2014W杯の直前 田中マルクス闘莉王選手の話

(『ナンバー2014年6/25臨時増刊号』から抜粋)

2014年W杯の最終メンバー発表から1週間。
闘莉王はこう語る。

闘莉王

「正直なところ、(ザック監督は自分に)1度はチャンスを与えてくれても良かったんじゃないかと。

前回のW杯では、自分は粘り強くプレーできたと思う。

オランダ戦は1点に泣いたけど、あとはやられた場面はほとんど無かった。

(2010年W杯の後に)一番いけなかったのは、10年の秋にザック監督が自分を選出してくれた時だった。

当時の自分は最悪の状態で、父親が病気になってブラジルに戻り、帰国後のJリーグ戦で肉離れをしてしまった。

あの時は、移籍1年目だった名古屋は初のリーグ優勝をかけた戦いの真っ最中だった。

あの状況で代表も並行して戦う、そんな余裕は自分には無かった。

その後、すぐに代表は2011年1月のアジアカップで優勝した。

その時点で、見切られてしまったのかもしれない。

あの時、『闘莉王は代表をサボったんじゃないか?』みたいな声が飛んでいたでしょ。

事情を知らないで判断されるのは困る。」

それから3年半、闘莉王に代表入りの扉が開くことは無かった。

だが、今でも日本屈指のDFと言っていいはずだ。

闘莉王

「2006年のドイツW杯でも、ジーコさんから声が掛からなかった。

一度は呼んで、自分の目で判断してほしかった。」

闘莉王が代表で戦う姿を、また見られる可能性はあるのだろうか。

闘莉王

「ザックジャパン後に呼ばれたら…。

俺よりもレベルが高いと思うDFが出てきたら、選ばれても行かない。

でも、まだ負けない自信がある。そこに年齢は関係ない。

本当の意味で、個の守備力が求められる瞬間が、DFにはある。

そんな場面では、まだ俺や(中澤)佑二さんを超える選手は出てきていないと思う。

まだ、俺は追い越されていない。

今回のW杯で、日本が守備もしっかりできてグループリーグを突破したら、俺は代表に要らなかったとの評価になる。

ただし、守備が崩壊した時には、どういう声が出てくるか。

去年のコンフェデ杯で強豪国に滅多打ちにされた経験を、ここで生かさないといけない。

W杯でまたやられたのでは、最高の舞台でもったいない。

ブラジルW杯に出られないのは、すごく辛いよ。

故郷での大会だし、ピッチ外での事でも色々とアドバイスできたと思う。

俺が選ばれなかった事が正解だったかどうかは、W杯しか教えてくれない。」

○ 村本尚立のコメント

ブラジルW杯で日本の守備陣がいまいちだったのは間違いないし、闘莉王さんの言う事にはかなりの説得力があります。

センターバックの守備力が不足しているのは、W杯の3試合を見ていて痛感しました。

ただし、「2010W杯では失点が少なかったから、その頃の方が守備は上」とは言えないと思います。

2010年の時は、堅守速攻のスタイルを採り、守備に8~9人を割いて、攻撃は「うまく行けば儲けもの」みたいな感じでした。

サッカーの美しさのかけらもない戦術で、何とかグループリーグを勝ち上がるためだけの方法を採ったのです。

つまり、『攻撃は捨てて、守備に特化する』スタイルでした。

ですから、失点が少ないのは当たり前で、もし失点が多かったら「なにをやっているんだ、最悪じゃないか」と言われる状況だったのです。

ザックジャパンになってからは、失点の多い試合が続くと、「闘莉王をもう1度代表に呼ぼう」と言う識者は、けっこういましたよね。

Jリーグで好調な時もありましたし。

考えてみると、闘莉王さんは足元の技術もしっかりしているし、現代表のパス・サッカーでも機能するかもしれません。

W杯の年になってからでも、所属チームの名古屋が絶好調だったり、闘莉王さんのパフォーマンスがずば抜けていれば、呼ばれた可能性はあったと思います。

実際に大久保さんのサプライズ招集はありましたし。

アギーレ監督になってからの守備の崩壊っぷりを見ていると、「闘莉王さんを呼んでみるのも悪くないかも」と思います。

闘莉王さんと中澤さんには、2010年W杯での『DFラインを低くして守備を固め、とにかくボールを跳ね返しまくる、攻められっぱなしの見苦しいサッカー』の印象が濃すぎるんだと思います。

はっきり言って、2010年W杯では、最もつまらないサッカーをしているのは日本でした。

2人がそのサッカーの中心だったので、「彼らが代表に戻ると、あのサッカーに戻ってしまう」というトラウマの含まれた恐怖感が、私にはありました。

しかし、冷静に考えてみると、競り合いに強いタフなCBが、今の代表には必要ですね。

安易なロングパスに頼らず、きちんとパスを繋いでくれるなら、ゴリゴリ系のCBもありだと思います。

(2014年11月9日に作成)


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