中村憲剛が試合中にしていること

(ZONE 2015年3月号から抜粋)

   Jリーグ2014年の第2節、フロンターレ川崎対サンフレッチェ広島。

   前半のアディショナルタイムにレナトがクロスを上げて、こぼれた球は中村憲剛の足下に来た。

   正面には水本と塩谷のDFの壁があったが、トラップした憲剛の選択は『逆サイドにふわりと
   浮かして渡す、ループパス』だった。

   渡された小林悠は、フリーでシュートを決めた。

質問  どうして逆サイドにパスを出せたのですか。

憲剛  トラップするかしないかのタイミングで、『絵』が見えているんですよ。

    (その瞬間のチームメイトの)大久保嘉人と小林悠の位置を見て下さい。
    相手DFと2対1になってるじゃないですか。

    その状況が、頭の中に絵として見えているんです。

    たぶんDF山岸は嘉人をケアするから、悠がフリーになれる。
    フワッと出せば通る。

質問  それって、どの時点で判断しているんですか?

    トラップは(利き足ではない)左足だったし、ボールの置き位置から左足でしか蹴れない
    状況ですよね。

    判断する時間も無かった。

憲剛  正面に相手選手が2人も来たから、シュートは打てないでしょ。

    だから逆サイドに流すしかないけど、下じゃ通らないから上でパスした。
    すくい上げる感じで。

質問  逃げるパス(後ろに戻すパス)を出して、1度ボールを落ち着かせるという選択肢はなかった
    のですか?

憲剛  無いですね。

    ペナルティ・エリア内にいたし、勝負する場面だと感覚的に判断していたと思う。

    正直に言うと、蹴った瞬間に「上げ過ぎた」と思いました。
    でも、悠にとってはそれ位がちょうど良かった。

    パスに関しては、見える絵では選手の位置関係がだいたい決まっているんですよ。
    「ここにコイツが居るなら、アイツはここに居る」という感じ。

質問  凄いプレイですね。

憲剛  広島のスタジアムだから、出来たプレーだと思います。

    芝が深いと感じていたし、ウチのホームだったらあのキックは出来ない。

質問  話は変わりますが、試合中にパスをもらう前の準備として、何を考えていますか?

憲剛  まず考えているのは、『いかにして前を向いてパスを受けられるようにするか』です。

    前を向くことと、ボールを取られないこと。
    これをどう組み合わせるかを、常に考えています。

質問  組み合わせですか?

憲剛  相手へのアプローチの仕方、味方へのサポートの距離感、身体の向き、パスの強弱、
    タッチ数。

    そういう組み合わせです。

    例えば、「この身体の向きと距離感なら、ダイレクトで強いパスをもらえれば前を向ける」とか。

    逆もありますよね。
    味方にパスを出す時に、どう出すのか。
    ダイレクトで出すのか、トラップしてタメを作るのか。

    ボールを持っていない時は、この思考の繰り返しですよ。
    こういう駆け引きの連続で、「スペースを奪い合うのがサッカーだ」と思っています。

    基本的に、『パスを回すためのパス』は、1本もないです。
    全てがゴールに向かっているというか。

    そういう意識が、最初の準備としてあります。

質問  憲剛さんのプレーは、中盤でパスを受けて半転する時に、相手につぶされるシーンがない。

    普通だと、もっとつぶされますよね?

憲剛  俺は、パスを受ける時の「相手選手との距離感」に敏感ですから。

    相手が2人来ていたら、迷わず逃げる(パスを出す)。

    で、もう1度もらう。

質問  相手が1人の場合だと、どうしますか?

憲剛  だいたいは勝負します。

    相手の逆を突けば、必ず前を向ける。
    そして、前を向いてからは自信があります。

    そこで勝負していく方が、相手は疲れますからね。

    疲れさせれば、こっちの勝ち。

質問  ガンバ大阪の今野選手は、「ボールを奪える気がしない選手」として憲剛さんの名前を
    挙げていました。

    「ファーストタッチでどこにボールを置くのか、全く読めない」と言っていました。

憲剛  狙わせないんですよ。
    常に逃げ道を準備しておくから。

    相手に予測させない事も、大事な準備ですよね。
    だから、パスが来てから考える事は、まずありません。

    もし準備が足りなかったら、パスを出してきた選手にダイレクトで返します。
    それなら絶対に奪われない。

    試合中はずっと、パスを受けられるポジションを取り続けます。
    そうやって相手を動かして、知らぬ間にスペースを奪うんです。

質問  頭の中に絵が見えていない状態で、勝負に出るパスを出す事はありますか?

憲剛  それは無いです。たぶん1本もない。

    ウチの選手たちは、俺が前を向いた瞬間に走り出します。
    それをちゃんと見て、相手の状態を判断した上でパスを出す。

    さっき言った『絵』は、何となくイメージしたものじゃなくて、自分の目で見て確認して
    生まれるもの。

    「勝てる」と思った所に出してます。

質問  川崎フロンターレだから出せるパスもありますよね?

憲剛  あります。
    皆が俺のプレーを理解しているし、こっちも皆のプレーを理解していますからね。

    練習と試合をくり返す中で、「俺が持ったらこういうパスが出る」という感覚を共有する。

    もっと言えば、気持ちよくプレーさせて「憲剛さんのパス、良いわ~」と思わせる事が
    すごく大切です。

(2015年10月10日に作成)


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