今回は、2012年9月に放送されたテレビ番組「ウクライナは訴える」の内容を紹介します。
この番組は、チェルノブイリ原発事故から25年経った2011年に、ウクライナ政府が発表した、『ウクライナ政府報告書 未来のための安全』が基本資料になっています。
この報告書には、事故から現在までのウクライナの、様々な放射線被曝の研究や、たくさんの被曝者のデータが集められています。
ものすごく重要な資料であり、日本はすべてを翻訳して、この情報を活かすべきです。
このテレビ番組は、とにかく衝撃的な内容で、日本がこれからウクライナのようになっていくのかと思うと、目の前が暗くなってきます。
しかし、現実から目を逸らさずに、ウクライナで起きた事を見つめる必要があります。
目を逸らしてしまったら、ウクライナが精魂を込めて蓄積してきた情報を得られず、ウクライナとまったく同じ悲劇が日本にも起きるからです。
この番組を見て、「日本はウクライナと協力をして、被曝対策や除染のノウハウを分かち合い、世界から原発を無くすための運動を一緒にしていかなくてはいけない。」と強く思いました。
ここからは、番組の内容を書いていきます。
○NHK番組「ウクライナは訴える」から
ウクライナの首都キエフの北、100kmの所に、チェルノブイリ原発はある。
チェルノブイリ原発では26年前に事故が起き、30km圏内は現在でも立ち入りが制限されている。
チェルノブイリ原発事故では、90トンの放射線を発する微粒子が放出された。
ウクライナは2011年に、『ウクライナ政府報告書・未来のための安全』を発表した。
この報告書では、「甲状腺がん、白内障、心筋梗塞、脳血管障害などが増えており、その原因は放射線だ」と報告している。
この報告書は、被災者250万人以上を調査して得られたデータを基にしている。
ウクライナのある病院では、膠原病の患者は、事故前は6人だったが、2004年に22人、2011年には45人に増えている。
現在、最も危惧されているのは子供たちである。
事故後に生まれて、汚染地域で育った子供たちは、78%に慢性疾患が見られる。
国際機関(IAEAなど)は、甲状腺がん等のわずかな病気しか、因果関係を認めていない。
ウクライナ政府の報告を、受け入れていない。
ウクライナは、ヨーロッパで一番肥沃な穀倉地帯が広がっている。
事故後も、汚染地帯には500万人が暮らしてきた。
だが事故後の数年間は、汚染のデータは住民には与えられなかった。
『ウクライナ政府報告書・未来のための安全』は、2011年4月のキエフ国際科学会議で発表された。
この報告書には、チェルノブイリ原発の現状や、事故がもたらした影響がまとめられている。
最も多くのページが割かれたのが、「住民の健康」に関する事だ。
報告書は、事故後25年に渡って患者を診てきた、35人の医師によって執筆された。
キエフ国立記録センターは、被災者のデータを管理している、巨大なデータベースだ。
現在は、236万4538人の被災者が登録されている。
ここには被災者の症状などが集められており、このデータを基に、政府報告書は作られた。
ウクライナ政府報告書は、注目すべき問題提起をしている。
それは、「多くの被災者が、心筋梗塞や脳血管障害などの、様々な慢性疾患を発症している」という訴えだ。
しかし、IAEAなどは「この報告書は認められない」とした。
国連科学委員会は、事故直後に原発で働いていた人の白血病と白内障と、汚染ミルクを飲んだ子供に起きた小児甲状腺がんしか、認めていない。
(これ以外は科学的に認められない、と主張している)
政府報告書は、心臓と血管の病気の増加に、注目している。
原発近くからの避難者の死因は、がん等を除くと、89%を心臓と血管の病気が占めている。
ウクライナ国立放射線医学研究所は、被曝の研究の中心で、政府報告書を書いた医師の多くが所属している。
その医師の一人が、ウラジミール・ブズノフだ。
ブズノフは政府報告書で、「心筋梗塞と狭心症の患者は、甲状腺投下線量で0.3~2シーベルトの被爆をした人は、3.2倍発症しやすくなる。2シーベルト以上だと、4.4倍発症しやすくなる」と発表した。
これまでは、これらの病気は心理的なストレスや社会的影響とされてきた。
ブズノフは、これまで心理的・社会的ストレスとされてきた影響と、放射線の影響を、比較する研究を始めている。
そして、この二つの影響はほぼ同じだと考えている。
ブズノフ
「低い線量の放射線が影響を与えるのは、心臓や血管の病気です。」
現在ウクライナは、被災地を被曝線量に応じて、ゾーンに分けている。
強制的に避難・移住させたのは、年間の被曝線量が5ミリシーベルト以上の地域。
移住勧告地域は、年間の被曝線量が1~5ミリシーベルトの地域。
放射線管理地域は、年間の被曝線量が0.5~1ミリシーベルトの地域。
取材班は、政府報告書の対象となっている汚染地帯の一つで、原発から140kmの町「コロステン」を取材した。
コロステンの人口は6.5万人である。
コロステンは、移住勧告地域と放射線管理地域が、混在している地域だ。
コロステンを含んだジトーミル州の住民の、原発事故からの積算被曝量は、移住勧告地域では26ミリシーベルト、放射線管理地域では15ミリシーベルトになっている。(セシウム137の調査)
コロステンの検診センターにある、ホールボディ・カウンターでの調査では、住民の内部被曝は調査を開始した20年前に比べて、大幅に減っている。
しかし住民の健康状態は、改善していない。
同検診センターの医師ザイエツによると、心臓の不調を訴える住民が多い。
ザイエツは、食事による内部被曝が原因だろうと考えている。
ザイエツ
「主な原因は、ミルクと肉だと思っています。
最も危険なのは、森で採れるキノコやベリー類です。
それらは8割方が、基準値を超えています。」
コロステンの市場には検査所があり、食品に含まれる放射線量を測れる。
豆類の基準値は1kg当たり、50ベクレル以下である。
コロステンでは、キノコやベリー類は、販売が禁止されている。
だが住民は、自給自足に近い暮らしをしており、自分たちで作った野菜や、自分たちで採ってきたキノコは、高ベクレルの可能性があるが、測定していない。
ウクライナ政府報告書では、低い被曝線量と心疾患(心筋梗塞・狭心症など)は関係があると、報告している。
「50~99ミリシーベルトの被爆をした人は、発症率が1.3倍になる」と報告した。
ブズノフ医師
「心臓や血管の病気を発症する人の多くは、汚染地域に住み続ける住民です。
セシウムは身体に蓄積します。 」
ウクライナ政府報告書は、白内障などの目の病気も報告している。
一方、WTOは「白内障は、積算250ミリシーベルト未満では、増加しない」としている。
このWTOの見解に、政府報告書は異を唱えた。
政府報告書で、白内障について執筆をしたパベル・フェデリコ医師は、「250ミリシーベルト以下でも、白内障の増加がある」という研究結果を発表した。
国際機関(国連やIAEA)が、「原発事故が原因だ」と認めている数少ない病気の一つは、『甲状腺がん』である。
なぜ、認められたのか。
実は、チェルノブイリ原発事故後、5年を過ぎてもIAEAなどは、事故収拾に働いた作業員を除いては、健康被害と事故との関係を認めていなかった。
しかし、現地の医師は早い時期から、甲状腺がんの増加に気づいていた。
政府報告書で甲状腺がんについて執筆した、ワレリー・テレシェンコはこう語る。
テレシェンコ
「私たちが甲状腺がんの増加を報告した時、IAEAやソ連は 『超音波診断の精度が上がったから、発見数が増えただけだ』と言いました。」
チェルノブイル原発事故から5年後の1991年に、IAEAは事故の報告書を発表したが、「放射線が健康障害を起こした事実は無い」と結論した。
これに対して、被災地域の医師たちが、疑問の声をあげた。
そして、被曝線量が正確に分からなくても、甲状腺がんなら因果関係を証明できると気づいた。
着目をしたのは、『放射性ヨウ素』である。
これは甲状腺に集まるが、半減期は8日で、事故から数ヶ月で消えていた。
このため、「甲状腺がんが放射性ヨウ素で起きるなら、事故時に生まれた子供は発病するが、事故から数ヵ月後に生まれた子供は発病しない」という仮説が成り立つ。
調査の結果、事故から数ヵ月後に生まれた子供は、ほとんど発病しない事が分かった。
これにより、甲状腺がんと放射性ヨウ素の因果関係は証明された。
1996年に、IAEAはこの事実を認めた。
ウクライナ政府は、甲状腺がんのように、他の病気についても因果関係がやがて証明されると、確信している。
ウクライナでは現在でも、大人の甲状腺がんの発症数が、増え続けている。
最近でも発病者が多い。
ワレリー・テレシェンコ
「放射性ヨウ素は、事故の2ヶ月後にはほとんど無くなりました。
しかし、甲状腺がんの発症数は上昇し続けています。
事故当時の影響が、現在まで続いています。」
甲状腺がんの発症数は、1986年に比べて、2009年は36倍くらいになっている。
テレシェンコ
「発症数が増えているのは、被曝線量が関係しています。
線量が高かった子供は、すぐに発症しました。
線量が低い子供は、時間が経ってから発症するのです。」
ウクライナが本格的に放射能対策を行ったのは、ソ連から独立した後のことだった。
独立後の1992年に汚染地図を作ったところ、線量にばらつきがある事が分かった。
この調査により、除染作業は事故直後から行われていたが、その効果は薄かった事が判明した。
コロステンでは、ホットスポット(年間被曝量が5ミリシーベルト以上)に近い民家8500戸の、正確な線量測定を行った。
1戸当たり、10ヶ所の線量を測った。
そして、汚染レベルの高い民家は、徹底した除染を行った。
屋根を吹き替え、土を取り除いた。
5年間で4000戸の除染に、1億ドルを費やした。
1戸当たりおよそ300万円である。
しかし、1997年に経済危機がウクライナを襲い、除染作業は中断した。
そのまま、除染は未だに再開していない。
コロステンでは、事故の後に学校の生徒の健康状態が悪化し、体力のない生徒が増えた。
2012年3月の健康診断では、生徒の48%が内分泌疾患、22%が骨格の異常となった。
そのため、生徒のうち正規の体育授業が受けられるのは、3%ほどである。
その他の生徒は、軽い運動しか出来ない。
生徒たちの症状には、「高血圧で時々意識を失う」「生まれつきの慢性気管支炎」「めまいとジストニア」などがある。
ウクライナ政府は対策として、汚染地帯の学校では、授業時間の短縮を行っている。
最近の生徒の症状で多いのは、心臓の痛みである。
多い日は、1日に3回も救急車を呼ぶことがある。
ウクライナ政府報告書は、被曝者から生まれた32万人を調査して、報告している。
1992年には子供の22%が健康だったが、2008年には6%まで減少している。
その逆に、慢性疾患を持つ子供は、92年の20%から、08年には78%にまで増加した。
報告書で子供の健康状態について執筆した、エフゲニー・ステパーノバ。
彼女の調査では、92年から09年までの17年間に、「内分泌疾患は11.6倍」「筋骨格系疾患は5.3倍」「消化器系疾患は5倍」「循環器系疾患は3.7倍」になっている。
日本では、福島での原発事故から1ヶ月少し経った4月22日に、一般人が居住し続けて良いとする被曝線量を、『年間20ミリシーベルト』に引き上げた。
この基準は高すぎるという声が上がり、政府は11月に有識者による会議を行った。
この会議で、獨協医科大の木村真三らは、『チェルノブイリ後の、現地の病気の増加』を説明した。
しかし、長崎大学の長瀧重信らは、「科学的に認められたのは、甲状腺がんだけだ」と反論した。
参加者の多くが長瀧と同じ立場をとり、12月に報告書が提出されたが、そこでは「甲状腺がん以外は、科学的に確認されていない」とされた。
そして、「年間20ミリシーベルトは、十分にリスクを回避できる値だ」と結論したのである。
コロステン検診センターの医師であるザイエツは、こう言う。
ザイエツ
「大学で教わったのは、500ミリシーベルト以上が危険だ、という事だけでした。
事故直後は、被曝量に余裕があると思っていました。
だから、何も注意しなかったのです。
私たちの失敗を繰り返して欲しくはありません。」
ウクライナ政府報告書の『原発事故と様々な病気には、関連がある』という訴えは、IAEAや日本政府には受け入れられていない。
○あとがき
2012年11月6日に作成を開始しましたが、内容が重いので勉強するのに気合が必要だったこと、映像を見て文章に起こす作業、衆院が解散になりそっちに関心がいっていたこと、によって完成が12月12日になってしまいました。
日本人の中には、「IAEAや日本政府が安全だと言っているから、大丈夫だ」と思っている方も若干います。
でも、その考えは極めて危険だと思います。
現状では、日本政府は国民を被曝から守ってくれないので、自分で被曝対策をするしかありません。
東北で農業や漁業をしている方には、本当に申し訳ないと思いますが、私は東北産のものは食べられません。
私が学んだ限りでは、明確なリスクがあるからです。
東北に暮らす方々には、子供だけでも地元のものはなるべく食べないように、指導してあげてほしいです。
(2012年11月6日~12月12日に作成)