私が虫と遊び始めたのは、5歳の頃です。
4歳までは、親などの大人の監視が厳しく、自由に外で遊ぶ事ができませんでした。
しかし5歳になる頃からは、親などが私をほぼ構わなくなったため、外で自由に冒険を繰り広げられるようになりました。
私は冒険の手始めに、とりあえず自宅の周辺を調査してみる事にしました。
地面、どぶの辺り、家とブロック塀の隙間、はえている雑草や低木、などを対象として、「どうなっているのか」と、観察をしていきました。
すると、雑草に付いているアブラムシと蟻、隙間に巣を張るクモ、飛んでいるハエや蛾、などを発見しました。
私は、「ほおー、こんな奴らがいるのか。世の中は広いのう。」と感心しました。
見ていると、変わった形や態度をしている奴らばかりなので、すぐにちょっかいを出したくなりました。
でも自分はまだ小さいし、相手が何者なのかも分からないので、そっとしておくしかありませんでした。
それからしばらく経って、6歳になる頃です。
私はまだ保育園児でしたが、体力がそこそこ付いてきて、10~15cmほどの大きな石も持ち上げたり、どかしたり出来るようになりました。
嬉しくなった私は、そこらにある大きな石をかたっぱしから持ち上げて楽しみました。
自宅のすぐ向かいの畑の端っこにある、20cmくらいの石がごろごろと散乱している所にも足を運び、さっそく持ち上げてみました。
どれもかなり重くて、まだ持ち上げられない石もありました。
私は、持ち上げられそうな石を選び、「よいしょ!」と石を持ち上げてみたのです。
すると何と! 石の下には、それまで見た事の無い虫が、わんさかと居ました!
私はびっくりしてしまい、すぐに逃げ出しました。
その瞬間は完全にびびったのですが、数日してみると動揺から立ち直り、怖いもの見たさで、そこにいる虫たちが気になり出した。
そこで、勇気を出してまたそこに行って、再び石を持ち上げてみました。
私は「ドキドキ」していて、いつでも逃げられる体勢を取りつつ石を上げたのですが、前回よりは虫の数は少なくて、10匹くらいだったため、何とか耐えられるレベルでした。
私は、「これなら逃げなくて大丈夫そうだ。こいつらは何者なんだ?」と思い、しゃがみ込んで観察しました。
そこに居たのは、ハサミ虫、だんご虫、ぞうり虫(便所虫)、なめくじ、でした。
ぞうり虫以外は、初めての出会いです。
どいつも日陰者の雰囲気を漂わせており、あまり触りたくない感じです。
私は、木の棒を持ち、「ツン、ツン」とつっついてみました。
そうしたところ、はさみ虫以外は、大人しい奴だと分かりました。
なかでも『だんご虫』は、つっつくと丸まってしまい、逃げ出そうともしません。
私は、「おっ、こいつは大人しそうだな。こいつなら触っても大丈夫そうだぞ。」と思い、手に取ってみました。
だんご虫は、直径が1cmくらいで、足が20本くらいあり、ぞうり虫に似ています。
でも、ぞうり虫のようにすばしっこくなくて、簡単に捕まえられます。
手のひらに置いた、丸まっただんご虫を見ているうちに、なんだか「こいつなら、友達になれそうだな」と思えてきました。
私は、「よし、友達になってあげよう」と思い、一方的に友達になる事を決めました。
だんご虫の気持ちは、いっさい確認しておりません。
この日から、私とだんご虫の戯れる日々が始まったのです。
だんご虫が、石の下や暗くじめついたエリアにいる事は、すぐに把握しました。
それで、だんご虫を発見する事も容易になりました。
一番たくさんいるのは、例の大きな石がごろごろした場所だったので、大抵はそこで確保していました。
ある日、それまで持ち上げた事の無かったとても大きな石を、「うおー!!」と頑張って持ち上げた事があります。
そうしたら、驚いた事にだんご虫たちは1匹もおらず、小さな蟻が「うじゃ、うじゃ、うじゃ」と、とんでもない量で居たのです。
私はびっくりしてしまい、怖くなりました。
「なんなんだ、こりゃ」と思ったのですが、見ているうちに「これが噂に聞く、蟻の巣だ」と気付きました。
大きな石の下に巣を作っていたのを、私が石をどかす事で、白日の下にさらけ出してしまったのです。
蟻たちは、信じられないくらい動揺しており、何とか卵を守ろうと卵を牙にくわえて、右往左往しています。
彼らの世界では、国家規模の緊急事態であり、非常事態宣言が発令されて、警報が「ビー! ビー!」と最大限の音量で鳴っているのが見て取れました。
私は、最初は物珍しく観察していたのですが、だんだんと悪い事をしてしまったような気持ちになってきました。
そこで、巣の上にあった石を持ち上げて、そおっと元に戻してフタをしてあげました。
さて、だんご虫が大人しくて安全だと知ってからは、指でつまんで確保し、道路のアスファルトの上に運んで、じっくりと観察するようになりました。
だんご虫は、とにかく臆病な奴で、少しでも触ると丸まって防御姿勢をとります。
私は、丸まっているのを強引に指で開いてみようと試みましたが、相手の力がかなり強くて、こじ開けることは出来ませんでした。
仕方がないので放って置くと、『しばらくすると丸まっているのを解除して、また動き出す事』に気付きました。
30秒~1分くらいの間、そっとしておくと、だんご虫は身体を伸ばして、足を「ワサワサッ」と動かして起き上がるのです。
私は面白く感じて、動き出すのをじっと待っていて、動き出した瞬間に「ばかやろう! まだ俺はここに居るぞ。油断するんじゃねえ!」と触ってみました。
するとだんご虫は、「うっ!! この糞ったれは、まだ居やがったか!」と、また身体を丸めるのです。
だんご虫の反応が面白いので、私は何度も何度も、だんご虫が動き出した瞬間に、再びちょっかいを出す行為を繰り返しました。
そうしたら、7回目あたりから、だんご虫が丸まる動作をさぼるようになったのです。
だんご虫は、疲れが出たのか、いちいち相手をするのがかったるくなったのか、何度も触ってもノロノロと嫌そうに歩き続けます。
「もうやめてくれ。俺を放っておいてくれ。」と、身体全体で表現してました。
私は、『選手交代が必要だ』と感じ、そいつを元の場所に戻すと、新しく元気一杯の奴を確保してきました。
そしてまた、だんご虫が動き出した瞬間に触る遊びを、何度も繰り返すのでした。
だんご虫と友達になってから数ヶ月もすると、完全に触るのにも慣れました。
そこで、だんご虫を何匹も一度に確保して、道路に運んでボールの代わりにして遊ぶようになりました。
丸まっているだんご虫を、アスファルトの地面に置いて、指で弾いて転がしたり、ボーリングのように転がしたりと、かなりの虐待的な行いをしました。
だんご虫は、すごく軽いので、とても軽快に転がります。
アスファルト道路で転がすと、軽いのででこぼこに当たる度にピョンピョンと跳ねながら、かなりの距離を移動します。
私は楽しくなり、「どこまで距離を伸ばせるか」などと思いながら、何度も何度も転がしました。
かなり手荒に扱ったので、「大丈夫だろうか、死なないだろうか」と心配もしたのですが、驚くことに彼らは相当にタフで、少しショックを受けているくらいで動きに変化はありません。
私は、「やるじゃねえか。見直したよ。」と、またまた嬉しくなりました。
そうして気が付くと、「こいつらは、一体どこまでやれる奴らなのか」を調べたくなってきました。
私はまず、だんご虫を指でつまむと、立ち上がって手を前に出して、胸の高さからアスファルトの地面に落としてみました。
少しはダメージがあるだろうと思ったのですが、何と全くダメージは無く、涼しい顔をしています。
私は、感心しました。
そこで次に、高い所に移動して、2m位の高さから落としてみました。
それでも、やはり涼しい顔をしています。
私は、(この程度じゃ、だめだ)と思い、今度は手の平に持つと、ブロック塀の前に移動しました。
そして、塀を「キッ」と睨むと、全力でブロック塀にめがけて、だんご虫を投げつけてみました。
それで、壁に激突して「ポーン」と軽快に跳ね返ってきただんご虫を、見てみました。
すると、かなり痛そうにしていましたが、特に怪我を負っている感じはありません。
私は、そのタフさに尊敬心を抱き、彼らと友達でいる事に誇らしさを感じました。
私は、「こんなに強いならば、自動車に轢かれても大丈夫なのではないか?」と思い始めました。
心の中では、(いや、さすがにそれは無理だろう)と感じていたのですが、どうしても試してみたくなりました。
だんご虫の可能性に、賭けてみたくなったのです。
私は、手の平のだんご虫に「頑張るんだぞ」と声をかけて、自動車が遠くに現れるのを待って、自動車のタイヤが通る位置にだんご虫を設置しました。
そして祈るような気持ちで、自動車が通るのを見守りました。
自動車が去ると、だんご虫を置いた所に駆け寄り、だんご虫を探しました。
そうしたところ、だんご虫は完全にぺしゃんこになっており、即死しているのを確認できました。
私は、「やっぱり、ダメだったか…」と、深い悲しみにおそわれた。
死に様が「粉々に砕ける」という無残なものだった事もあり、自分の判断力の甘さで友を死なせてしまった事に、激しい後悔の念を持ちました。
実は、この『だんご虫ぺしゃんこ事件』までは、私は自動車の重量について、舐めていました。
親などから「自動車は危ないから、最大限の注意をしなさい」と言われていましたが、どうも実感が湧きませんでした。
自動車は、軽快に走るし、乗った時にも爽やかな乗り心地なので、重い奴だと思えません。
私は、『自動車は70kgくらいなのだ』と、想像していたのです。
このぺしゃんこ事件の少し前に、私の家の自動車が車庫から出る際に、弟が「ぼけーっ」と進行方向に突っ立っていて、『タイヤに足のつま先を踏まれる』というアクシデントがありました。
弟はショックと痛さで泣き出し、両親は急いで彼の足を確認しました。
幸い、特に異常はありませんでした。
私はこの一部始終を見ながら、(大げさだなあ。痛いのは分かるけど、そんなに心配するような事態じゃないでしょ~)と思っていました。
無知とは、本当に恐ろしいものですねー。
私は、(自動車に轢かれたら、かなり痛いだろうが、死ぬような事はまず無いだろう)と考えていました。
だんご虫がこなごなに砕け散る、むごい潰れ方をしているのを目撃して、初めて「自動車は、マジにやばいらしいぞ…」と、実感しました。
この事件では大いに反省をし、だんご虫にちょっかいを出すのを自粛する事に決めました。
悪気はなかったとはいえ、友を死地に追いやった事は、本当にショックでした。
私は、「もう、だんご虫には手を出さないぞ」と決心したのです。
ところが、2週間くらいするとムズムズしてきました。
相手を困らせる行為だと分かっているのに、どうしてもちょっかいを出したい。
そして、まただんご虫に色々と挑戦をさせるようになりました。
どのくらい強いのか試すために、「クモと戦わせてみよう」と思い、クモの巣に引っ掛けてみましたが、あっさりとクモに倒されてしまいました。
だんご虫に色々とさせてみて分かったのは、『防御力はとても高いが、攻撃力はゼロ』という事です。
攻撃力の無いところが、小さい私でも友達になれた理由でしょう。
この後も、しょっちゅうだんご虫と遊んでいたのですが、そのうちに蟻とか蝶に関心が移り、だんご虫からは徐々に離れていきました。
小学校に入ってからは、校庭に蟻がたくさん居るので、遊ぶ対象は蟻になりました。
だんご虫は、ほっとしていた事でしょう。
だんご虫は、私が虫の中で最初に仲良くなった(いじめた?)相手です。
今から振り返ると、大変に生命(生物)について勉強になったし、感謝の気持ちで一杯です。
どうも有り難うございました。
(2013年8月21日に作成)