して)イタリア・リーグに行った事も大きかったと思う。

奥寺康彦さんの後に海外リーグに行った選手は居なかったから。

あの頃は、32歳で引退するという計算をしていて、そこから逆算すると、自分のキャリアは2年遅れになっていると感じていた。

もともと僕のキャリアはブラジルで始まり、サントスで活躍していたから、1990年に日本の読売クラブから誘われた時は迷ったんです。

でも母親から「今あんたは23歳だけど、30歳なんてすぐだから。いま日本に帰ってきてやらないと、間に合わないよ」と言われたんです。

そんな母も、今では僕の身体を心配しています。

皆は「スポーツをやっているから健康だ」と思ってるかもしれないけど、実際には身体に良くない事をしてます。

身体を危険な方向に追い込んでいる所がある。

サツカーは、40代、50代の人がやるスポーツではないのかもしれない…。

例えばヘディングにしても、僕くらいの年齢でやりすぎると、後遺症が出るかもしれない。

実際に、ヘディングが頭にとって良くないのは、証明されてきています。

だからヘディングは、必要ない所ではやらないようにしている。

今は引退は考えてないけど、ケガして治らなかったら引退になるという危機感はあります。

ケガの治りに時間がかかると、もうサッカーが出来ないんじゃないかと思うこともある。

でも引退したいと思ったことは無いし、ましてや試合に出られないから辞めようと思ったことはないね。

(2022年11月20日に作成)


『サッカー』 目次に戻る

『サイトのトップページ』に行く