ドラゴンランス戦記、あなたは知っているでしょうか。
知っている方は、かなり少ないでしょうね。
『ドラゴンランス戦記』は、全6巻の大作ファンタジー小説で、私が小学6年生の頃に大ヒットしていました。
私が小6ですから、1990年頃ですね。
私はこの作品が大好きで2回読み、大人になってからも2回読みました。
当時は人気作だったので外伝や続編も出ていたし、長く続いていくロングセラーの定番作になると思っていました。
しかし、数年するといつの間にか消えてしまいました。
(※実は10年位前に、ドラゴンランス戦記は単行本で復刻した事があります。
私も数冊買いましたが、最初に出た文庫本の方が表紙がかっこよくて、復刻版にはどうも馴染めませんでした…。
あと、ドラゴンランスのシリーズは日本では長く続編が翻訳・発売されませんでしたが、現在は刊行して出回っています。)
私は本を読むのが好きで、ファンタジー小説も沢山読みました。
その中でダントツに面白かったのが、この作品と『指輪物語』でした。
指輪物語も忘れ去られた存在でしたが、しばらく前に映画化されて大ヒットし、リバイバルしましたねー。
映画には原作のどこかほのぼのした雰囲気が無く、殺伐とした世界観のみで描かれていたため、私には不満がありました。
でも、再評価されたのは嬉しかったです。
指輪物語は、「純粋で一途な若者たちが主役で、勧善懲悪に近い世界」です。
それに対しドラゴンランス戦記は、「劣等感や弱さを持った大人達が主役の、アダルトで複雑な世界」です。
かなり色が異なるのですが、どちらも長編なのに飽きさせないすばらしい作品です。
ドラゴンランス戦記を読んだ事がない人に知ってほしいし、リバイバルしてほしいので、ここで取り上げることにしました。
まず、私がこの作品に出会った時の話をします。
特に作品と関係ない話なのですが、私にとってはかなり印象的な思い出なので。
前述した通り、この作品は、私が小6の時に大ヒットしていました。
そのため、この作品を読み感動した同級生が現れ、その同級生から「面白いから、読みなよ」と薦められたのでした。
小6くらいの頃は、男子は外で遊ぶ子が多くて、本好きの子はあまり居ません。
なので、その子は私に対して、「あいつは本好きだし、あいつなら理解してくれるだろう」と期待したのでしょう。
私は、彼からドラゴンランス戦記の1冊を見せられて、表紙のかっこ良さにしびれてしまい、大いに興味を持ちました。
そして、彼に付き添ってもらい、本屋に一緒に買いに行きました。
本を買いにいくのに小6にもなって友達に付き添ってもらうのは、変だと思うでしょう?
しかし私は、小6になる時に引っ越して転校したため、知らない場所が多かったのです。
その本屋も、この時に初めて行きました。
そこは小さな個人営業の店で、本棚以外のものはなく、本棚にはぎっしりと本が詰まっていました。
友達はどこにドランゴンランス戦記が置いてあるかを知っており、さっそくそこを見ました。
ところが、大人気だったので、何と第4巻しかありませんでした。
今思い出すと、本格的なファンタジー小説を手に取ったのは初めての体験で、立ち読みしつつ随分と緊張した記憶があります。
この作品は、内容も表紙も「大人向けの作品」という趣きで、子供にはやや敷居が高かったです。
パラパラと開くと、かなり漢字が多く、「うおっ、大人の臭いがする」と思いました。
パラパラとページを繰りながら、「第4巻だけじゃ、しょうがないよな。1巻から見ないと、話が分からないだろう。」と迷ったのですが、大人の雰囲気に負けてしまい、背伸びをして買ってしまいました。
その時は、一緒に買いに行った友達と、読破した後に熱く語り合うつもりでした。
しかし後述しますが、私はすぐには読破できずに1回は挫折してしまいます。
そして、その友達は別の中学に進学したので、結局は話せずに終わりました。
とにかく私は、少し大人のなったような良い気分になって、はりきって読み始めたのです。
しかし予想通りに、第4巻からだと、ストーリーが分かりませんでした。
ストーリーやキャラクターを把握できず、「苦しい! 話が見えん!」と頭を抱えました。
さらに、それまで読んでいた子供向けのファンタジーものと違って、町が焼かれたり、主人公の一人が死んだり、主役が敵側に寝返ったりと、衝撃の展開が繰り広げられていました。
ネタばれになるので詳細は書きませんが、主人公の一人が戦死するという展開には、本当にびっくりしました。
それまで接してきた世界では、死ぬのは悪い奴かザコキャラだったからです。
子供向けの爽やかな作品に慣れていた私は、「うおっ、こんなの有りかよ! ついていけねえ」と投げ出してしまいました。
そして、一年ほどは放っておきました。
中学生になってしばらく経った頃、何となくもう一度読んでみました。
すると、一回ある程度読んでいたからか、話に入っていけたのです。
最後まで読みきった時に、「今度は話が分かりそうだ。1巻から読んでみたいなあ。」と思いました。
そこで母に頼んで、買ってもらう事にしました。
母が本屋に行ったところ、在庫がなくて、取り寄せてもらう必要があると判明しました。
母から、「取り寄せになるって。どうする? まとめて残りの巻を頼むの?」と訊かれました。
私は迷った末に、「残り全巻で、お願いします」と頼みました。
すると、母は疑いの眼差しを向けつつ、「ちゃんと読むんでしょうね? 揃えておいて途中で投げ出すのは、なしだからね。」と脅してくるのでした。
私は驚き、ややビクつきながら、「ちゃんと読むよ、当たり前じゃんか」と答えました。
(自分の息子を疑うなんて、何て奴だ! だが、鋭い指摘でもある…)と、心が少し傷つきました。
(いざとなったら、読んでなくても「全部を読んだ」と言ってしまおう。息子を疑う母にはそれでもいいや。)とも思いました。
在庫が残り少ないのか、入荷するまで少しかかりました。
全巻が手元に揃った時は、誇らしい気持ちになりましたね。
この作品は、とにかく表紙がかっこいいんですよ!
全巻が並ぶと、それだけで良い気分になれました。
マニアックな話ですが、表紙にホログラフィックなシールが貼ってあるんです。
これが、ビックリマンチョコのキラキラシールみたいで、大好きでした。
今見ても(本棚に今でも置いています)、いかしてますね。
1巻から読み始めると、面白いのでどんどん進み、詰まることなく最後まで読めました。
ついに全巻を読破した時は、自分自身に感動しました。
考えてみると、それまで全6巻にもおよぶ長編の小説を読破した事は、ありませんでした。
やりきった達成感で一杯でしたねー。
もちろん、この偉業は作品が面白かったから達成できた訳です。
あの頃に、登場人物たちに感じた印象は、不思議と今でも変わらないです。
大人になってから読み返した時も、全く同じに楽しく読めました。
人間の感性や好みは、時を経ても、本質的には大きくは変わらないようですね。
私は、作品に登場する多くの魅力的なキャラの中でも、フリントやタッスルホッフという、お人よしで不器用な可愛げのある人物に好印象を持ちましたが、今の私でもそれは変わらないです。
さていよいよ、この作品の魅力について語りたいと思います。
ここまでの文章で多少とも分かると思いますが、この作品は『大人向けの作品で、ドロドロした部分を持っている作品』です。
私は基本的に、ドロドロした内容が大嫌いなのですが(日本のドロドロした純文学は、特に嫌いです)、この作品はいつ読んでも、投げ出さずに最後まで一気に読みきることができます。
(最初に読んだ時だけは、投げ出してしまいましたけど)
この作品の凄い所は、『キャラの性格など様々な設定がものすごく緻密なため、錯綜して時に理不尽にも思える人間模様にも、読み手が理解を示せること』です。
私は陰湿な世界が体質的に合わないらしく、日本の純文学によくあるようなドロドロした作品を読むと、
「お前達はアホか。もっとちゃんと生きて、人生を変えられるように前向きに取り組んでいこうよ」と、イライラしたり怒りが沸いてきたりします。
でもドラゴンランス戦記は、ドロドロの人間関係が繰り広げられていても、「その生きっぷり、分かる! 俺はその選択が理解できるよ」と思えるんです。
この作品の大きな目玉は、『主人公たちの性格や特徴がしっかりしていて、一人一人の個性が際立っており、ガンガン感情移入していける』ことです。
主人公には、「ハーフエルフのタニス」「盗人族のタッスルホッフ」「騎士のスターム」「戦士のキャラモン」「キャラモンの弟で魔法使いのレイストリン」「老ドワーフのフリント」などなどがいるのですが、それぞれのキャラの立ち方がはんぱじゃないです!
これらの人物達がパーティを組んで、世界を救うための冒険を繰り広げていくのですが、この作品の面白い所は、『皆が違う信念を持っていて、しょっちゅうぶつかったり独自の活動に走ること』ですね。
日本社会みたいな、和を何よりも重視する生き方の、対極をいっています。
それなのに、一致団結する時はするという絶妙な展開に、作者の力量を感じます。
もう一つの魅力的な点は、『出てくるドラゴンなどの敵が、とにかくかっこいい』ことです。
ドラゴンは、ファンタジー小説の定番であり、様々な作者が描いていますが、ここまでドラゴンを強くて危険な相手として描ききっている作品は、他にはないです。
力の足りない作者の作品だと、戦闘の場面を読み飛ばしたくなるものですが、この作品は読んでいて手に汗を握ります。
ドラゴンが炎を吐く場面などは、最初に読んだ中学生の時などは、怖くて読むのがつらかったくらいです。
ドラゴンランス戦記は、D&Dというテーブル・トークゲームが原作になっているからなのか、世界地図とか生活している種族の設定などに、とてつもないリアリティがありました。
キャラクターの一人ひとりに、血が通っています。
今振り返ると、私はこの作品を通して「エルフ」「ドワーフ」「ゴブリン」「ホビット」などを知る事ができました。
こういった生物については、今の子供たちはTVゲームでお馴染みなのでしょうが、私が子供の頃は一般的ではなかったです。
一般に普及したのは、TVゲームのFFシリーズが大ヒットしたのが大きいかもしれないです。
FFシリーズにはこれらの種族が出てきて、大活躍しますからね。
最後に、この魅力的な作品を、もう一度世に広める方法を書かせていただきます。
この作品をリバイバルさせるには、私は『マンガ化』が有効だと思っています。
ストーリー、キャラクターが最高にしっかりしているので、本格的なマンガ家がこれを取り上げれば、大ヒットすると考えます。
実は、もう15年くらい前から、「原哲夫さんがマンガ化してくれないかなー」と思い続けています。
原さんは「北斗の拳」や「花の慶次」を書いたすばらしいマンガ家で、画力は世界でも屈指なのですが、良い原作がないと輝かない人です。
「蒼天の拳」という、北斗の拳の焼き直しみたいな作品を書いていましたが、ストーリーに魅力が無く、原さんの力を活かせていないと感じました。
原さんは「自分が惚れ込めるキャラじゃないと、書きたいと思えないんだ」と、インタビューで述べていましたが、ドラゴンランス戦記のタニスやレイストリンこそ原さんが惚れ込める人物だと思います。
原さんの書くドラゴンやゴブリンを、見てみたいとず~と思ってきました。
原さん、どうですか?
原さんじゃなくても、画力と情熱がある人なら大歓迎です。
私はここ10年くらいマンガを読んでいませんが、もしドラゴンランス戦記がマンガ化されたら、買わせていただきます。
ドラゴンランス戦記は、ストーリー・キャラ・世界設定がすばらしく、さらに凄いことに大長編なのにストーリーにだれる部分がありません。
ファンタジーの長編ものは沢山ありますが、そのほとんどが完成度では、この作品の足元にも及んでいないと断言します。
奇跡の傑作なので、本当にお薦めですよ。
(2013年2月5日に作成)