(『タックスヘイブンの闇』から抜粋)
富裕層は、脱税のために『信託(トラスト)』を使う。
信託の概念は、中世ヨーロッパで登場した。
十字軍に参加する騎士たちが、自分の財産を信頼できる管財人(受託者)に預け、管財人は騎士の妻子のために管理した。
それは、財産の所有者・管財人・受益者(騎士の家族)を結びつける協定であった。
この協定を正式なものにする法律が整備され、現在では協定の履行を裁判で強制できるようになっている。
信託は、秘密の仕組みであり、その証拠を見つけるのは難しい。
信託の効用は、所有権の操作である。
信託の変形には『財団』などもあるが、本質は同じである。
信託では、もともとの所有者は、理屈上ではその資産を信託に譲渡する。
そして受託者が資産の法律上の所有者になるが、受託者は「信託証書の条項」により厳密な指示に従うことを義務づけられる。
信託法によれば、受託者は指示に従うしかなく、受託者報酬の他には受け取れない。
ある男が信託名義の口座に100万ドルを預けて、弁護士を受託者に任命し、「自分の子が21歳になったら渡してくれ」と言ったとしよう。
その弁護士は指示に従い、その男が死んでも指示された通りに支払う法的義務を負う。
イギリスの上流社会は、信頼できる人を見分けるスキルをみがいてきた。
信託は、脱税のために使われる事が多い。
信託は、所有権を分離して、頑丈な守秘性を生み出す。
受益者は登記されず、税務調査官が調査できない。
さらに間に別の弁護士を入れて、より複雑にする事もできる。
インターポールがカネを追跡しても、国によっては逃避条項を認めているので、資産は他の国に逃げてしまう。
信託は、自分が支配権を維持しながら、その金を譲渡したふりをする事(課税されなくする事)を可能にするのだ。
2008年の世界経済危機の一因だった「ストラクチャード・インベストメント・ビークル(SIV)」の多くは、オフショア信託だった。
ジャージーという小さなタックスヘイブンだけでも、信託に4000億ドルが預けられており、世界全体では数兆ドルの資産が信託に投入されている。
(2014.3.10.)