(『原発のウソ』小出裕章著から抜粋)
福島第一原発の事故の原因は、いたって単純です。
発電所が停電し、原子炉を冷やすための水をポンプで送れなくなったのです。
(稼働中の原子炉は、冷やさないとどんどん温度が上がっていきます)
津波によって送電網と非常用発電機が使えなくなり、電源車を接続するポイントも水没しました。
東電は思案のあげく、消防用のポンプ車を連れてきて、海水を注入することにしました。
海水を入れると、その原子炉は2度と使えなくなります。
そのために福島原発の所長は、東電の社長に決断を仰ぎました。
1号機への注水が始まったのは、12日の早朝です。
注水までに10時間以上も空焚きの状態となり、燃料の大部分が溶け落ちてしまいました。
事故が大惨事になったのは、この判断の遅れが大きな原因です。
2011年5月12日に、東京電力は、『1号機の圧力容器に水がほとんど溜まっておらず、高熱で燃料棒の大半が溶融したこと』を、初めて認めました。
いわゆる「メルトダウン(炉心溶融)」を、事故の2ヵ月後にようやく認めたのです。
これは、圧力容器の底に穴が開いてしまい、注入した水や溶けた核燃料が、格納容器に流れ落ちている状態です。
燃料棒の露出が続くと、過熱によってそれは溶融していきます。
2号機と3号機も、圧力容器の水位は回復せず、圧力容器が破損していると考えられます。
特に3号機は、11年5月にも圧力容器の温度が上昇し、一進一退の攻防が続きました。
東電は、2011年5月12日まで1号機のメルトダウンを認めず、「燃料棒の55%が損傷している」と言い続けていました。
「2号機の燃料棒は35%、3号機の燃料棒は30%が損傷している」と発表していますが、これも疑わしいです。
(その後、2号機と3号機でもメルトダウンが起きていると判明しました)
圧力容器の外側には格納容器がありますが、圧さ3cmの鋼鉄でできた格納容器は、1400~1500度で溶けてしまいます。
(このため、溶けた燃料は格納容器をも溶かし、さらに下のコンクリートや地面にめりこんでしまいました)
格納容器に水を注入して、圧力容器ごと水没させる冷却方法を、『水棺方式』といいます。
しかし格納容器に損傷があれば、この方法はそもそも不可能です。
1~3号機の格納容器に損傷があるのは明らかなので、汚染水が漏れてしまうし、大量の水を入れることを前提にして設計していないので、新たな損傷が生じる恐れもあります。
2011年4月末に、1号機の水棺作業が始まりました。
しかし、必要とされる7400トンの水を入れても、水位は上昇しませんでした。
水が漏れているのは明らかです。
5月14日には、1号機建屋の地階で、3000トンの汚染水が確認されました。
多くの研究者は、「とにかく循環冷却システムの構築を急ぐべきだ」と主張してきました。
原子炉を水で冷却するならば、水を循環式にして、途中に熱交換器を置いて熱を逃がさなければいけません。
「やるならこれしかない」と思っている方法が、1つあります。
圧力容器に水を入れると、水は漏れて格納容器の底に付いている「圧力抑制室」に流れ込むはずです。
そこで、圧力抑制室から水を吸い上げて、圧力容器に戻すループを作るのです。
大変に異常なループですが、思いつくとしたらそのアイディアしかありません。
1号機に関しては、核燃料が格納容器の下のコンクリートを溶かして、地下にめり込んでいる状態です。
ですから、もう循環式の冷却は無理です。
建屋全体を覆い、地中にも障壁を作るしかないでしょう。
核燃料が地下水と接触すれば、海にすさまじい汚染が広がります。
核燃料が溶け落ちて、圧力容器に溜まっている水と接触したら、水は急激に熱せられて沸騰し、『水蒸気爆発』を起こします。
水蒸気爆発が起これば、圧力容器やその外側の格納容器は吹き飛びます。
そして、大量の放射性物質が外に噴き出します。
原発は、「ウランの核分裂反応」で出るエネルギーを使います。
ウランは、「燃料ペレット」という小指の先くらいの小さな瀬戸物に焼き固められ、直径1cm長さ4mほどの細長いサヤの中に、400個ほどが収められます。
これが「燃料棒」と呼ばれるもので、それを数百本も束ねて、炉心に入れていきます。
非常事態になったら、炉心に「制御棒」を差し込んで、核分裂反応を止めます。
しかし、すぐには安全な状態になりません。
なぜなら、「崩壊熱」があるからです。
「崩壊熱」とは、核分裂によって生み出される放射性物質が出すエネルギーで、原発のエネルギーの7%を占めています。
崩壊熱は、放射性物質が存在するかぎり止められず、冷やし続けないと燃料は溶けていきます。
プルトニウムは、本来は燃料ペレットに溜まるのですが、ペレットが溶けてしまうと外に放出されます。
ペレットは2800度くらいにならないと溶けません。
プルトニウムの検出は、炉心が2800度以上になった事を意味します。