肥料について③
リン酸とカリ

(『今さら聞けない肥料の話』農文協編から抜粋)

肥料のうち、リン酸やカリ(カリウム)は、溶けやすさで「水溶性」「可溶性」「ク溶性」の3つに分けられる。

リン酸の場合、「水溶性」は水に溶ける分を指し、「可溶性」は水に溶けないがクエン酸アンモニウムに溶ける分と水溶性の合計である。

「ク溶性」のリン酸は、クエン酸で溶けるもので、作物の根が「根酸」を出した時に初めて溶け出すリン酸のことである。
根酸を想定して、2%のクエン酸液に溶けるものをいう。

水溶性と可溶性のリン酸は、土中でアルミニウムや鉄とくっついて溶けにくくなる欠点がある。

それに対しク溶性のリン酸は、溶け出しは遅いが、不溶化しにくく、雨による流亡も少ない。

火山灰土のようにアルミニウムや鉄が多い畑では、ク溶性のリン酸を含む「熔成リン肥」がおすすめである。

不溶化が起きにくい沖積土や台地土では、安くて速効性の「過リン酸石灰」などが良い。

「重焼リン」は、ク溶性と小溶性の両方を含み、それぞれの欠点を補うタイプである。

リン酸は、土中に貯まりやすく、作物には吸収されにくい。

微生物に取り込まれたものや、作物の根に含まれるものを、「有機態リン酸」という。

有機態リン酸は、微生物が死んだり根が枯れると、ゆっくりと無機化していく。

無機化すると、水に溶けやすい「土壌溶液リン酸」になる。
こうなると、植物はそのまま吸収できる。

熔リンを多投したようなアルカリ性の土では、リン酸はカルシウムとくっついて貯まる。
これはク溶性で、根や微生物が出す酸に溶けて吸われる。

土の酸性が高いと、アルミニウムや鉄が溶け出しやすくなり、それとリン酸がくっついて土に貯まる。
こうなると植物はほとんど吸えない。

土に貯まったリン酸を使うには、苦土(マグネシウム)の施肥がある。

苦土とリン酸は助け合う作用があり、リン酸の吸収を促進する。

また土中の菌には、有機酸を出してリン酸を溶かすものがいる。
発酵した土だと菌が増えるので、有機酸を出す菌も増えてリン酸を使いやすくできる。

カリ(カリウム)は、繊維質を増やして細胞壁を厚くする。
だから風による倒伏を防ぎ、病気になりにくくする。

またカリは、養分の転流を盛んにする。
ピーマン農家たちは、「体内のカリが減ると、樹液のpHが下がり病気になる」と言う。

植物は、土中の水に溶けているカリを根から吸う。

そうやってカリが減ると、土に吸着されているカリが水に溶け出して均衡を保つ。

だが実は、こうしたカリは全土壌のカリの1~2%にすぎない。

残りは粘土に吸着された固定態カリと、鉱物中のカリである。

このため、カリ肥料を全くやらなくても、欠乏症状が出ないこともある。

植物の生育が進んでくると、カリの要求量が増えるので、欠乏することがある。

野菜はチッソの1.5~2倍のカリを吸収するため、チッソと同量にしていると次第に土中のカリが減ってくる。

カリはやりすぎても、土耕では障害は出にくい。
土耕だとカリは粘土に吸着されるからだ。

カリの吸収が多い作物では、石灰5、苦土2、カリ1で追肥をすると良い。

カリの吸収が多いのは、果菜類、イモ、マメ類、花卉類などである。

それに比べると、葉・根菜類はカリの吸収量が少ない。

カリの吸収をメロンで調べたところ、カリの半分以上が果実に送られており、交配期に急激に吸収量が増し、果実が大きくなるにつれて吸収量は緩やかになっていた。

リンゴでも同じ結果で、果実の肥大期にカリの追肥が効くようだ。

塩化カリは、水溶性でカリ成分が58~62%もあり速効性だが、多量にやると障害が出やすい。

硫酸カリは、水溶性でカリ成分は48~50%あり速効性だが、障害は出にくい。

サルポマグ(硫酸カリ苦土)は、水溶性でカリ成分は48~50%あり、水溶性の苦土が8~18%含まれる。
水に溶けにくくて、やや緩効性である。

ケイ酸カリは、ク溶性のカリが20%、可溶性のケイ酸が30%、ク溶性の苦土が4%で、溶けにくくて緩効性だが微量要素がたくさん含まれていて根が元気になる。

重炭酸カリは、水溶性のカリが46%含まれていて、速効性がある。

カリの自給肥料(自作肥料)としては、「草木灰」が有名である。
炭酸カリでアルカリ性であり、水溶性が5%ほど含まれ、土が硬くならず、リン酸などを含むのが特徴である。

敷きワラもカリ肥料で、ワラにはカリが多く含まれており、雨で簡単に溶け出てくる。

〇農家の青木恒男の話

リン酸は、植物の代謝やDNAの構造中で重要な役割を果たす。

またリン酸は、土壌の微生物や虫なども必要としており、本質的に速効性を求める肥料ではない。

リン酸は、若い葉や枝、根の先端や果実など、生長している所に集中的に必要となる。
リン酸が不足すると、植物は生長できない。

ただしリン酸は、チッソやカリほどの量は必要ない。
だがイモや豆類は多く必要とする。

ストック(※花の一種)を例にとれば、10アールで1作あたりにチッソとカリは30kgほど必要だが、リン酸は2~3kgと言われている。

リン酸の過剰使用から、それが湖や海に流れ込み、アオコや赤潮を発生させるのが問題になっている。

従来の農業指導では、リン酸は利用効率が悪いから必要以上に施用すべきとされてきたが、考え直す時期である。

リン酸は、製鋼スラグ由来のごく一部を除けば、工業的な合成をしたものはなく、リン鉱石を原料にしている。

リン鉱石は、ほとんどが大昔の動植物の化石である。

「過リン酸石灰(過石)」は、歴史的には骨粉に硫酸を作用させた肥料である。

動物の骨の主成分はリン酸カルシウムで、それに硫酸を混ぜた過石は水溶性の高い酸性肥料である。

酸性なので、アルカリ性肥料と直接混合すると効きは悪くなる。

「熔リン」は、水に溶けないク溶性で、元肥として使う。

火山灰の土壌でも効きやすく、アルカリ性なので酸性土壌の改良にも使える。

「骨粉」は、水に溶けず緩効性だが、熔リンよりは早く効く。

「リン酸アンモニア(燐安)」は、リン酸とアンモニアの化合物で、石灰を含まず、液体なので葉面への散布に使える。

日本に多い火山灰の土壌では、リン酸の固定が激しいので、土中にあっても利用できないリン酸が多くなる。

しかし温暖な本州では、リン酸は畑において藻類・菌類・微生物・虫といった形で循環している。

実際に私は、これまで黒ボク土の水田のイネ以外では、リン酸不足の症状を見た経験はない。

雑草や前作の残りでマルチングすれば、それを分解する虫たちなども含めてリン酸肥料になる。

次はカリだが、チッソやリン酸と違い、カリは植物の体の一部になるわけではなく、植物の体内で行われる反応の「触媒」になる。

植物は水と二酸化炭素からデンプンを作り、チッソを原料にしてタンパク質を作るが、カリが無いと正常に行えない。

また植物は葉で生産したデンプンを糖に分解して果実に蓄えるが、この時のエネルギー交換と運搬役もカリが担う。

植物は大きくなるほど、カリの要求量は多くなる。

植物は総体的に、初期はチッソ優先、後半はカリ優先になるので、カリの元肥での施用はムダが多く、追肥で施肥すべきである。

生産されているカリ肥料の多くは「塩化カリ」だが、カリ成分が60%と高く水溶性の反面、塩素が作物に悪影響を及ぼす恐れがある。

作物に塩素が多く吸収されると、繊維質の多い食感の悪いものになる。

だが綿や麻だと、逆に頑丈な良いものとなる。

露地の畑には「硫酸カリ」が安くて安全だが、冬には効きにくくなる。

また硫酸イオン(硫酸根)が副生物として残り、土を酸性化させる。

「重炭酸カリ」は、カリの相手が二酸化炭素なので空気中に放出し、残ったカリは強アルカリ性のため土をアルカリ化する。

「硝酸カリ」は、夏冬ともに安定して使える便利な肥料で、チッソを14%含んでおり、土壌に副生物を残すこともない。

水耕用の液肥としても使える。

カリは自然界に多く存在し、草や木を焼けば炭酸カリができる。
この草木灰にはカルシウムも含まれ、アルカリ性の肥料である。

また前作の残り(枯れ草など)も、カリ肥料として元肥的に使える。

(2022年10月30日~11月4日に作成)


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