NHKスペシャル「汚染水 福島第一原発 危機の真相」は、2013年12月に放送されました。
とても興味深い、それまで報道されていなかった内容に、私は感動すら覚えました。
以下に、内容を抜粋して紹介いたします。
福島第一原発の原子炉では、溶け落ちた核燃料を冷やすために、常に大量の水が注がれている。
この水が、汚染水として外に漏れ出し、地下水と交じって海に流れ出ている。
汚染水の流出は、止まっていない。
原発事故から2年9ヵ月が経ち、4号機の使用済み核燃料の取り出しが、始まった。
40年に及ぶとされる廃炉に向けて、ようやく一歩を踏み出したと言える。
しかし、汚染水が海に流出している事が、2013年7月に(参院選の直後に)発覚した。
溶け落ちた核燃料は、原子炉を突破して、格納容器に達している。
そして核燃料を冷やすために注がれている水は、損傷箇所から漏れており、建屋内に溜まっている。
さらに山側から流れ込む地下水が、建屋内の汚染水と交じる事で、汚染水は水増しされている。
汚染水は、1日に400トンも増え続けており、保管用のタンクは1000基に達している。
このタンクからの汚染水漏れも、相次いでいる。
汚染水の流出を止めるには、格納容器の損傷箇所を封じる必要がある。
原子炉には、1日に370トンの水が注がれている。
水は損傷箇所から漏れ出ているが、損傷箇所は分かっていない。
そのため、カメラを搭載した小型ボートが開発された。
このボートを、遠隔操作で水上移動させて、損傷箇所を探すのだ。
この『遠隔操作ボートによる調査』の費用は、3億円である。
(ボートを開発したのは、日立GEニュークリア・エナジーです。
日立は、原発メーカーとして有名です。
原発で儲けて、原発事故でも儲けるという、すさまじい会社です。)
損傷箇所と見られているのは、格納容器から伸びる巨大な配管だ。
そこを重点的に調査する。
調査に備えて、格納容器の一部を実物サイズで作り、ボート操作を訓練した。
格納容器の構造から、ボートは幅50cmのすき間に下ろす必要がある。
先月に(2013年11月に)、1号機の格納容器の外側を、ボートを使って調査した。
そしてカメラは、『流れ出る水を、初めて確認した』。
1号機の建屋内は、毎時5ミリシーベルトだ。
そのため人が滞在できるのは、ボートを投入する15分だけである。
投入したボートは、遠隔操作した。
ボートのカメラ画像には白いちらつきがあったが、それは高い放射線の影響である。
線量は毎時2シーベルトで、3時間で人が死ぬレベルだ。
カメラは、壁(格納容器の外側)を滝のように伝う汚染水を見つけた。
このポイントは、巨大な配管の真下だった。
そしてカメラは、もう1箇所、漏水している場所を見つけた。
それは「破損しているパイプ」からで、勢いよく流出していた。
今回の調査で、事故後に初めて、漏水している場所を突き止めた。
しかし、他にも漏水している箇所があるかもしれないし、水中の調査はまだこれからである。
専門家が、このカメラ映像を見た。
彼らが注目したのは、「破損したパイプからの流出」だ。
なぜなら、このパイプを調べる(直す)のは、非常に難しいからである。
パイプは「サンドクッションドレン管」と呼ばれ、格納容器とコンクリートのすき間にできる結露を排出するためのものだ。
これは非常に細く、遠隔操作のロボットを入れるのが困難である。
今回の映像は、事態の深刻さを改めて突きつけた。
核燃料の専門家である内田俊介は言う。
「トリチウムは、まだ20数年は出続けます。
セシウムは、40~50年は出続けます。」
(つまり、汚染水の流出を止めないと、被害は出続けるのです。
しかし、止めるのは困難なのです。)
2号機と3号機では、まだ損傷箇所は明らかではなく、調査すら行われていない。
福島第一原発の、港湾内のセシウム137濃度は、去年から下がらなくなっている。
(横ばい状態である)
この事は、『汚染水が海に流出し続けていること』を示している。
どこから流出しているのか。
疑われたのは、海の近くまで伸びている「トレンチ(配管やケーブルが通っているトンネル)」だ。
トレンチは、建屋につながっており、接続ポイントから汚染水が流出していると見られている。
それを裏付けるのは、セシウムの検出データだ。
トレンチ近くの井戸から、高濃度の検出がされている。
東電は、トレンチからの流出対策をしてきたはずである。
2011年4月に、トレンチから流出する大量の汚染水が見つかったからだ。
この汚染水は、基準値の2000万倍という、極めて高い濃度だった。
この不祥事の後に、東電はトレンチをコンクリートで固めるなどし、「漏水は止めている」としてきた。
しかし、トレンチ近くの井戸(地下水)からは、次々と高濃度のセシウムが検出されている。
東電は、汚染水流出の対策として、「地下に壁を作って、そこでせき止めること」を目指している。
使われるのは「水ガラス」という特殊な溶液で、地下で固まる。
水ガラスは、まず海岸ぞいに打ち込まれた。
しかし効果は無く、現在はトレンチを囲うように工事している。
対策を始めて5ヵ月が経つが、港湾内の海水の濃度は下がっていない。
さらに最近は、トレンチとは別の場所から、次々と新たな汚染が見つかっている。
新たな漏水ルートとして浮上しているのは、『1号機の建屋』だ。
2013年9月に、初めて建屋外の井戸から、高濃度のトリチウムが検出された。
検出ポイントを線で結ぶと、建屋から海に汚染水が流れているのが確認できる。
トリチウムの検出は、『これから汚染が拡大すること』を示唆している。
セシウム、ストロンチウム、トリチウムという、検出されている3つの物質では、トリチウムが真っ先に海に流れ出す。
セシウムとストロンチウムは、遅れて海に流出する。
トリチウムの検出は、しばらくしたらセシウムとストロンチウムが検出される事を示している。
1号機の建屋には、高濃度の汚染水が1万トンも溜まっている。
これが漏れ出ると、大変な事になる。
東電は、「建屋に損傷があっても、汚染水は漏れない」としてきた。
建屋に溜まった汚染水をポンプでくみ上げて、地下水よりも水位を低くしてきたからだ。
「水位を低くすれば、水圧によって漏れを防げる」というのが、東電の考えである。
しかし、本当に流出を止められているのか。
データを調べた結果、『事故から6ヵ月の間は、水位は汚染水の方が高かったこと』が明らかになった。
(つまり、モロに流出していたのである)
地下水の水位は、場所によって大きく異なる。
水位のコントロールによる汚染水流出の阻止は、容易ではない。
東電の相澤善吾・副社長の話
「地下水の水位は、ちょっとした事で変わります。
必要ならば、土地や土壌に手を加えなければならない。
今のところは、穴を掘って調べるしかない。」
国が流出対策に最も効果があると考えているのは、『凍土壁』だ。
320億円を投じる、巨大なプロジェクトである。
凍土壁プロジェクトでは、1~4号機を囲む全長1.4kmの地中の壁を作る。
土を凍らせて壁にし、汚染水を封じ込めようというのだ。
2013年12月から、効果を確かめる試験が始まる。
アメリカ・ワシントン州のハンフォード核施設では、地上でも地下でも除染作業が行われている。
ここでは、プルトニウムを作っていたが、地下にある汚染水を入れるタンクから、大量の汚染水が漏れた。
アメリカ政府は、長年にわたって対応に追われてきた。
東電は、ここで使われている「地下の汚染水を検知するシステム」に注目している。
地下に電気を流して、電気の流れ具合で汚染水をモニタリングするシステムだ。
さらに、ストロンチウムを除去する技術にも注目している。
リン酸カルシウムの溶液を使う技術で、ストロンチウムがリン酸と結合する性質を利用するものだ。
ただし、福島原発の汚染水には海水が含まれており(海水を冷却水として使ったためである)、効果は少なくなりそうだ。
海水のにがり成分が含まれているため、ストロンチウムの吸着が難しい。
2013年10月に日本政府が呼びかけた「汚染水対策の公募」では、780件の提案があった。
現在は、有望なものを選ぶ作業が行われている。
原発廃炉の作業員は3000人で、半数は福島の人である。
○ 村本尚立のコメント
今回の『遠隔操作ボートの調査』は、設置・操作する人々は高い被曝をしながらの調査です。
こうした作業は、原発事故さえ無ければ必要ないことです。
原発の高リスクさが改めて感じ取れました。
汚染水については、流出を止めるのはほぼ不可能だと思います。
格納容器の修復は無理だと思うし、そもそも核燃料が格納容器を突破している可能性も高いです。
地下水を完全に止めるのは、日本のような水や雨の豊富な土地では、無理だと感じています。
とりあえず10年は、福島沖の漁業は止めた方がいいです。
政府は、「福島沖での漁業は無理です。きちんと補償するので、別の職業について下さい。」と言うのが、誠意ある態度だと思います。