海堀あゆみの突然の引退 その理由とは

(Web Sportiva 2016年2月9日の記事から抜粋)

海堀あゆみの突然の引退発表は、大きな衝撃を与えた。

彼女は、ドイツW杯、ロンドン五輪、カナダW杯と、なでしこジャパンで活躍してきた。

引退の決意を固めてから1ヵ月、海堀は「スッキリしてるなって感じます(笑)」と語る。

29歳に身を引くという決断は、簡単にできるものではない。

何度も気持ちは揺らぎ、引退という結論まで何度も熟考した。

もともとDFとしてプレーしていた海堀は、高校3年の時にGKに転向した。

2012年にINAC神戸とプロ契約したが、1年契約なので皇后杯の前はいつも自問自答した。
(女子プロ・サッカーは、リーグが終了した後に皇后杯があります)

「1年契約だったので、皇后杯前には『来年1年、自分は本当に戦えるか?』と
 自分と向き合ってきました。

 契約更新したくても、できなかった仲間もいる。甘えを持ちたくなかった。」

昨シーズンの終わりにも例年通りに自問自答したが、いつもと異なる感情が現れた。

「今までだったら気持ちよく頑張れていた所で、耐えられていた所で、しんどいと
 思ってしまう。」

これまではスランプに陥っても、先のイメージができた。アイディアが浮かんできた。

しかし、初めて何も浮かんでこなかった。

チームに気持ちを伝えたが、年明けまで再考の猶予を与えてくれた。

「皇后杯の戦いの中で、エネルギーが沸き上がってくるかもしれないと思った。」

海堀は自らの進退の結論を抑制し、皇后杯に臨むことを決めた。

海堀の身体に異変が起きたのは、2012年のロンドン五輪の後だった。

ある日、突然すべてのものが二重に見えた。

症状の出る頻度は上がり、下された診断は筋力が低下する重症筋無力症の眼筋型だった。

「これまで以上に練習し続ければ、何とかパフォーマンスを維持できると信じたかった。

 見えないから、とにかく感覚を研ぎ澄まそうと思った。
 音とかの察知力でカバーするしかなかった。」

GKコーチと共に、夜も自主トレを重ね、感覚が身に付くまで身体に叩き込んだ。

もう1度W杯に出たいという一心で、夢中で取り組んだ。

2015年シーズンを前に、ひとりの眼科医と出会う。

この医師の言葉に海堀は救われた。

「重症筋無力症ではなく、斜視だから、手術すれば治ると。

 W杯に出られる事につながるなら手術を受けようと、迷わず即答しました。」

手術は成功した。

だが、動体視力に違和感をぬぐいきれなかった。

判断が0コンマ何秒が遅れてしまう。

そしてある時、1度だけだが物が二重に見える予兆を感じた。

「手術を受けて、1年の間サッカーができた。

 でも、また症状が出るんじゃないかという恐怖心が消えなかったんです。」

試合中の大事な場面でボールが二重に見えて、致命傷のプレーが出てしまう事を、海堀は恐れた。

「結局は、その恐怖心を克服できなかったんです。

 人ってエゴがある。見えるようになったら、せっかく身につけた察知力が鈍って
 くるんですよ。

 何かを得れば何かを失う、そういうジレンマもありました。」

海堀が多大な影響を受けたのは、先輩GKの山郷のぞみと福元美穂だ。

「自分もこうなりたいと思える2人だった。
 19歳の途中で日本代表に入れてもらって、一番初めに影響を受けた人で、
 最後まで影響を受けた人。

 正直、最初はこんなにGKをやるとは思ってなかった(笑)。」

北京五輪のメンバー選考では、海堀と福元が選出された。

大ベテランで精神的な柱となっていた山郷の落選は、選手全員がショックを受けた。

「この選考が正解だって言い聞かせたけど、本当に正しいか分からなかった。

 でも、そんな中途半端な覚悟で立っていい場所じゃないんです、あの場所は。」

中途半端な気持ちで立てる場所でないと思うからこそ、リオ五輪の前であろうと引退を決めたのだろう。

最後の舞台となった皇后杯では、海堀は最後まで自分のために戦おうとしなかった。

「チームメイトの澤さんが引退するっていうことで、そっちに集中できた部分もあった。

 澤さんは、自分の中ですごく支えになっていました。」

「目のことは、最初は絶望的に感じたけど、多くのことに気付かせてくれた。

 苦しいことも含めて伸びしろなんだと思います。

 どんな事にも意味がある、絶対に。だって生きてるだけでもすごい事でしょ?」

「ボールが2個見えていた時の方が、感覚的にはすごかったから、その頃のほうが良かった
 という人もいるかもしれない。

 目のことがあって、『お前は感覚の選手なんだよ 』と言われていると思いました。

 それをきっかけに、自分らしく吹っ切れた気がします。

 今は、自分で引き際を見つけられて良かったと思っています。」

○村本のコメント

これを読んだ時は、かなり驚きました。

いきなり引退したから、不思議に思っていたけど、こんな事情があるとは思わなかった。

海堀さんは、時々びっくりするようなミスをして失点するので、それを指摘した事があった。

集中力の欠如が原因かと思っていたが、目の影響だったのか。

日本代表のGKとしては、正直いって物足りなさを感じていた。

彼女が代表戦でポカをする度に、「福元のほうがいいのに」とか「日本女子はGKの層が薄い、そこが弱点だ」とか思ったものだが、これを読み少しだけ反省しました。

「この事情があったのなら、まあ仕方ないな」と。

GKはただでさえ怖いポジションなのに、物が二重に見える状態でやれるなんてパフォーマンス以前にすごい根性をしている。

やればわかるけど、痛いし怖いし汚れるしで、常人なら2度とやりたいと思わないポジションです。

この記事を読み、海堀あゆみは人間として魅力があると思いました。

言葉の1つ1つに説得力があるよ。

(2016年10月28日に作成)


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