世間ではよく、「笑いは百薬の長である」とか、「笑う門には福が来る」と言います。
このような考えに、私は100%賛同します。
笑いには、人を癒す力や、人に元気を与える力があります。
しかし一方で、TVのバラエティ番組などに出ているお笑いタレントを見ていると、「この笑いには、人を癒したり元気づけたりする力はない」と、私は感じます。
多くの人は、「笑いは笑いである。笑えれば、何でも良い。笑えれば、元気をもらえる。」と思っています。
その意識が、TVのバラエティ番組の内容に反映されているのですが、私の見るところこれらのバラエティ番組には、人々に良い影響を与える要素はありません。
つまり、ここでの笑いには、癒しも元気になるエネルギーもないと思います。
私は、『お笑いには、実は2種類がある』と感じています。
「芸術的なお笑い」と「消費物でしかないお笑い」の、2種類があると感じます。
今回は、この事を書いていきます。
お笑いについて考えるのに、非常に有効だと思える方法に、以前出会いました。
それは、恋愛についての本を通じてでした。
その恋愛本には、次のような事が書かれていました。
「恋愛には、本物の恋愛と偽物の恋愛がある。
これを見分けるには、恋人と会わずに1週間いてみれば分かる。
本物の恋愛は、一緒に居なくても寂しくなったりしないし、幸せな気分が長い間持続する。
偽物の恋愛は、一緒に居ないとすぐに寂しくなる。
幸せな気分が持続しない。
これは、依存関係にあるからだ。」
これを読んだ時に、私は「なるほど!」と感心しました。
この本には、
「恋愛というと多くの人は、すぐに会いたくなるのが情熱的な恋愛である、と考える。
だが、それは間違いである。
すぐに会いたくなるのは、依存関係にあるからだ。
本当の恋愛は、お互いを尊重し依存しあわないので、会わなくても不安にならない。」
とも書いてありました。
この考え方は、恋愛や人間関係の本質を、きっちりと捉えていると思います。
そして、この考え方は「お笑いの世界」についても、当てはまると思うのです。
私が本物のお笑い(芸術的なお笑い)だと感じるのは、『チャップリンの映画』『一流の落語』などです。
これらの笑いに接すると、幸せな気分が長く続くし、すぐにまた無性に見たくなるという事がありません。
私が思うに、『本物のお笑い(芸術的なお笑い)』には、「人間は、欠点もたくさんあるが、トータルで見ればすばらしい生き物なのだよ」というメッセージがあります。
どんな笑いの場面にも、『人間への愛・人間への温かい眼差し』があるのを感じます。
それに対して『消費物のお笑い』は、何のメッセージもないただの刹那的な笑いか、「人間は愚かである」「世の中には、たいして希望はない」「世の中は、しょせんこの程度である」といったメッセージがあります。
笑いの場面に、『人間をおとしめる意識、人生を諦める意識』があるのを感じます。
消費物のお笑いは、真の力を与える事が出来ないので、観客は見終わるとすぐに楽しい気分はなくなり、また見たくなってしまいます。
消費物のお笑いをよく観察すると、お笑い芸人とお客さんが「依存関係」になっている事に気付くでしょう。
この依存関係は、表面的には芸人とファンの温かい交流に見えるかもしれませんが、実は「利害関係」に近いもので、本当の温かい交流はありません。
消費物のお笑いの代表として、松本人志さんと明石家さんまさんを、挙げたいと思います。
この二人は、「刹那的な笑い」の達人なのですが、そこには『温かいメッセージ』がありません。
特にさんまさんの笑いは、とてもスケールが小さく、一つ一つの笑いに真の力がありません。
さんまさんは頭がいいので、その事に気付いており、小さな笑いを次々と連発する事で誤魔化しています。
しかし、それは真に人々を喜ばせる笑いではないと、私は感じています。
松本さんはかつて、「俺達は人気があり、大勢の人に支持されているのに、国から表彰される事がない。表彰されるのは、落語家など大して人気がない人達ばかりだ。これはおかしい。」と言っていました。
このような考えは、あまりに短絡的だと思います。
お笑いというものを、金や人気で評価せずに、『癒しや元気を与えるもの』として定義すれば、落語家などの実力が理解できます。
『本物のお笑い(芸術的なお笑い)』の一つの特徴として、「笑いの種を話の中に蒔いておき、時間をかけて育てて大輪の花を咲かせる」というものがあります。
ストーリーがしっかりと練ってあり、そこには自分の強いメッセージが込めてあるし、深みのある笑いになっています。
これらの笑いは、さんまさんのように闇雲に笑いのポイントを作るのではなく、「笑いを育てて」いきます。
そうして、人々の心に長く残るスケールの大きな笑いを、作り上げるのです。
どうでしょうか。
『芸術的なお笑い』と『消費物のお笑い』の違いが、感じられたでしょうか?
今のTV業界は、短期的な(短時間的な)目線になりすぎていると思います。
それによって、『消費物のお笑い』ばかりがTVで展開されてしまっています。
お笑い界の人々も、「本当に人を喜ばせる笑いとは何なのか」を、もっと考えてほしいです。
(2013年3月31日に作成)