(毎日新聞2016年3月30日から抜粋)
福島原発の事故では、すでに処理費用の総額は12兆円を超えている。
その多くが、電気料金や税金で賄われている。
国民にどれだけシワ寄せがくるのか、東電と国は丁寧な説明を尽くすべきだ。
現在までの処理費用の内訳は、次のとおりだ。
被害者への損害賠償 6兆1681億円
放射性物質に汚染された地域の除染 2兆6321億円
汚染廃棄物の処理 7156億円
汚染土を保管する中間貯蔵施設の整備 3293億円
廃炉費と汚染水対策費 2兆2048億円
この総額は、12兆499億円である。
中間貯蔵施設は、最終的に1兆1000億円かかると見込まれている。
廃炉費も、どこまで膨らむか見通せない。
電力会社に支払う電気料金には、処理費が含まれている。
それを知れば、原発事故を身近なこととして考えるきっかけになるだろう。
制度上は、東電が事故の処理を負担しているように見せかけている。
だが、実態は違う。
賠償金を払いきれない東電は、政府に救済を求めて、国から資金交付を受け続けている。
東電は、支援されたカネを国に返済しなければならず、東電と全国の電力会社が電気料金に上乗せして少しづつ返している。
除染や中間貯蔵の費用は、環境省がいったん肩代わりして、実施後に東電に請求している。
東電にはその支払い資金も交付されている上、この資金の返済について2013年に国は仕組みを変えた。
除染費は、「政府が所有している東電株が将来に値上がりする」と見込んで、その売却益で返済する事にしたのである。
中間貯蔵の費用は、約30年にわたって、毎年350億円が税金から投じられる。
東電は、国の手厚い保護を受けながら、環境省が請求する費用の支払いに消極的だ。
放射線量が特に高い「帰還困難区域」について、政府は今夏にも方針を示すが、除染費用は東電に支払いを求める予定である。
だが東電は、同地区の除染費用について、支払いに応じる姿勢を見せていない。
今後、東電の株価が伸び悩んだり、除染費が膨らめば、政府は売却益で返済するのが困難になる。
その場合、除染費も電気料金に上乗せしたり税金から出すことになる。
このような状況下で、東電は柏崎刈羽原発を再稼働させようとしている。
事故処理を自力でできず、税金を投入してもらっている会社に、原発を動かす資格があるのか。
東電と国は、国民に大きな費用負担を強いている現状を明らかにし、原発のリスクを見つめ直すべきだ。