(『ペンタゴンの陰謀』フィリップ・J・コーソー著から抜粋)
ロズウェル事件でアメリカ陸軍が手に入れた品のうち、私は接眼レンズ(暗視装置)の次に、『黒焦げになった半導体ウェハー』に目を向けた。
上司のアーサー・トルードー中将は、「ニューメキシコ州アラモゴードの軍事基地で働くロケット科学者に相談してみろ」と助言してきた。
ロズウェルに宇宙船が墜落した直後、ネイサン・トワイニング中将がアラモゴードのロケット科学者と会い、アメリカ軍が入手した(回収した)宇宙船について説明したのは知っていた。
「ウェハーのことは科学者に伝わっているのだろうか」と私は思った。
トルードーは、「ベル研究所にも相談してみろ。トランジスタはあそこの産物だし、そいつはトランジスタの回路によく似ている」とも言った。
聞くところによると、トワイニングは通信分野の研究で、ベル研究所やモトローラと密接な繋がりがあったという。
この時は知る由もなかったが、黒焦げの半導体ウェハーが、15年後には初のマイクロ・コンピュータを生み、パソコンを生むことになった。
元々コンピュータには、真空管が使われていた。
それがトランジスタ化されて、コンピュータはトラックに積んで移動できる大きさになった。
私はロズウェル事件のファイルを見て、25セント硬貨ほどの大きさの焦げたシリコン・ウェハーを目にした時、「これはコンピュータに使えそうだ」と思った。
まずハーマン・オバース博士に電話して、基本的な背景や事情を尋ねた。
ちょうどロズウェル事件のあった1947年に、メリーランド州のアバディーン兵器試験場で、初の本格的なコンピュータである「ENIAC」の開発が行われていたはずだ。
オバースは言った。
「科学者たちは、ウォーカーフィールドの格納庫で(ロズウェルで入手したものを)見ているとも。
アラモゴードの連中は皆、トワイニング中将と一緒にロズウェルに飛んで、ライドフィールド基地への宇宙船の移送を監督したんだ。
AMC(アメリカ軍・航空資材本部)のロケット科学者が、真っ先に墜落した宇宙船を仔細に調べたよ。」
オバースがヴェルナー・フォン・ブラウンから聞いた話によると、アバディーンでコンピュータの開発をしていた科学者らは、焦げたウェハーの極小回路に感嘆したという。
フォン・ブラウンは、焦げたウェハーが、商業用の開発が進められているトランジスタと同じ原理ではないかと考えた。
だがドイツやベル研究所が開発していたソリッドステート素子(トランジスタ)は、ロズウェル宇宙船のものの足元にも及ばなかった。
ロズウェルのものは、拡大鏡で見てみると、ソリッドステート・スイッチは1つではなく、複数のスイッチがまとまって回路を成していた。
誰もそんなものは見たことがなかった。
1947年の当時、ロケットには巨大な誘導制御システムが必要で、胴体に詰め込むのは無理だった。
だがロズウェルの技術を使えば小型化できて、ロケットに誘導システムを詰め込んで、我々も宇宙に進出できるかもしれなかった。
ロズウェル事件からしばらくすると、焦げたウェハーの分析が始まった。
ネイサン・トワイニング中将は、ベル研究所とモトローラのソリッドステート回路の研究者に、ロズウェルの回路を伝えて、現物を渡した。
やがて民間用と軍事用で、トランジスタ化された回路が登場した。
そして真空管は80年の歴史に幕を閉じた。
開発の行き詰っていた巨大サイズのENIAC世代のコンピュータは、ロズウェルの回路で活路を見いだし、小型化に成功した。
ロズウェル事件の前には、シリコンをベースにした半導体など夢にも思わなかった。
真空管からトランジスタへの進化は、テクノロジーの革新どころではなく、私も奇跡だと思っていた。
ところがロズウェル事件のファイルを見て、さらにハーマン・オバースたちから話を聞き、開発の真相を知ってしまった。
結論を述べると、ベル研究所の科学者たちは、1947年に焦げたシリコン・ウェハーを目にしていた。
そして私が改めてベル研究所に渡したシリコン・ウェハーは、トランジスタの次世代回路に変身した。
集積回路の歴史は、(私が科学者にシリコン・ウェハーを渡した)1960年代に始まったが、現在のパソコンは60年代に生まれたIC技術の賜物である。
1972年にインテル社が、4004と呼ばれる4ビットのマイクロ・プロセッサを初めて開発した。
そして初めてのマイクロ・コンピュータであるインテル8080Aを作った。
今では、地球の軌道上という無重力の環境で、極薄のシリコン・チップを生産する実験が行われている。
(※ここで抜粋している本は、1997年の出版である)
私は、スペリー・ランド社、ヒューズ社、ベル研究所といった各社の科学者と会い、最新の半導体回路の兵器への応用がどこまで進んでいるかを調べた。
私の仕事は、兵器開発への応用、特に弾道ミサイルの誘導システムに応用することだった。
(2022年10月19日に作成)