アメリカにおけるプロパガンダの実例④
イラク戦争について②

(『すばらしきアメリカ帝国』から抜粋)

チョムスキー

息子ブッシュ政権は、「経済成長のために減税する」と言っていますが、裕福な超少数派のための減税であり、国民の大多数はひどい目に遭います。

この政権は、社会保障制度を破壊しようと動いています。

「街で暮らす障害のある未亡人が、ちゃんと食事できているか心配だ」といった考えを、私たちの頭から消し去ろうとしています。

これを実現するには、人々を恐怖に突き落とすしかありません。

そうでなければ、私たちは受け入れないのですから。

人々は、「安全が脅威にさらされている」と怯えていれば、関心事や利益については我慢します。

だから、まず人々を恐れさせて、次に大統領を強力な戦時指導者に仕立て上げるのです。

そして『恐ろしい敵』とは、選び抜かれたターゲットなのです。

質問者

それがイラクなのですね?

チョムスキー

そうです。

イラクに関するプロパガンダは、中間選挙の運動のスタートと重なる2002年9月に開始されました。

繰り返されるテーマは、2つありました。

1つ目は、「イラクは、アメリカに対する差し迫った脅威だ」です。

2つ目は、「9.11事件はイラクの仕業である」です。

9.11事件の直後には、イラクが関与していると考えていたアメリカ国民は3%でした。

(ブッシュ政権は、アフガニスタンにいるオサマ・ビンラディンの仕業だと声高に唱えていた)

それがプロパガンダによって、イラクの関与を半数以上の人が信じるようになりました。

このプロパガンダは、戦争を始めるためです。

実際には、イラクは何十万人もの国民が死ぬほどの経済制裁をうけた結果、経済と軍事力は中東で最弱です。

軍事費は、人口がイラクの10%しかないクウェートの半分以下です。

中東で最強の軍事力を持っているのは、イスラエルです。

アメリカは、犯罪が多いし移民も多いので、国民の恐れのレベルが高いです。

ワシントンはこの事を熟知しており、毎年パニック・ボタンを押しては政治権力を維持してきました。

アメリカは、常に怯えています。

それを突きとめるには、アメリカの歴史を遡る必要があります。

先住民を抹殺して建国したこと、奴隷制度によっていつ反乱を起こすか分からない集団をコントロールしてきたこと。

こうした事実から、「どこかから狙われている」との感覚を生じるのです。

アメリカは、先住民の多くを抹殺しました。

建国の父らは、「駆除」という言葉を使い、その行為を問題視しませんでした。

質問者

2003年3月6日に、ブッシュ大統領は1年半ぶりにゴールデンアワーの記者会見を行いましたが、台本が用意されていましたね。

会見では、「イラク」「サダム・フセイン」「拡大する脅威」「9.11」「テロリズム」といった言葉が何度も繰り返されました。

翌週には、イラクと9.11事件との関係を信じているアメリカ人が、世論調査で急に跳ね上がりました。

チョムスキー

「9.11とイラクが関係している」との政府の主張は、あまりに突拍子もないので、繰り返し続けなければ人々に押し付けるのは難しいのです。

質問者

プロパガンダは、どうやれば見分ける事が出来るのですか?

チョムスキー

人並みの常識があれば充分です。

正気な人なら、「証拠はどこにある?」と訊くでしょう。
その瞬間に議論は破綻します。

1985年5月1日に、レーガン大統領は「ニカラグアがもたらす脅威のため、アメリカは緊急事態にある」と宣言しました。

レーガン政権は、「ニカラグアは、西半球全体を支配下に収めようとしている」と主張しました。

この時の大統領令に目を通してみれば、イラクに関する2002年10月の議会宣言と言葉遣いがほとんど同じだと分かります。

プロパガンダを見抜くには、特別なテクニックなど必要ありません。

与えられた情報について、常識で疑って調べればいいのです。

サダム・フセイン政権の情報相が信用ならないと判断するために、特別なテクニックなど必要でしょうか?

自国の政権についても、同じ視点で考えましょう。
そうすれば、もう切り抜けたも同然です。

質問者

イラク戦争では、「エンベデッド(組み込まれた)・ジャーナリスト」(アメリカ軍の完全統制下で活動するジャーナリストたち)が問題になりました。

チョムスキー

彼らは、「政府のプロパガンダ人員です」と宣言しているのと同じです。

イラク戦争は、明白な侵略行為であり、重大な戦争犯罪です。

イラク侵略の口実は、ヒトラーのそれと変わりがありません。

ピーター・アーネットという評判の高いジャーナリストは、イラクのTVのインタビューを受けたために、アメリカで非難されています。

フリーのジャーナリストが侵略された国のインタビューに応じただけで、裏切り行為とされたのです。

アメリカのジャーナリズムは、このような驚くべき事態になっています。

質問者

イラク侵略では、「イラクの人々を解放した」とのレトリック(ごまかし)が使われています。

チョムスキー

国が解放されたかを知りたければ、住民に尋ねるべきです。

イラクの世論調査では、80%以上の人が「占領下にある」と答えています。

イラク人の大多数が、アメリカ軍の撤退を望んでいます。

この調査結果を見れば、彼らが欧米人よりも正しく理解していると分かります。

加害者よりも被害者のほうが、仕組みが分かるのです。

イラク人の70%は、アメリカの目的を「資源の掌握と中東の再編成のためだ」と答えています。

そして50%の人は、「アメリカは、イラク政府に独自の政策を行わせないだろう」と答えています。

イラク人が真実を理解できるのは、自分たちの歴史を知っているからでしょう。

イギリスは1920年に、イラクを切り分けて、トルコではなくイギリスが北部の油田を支配できるようにイラク国境を定めました。

そして海へのアクセスを切断する事で、イラクが従属国であり続けるようにしました。

現在アメリカは、イラクとの間に軍の地位協定を強く要求しています。

協定によって、アメリカ軍を長期駐留させる権利を認めさせようとしているのです。

現在のイラクでは、最高税率は15%で、外資への課税や規制は無いです。

外国企業は、イラクを自由に乗っ取ることができます。

アメリカは、「イラクは大量破壊兵器を持っている」と言って、イラクへ侵攻しました。

(その後、大量破壊兵器は無かったと判明)

大量破壊兵器を探したければ、そこら中で見つけられますよ。

例えば、イスラエルです。

イスラエルは、何百もの核兵器を持ち、化学兵器も所持しています。

イスラエルの主要新聞「ハーレツ」には、興味深いリーク記事が掲載されていました。

アメリカが、イスラエル空軍に核弾頭を提供しているというのです。

大量破壊兵器が気になるなら、遠くを探す必要などありません。

アメリカそのものが、軍縮の条約を拒否し、宇宙の軍事化を進めて、「小型核」と呼ばれる新型の核兵器を開発しています。

質問者

アメリカは、イラクに民主主義をもたらすのでしょうか?

チョムスキー

アメリカとイギリスが、民主的なイラクを認める可能性は全くないです。

イラクで民主化が起きれば、人口の過半数がイスラム教・シーア派なので、シーア派の国であるイランと緊密になるでしょう。

また、サウジアラビアのシーア派地域にも影響を及ぼすでしょう。

アメリカがこれを許すでしょうか? 想像すらできません。

イラクが独立したら(民主化したら)、イスラエルに対抗するために再武装するかもしれません。

アメリカとイギリスにとっては、民主化などとんでもない話なのです。

(2014.7.4.)


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