(『アメリカ黒人の歴史』上杉忍著から抜粋)
アメリカでは、警察・裁判・刑務所に関する予算は、急増を続けてきた。
巨額な予算になっており、ビッグ・ビジネスになっている。
3大テレビ局は、暴力犯罪が減少し始めていた1990年代に、劇的に犯罪報道を増やして、犯罪への恐怖を煽った。
政治家たちは、厳罰主義を叫んで票を獲得し、地元への刑務所誘致をして、関連企業から献金をもらってきた。
FBIや裁判所の職員は、刑務所ビジネスに関わる企業と人事交流をして、「利益共同体」を形成している。
1980年代に、『企業による囚人の雇用』が許可された。
これにより、企業は組合に入れない囚人たちを、健康保険などを負担することなく使用できるようになった。
刑務所の民営化も始まり、多国籍企業が参入して、高配当を続けるビジネスになっている。
この「企業・政治家・メディア・看守組合」の利権集団は、『産獄複合体』と呼ばれている。
この集団は、犯罪の抑止よりも、「収監者数の維持・拡大」に関心を抱いている。
産獄複合体は、社会からこぼれ落ちた人々を「麻薬との戦争」の名の下に捕まえ、貧困層を脅して統制している。
麻薬の蔓延は、「麻薬との戦争」政策が1980年代に始まってからも、改善していない。
麻薬ギャングと警察や産獄複合体は、増殖し続けている。
刑務所の多くは、農村部に誘致されて建てられる。
なぜ自治体は、刑務所を誘致するのか。
まず、囚人はその土地の人口に算入されるため、人口が増大して選挙の際に割り当てられる代表権が拡大し、より多くの議員を選出できる。
次に、連邦政府からの補助金は人口に応じて決まるため、補助金も増える。
さらに、囚人たちには選挙権が無いため、農村地域の白人たちは大きな代表権を得られる。
そして彼らは、厳罰主義を主張する議員候補に投票するのである。
囚人の増加と刑務所の増加は、福祉や教育予算のカットに繋がっている。
この状態は社会を安全にはせず、家庭崩壊を促進し、貧しい地域をより寂れさせて、社会を危険にしている。
カリフォルニア州では、刑務所予算が州立大学の予算を超えて久しい。
アメリカでは、この問題に立ち向かう政治家は少ない。
厳罰主義に異を唱えることは、「犯罪者を甘やかす」と見られてしまうのである。
「社会の安全のためには、厳しい懲罰による見せしめが有効だ」との通念が、アメリカ社会には根強く残っている。
(メディアが、厳罰主義の考え方を宣伝し、国民を洗脳している)
黒人団体も、この問題には取り組んでこなかった。
全国黒人向上協会(NAACP)などの団体は、もっぱら黒人の中産階級の権益擁護に力を入れている。
黒人社会の分極化が、ここにも見て取れる。
近年になって、わずかながら変化が始まっている。
財政の危機のために、収監者数の抑制策が始まったのである。
2008年4月に成立した「セカンド・チャンス法」では、元囚人の社会復帰を容易にし、再犯を抑制する諸政策が盛り込まれた。
オバマ大統領は毎年、議会に1億ドル以上の「元囚人の社会復帰プログラム」を要請している。
(2014.4.28.)