肥料について④
副成分、カルシウム(石灰)、マグネシウム(苦土)

(『今さら聞けない肥料の話』農文協編から抜粋)

肥料には、チッソ、リン酸、カリの3要素の他にも、副成分が含まれている。

副成分のうち、肥料の袋にある保証票に表示できるのは、カルシウム、マグネシウム、マンガン、ケイ酸、ホウ素の5つである。

だから、副成分は肥料袋に書いてないことも多い。

なお、有害な重金属などは副成分とは呼ばない。

例えば「過リン酸石灰(過石)」は、主成分として可溶性リン酸を15~20%含むが、副成分として「硫酸カルシウム(石膏)」を50~60%も含んでいる。

硫酸カルシウムは、土中で少しづつ溶けて、カルシウムと硫黄(硫酸根、硫酸イオン)の供給源となってくれる。

つまり過リン酸石灰は、硫黄肥料、カルシウム肥料でもある。

一方で、「塩化アンモニア(塩安)」や「塩化カリ(塩加)」の副成分である塩素は、土中のカルシウムと化合すると塩化カルシウムになる。

塩化カルシウムは、融雪剤としておなじみで、非常に溶けやすい塩の様なもので、多量になると作物に悪影響がある。

塩素は、イモ類に使うと繊維が増えて食感が悪くなるとか、モモでは実が硬くなると言われる。

また田んぼで硫安(硫酸アンモニア)や過リン酸石灰を使うと、副成分の硫黄が根痛みや秋落ちの原因になるとされてきた。

「石灰(カルシウム)」は、炭水化物を実のほうへ移動させる働きがあり、植物の育成の中期から成長期に多く必要とする。

さらに石灰は、根の先端の生育に欠かせない。

石灰が効くと、細胞壁が丈夫になり、病気に強くなる。

石灰を好んで吸収する植物は、マメ類、トマト、キャベツ、タマネギ、サトイモ、ミカン、ブドウ、リンゴなどがある。

土壌コロイドに吸着された石灰は、交換性石灰とも言うが、土壌診断では主にこれを測るが、植物の根は吸うことができない。

土壌中の水に含まれる石灰は、水溶性石灰と呼ばれ、これは植物に吸われる。
しかし雨で流亡しやすい。

水溶性石灰が減ってくると、交換性石灰が少しづつ土壌の水に溶け出てくる。

水溶性石灰は、土中の炭酸イオンと反応して、しだいに炭酸カルシウムになる。

こうなると難溶性になるが、わずかづつは土壌の水に溶けるし、根酸(植物の根が出す酸)や微生物が出す有機酸に溶けて吸われたりもする。

有機物をきちんと入れている畑だと、カルシウムは分解時に微生物が出す有機酸と結びついて、有機酸石灰となる。

有機酸石灰は固まったり流亡したりせず、植物に吸われやすい。

「生石灰」は、強度のアルカリ性で、石灰岩を焼いて炭酸ガスを放出させたものである。
水を加えると発熱して、消石灰になる。

「消石灰」は、強度のアルカリ性で、生石灰に水を加えたものである。

消石灰はそのまま放置すると、空気中の二酸化炭素を吸収して、炭酸カルシウムに変化する。
だから施肥後は、土とよく混ぜる必要がある。
水に溶けやすくて、速効性がある。

「炭酸カルシウム」は、アルカリ性で、石灰岩を粉末にしたものである。
有機酸や炭酸を含む水に溶けて、徐々に効くので緩効性がある。

また、卵の殻、カキ殻、ホタテ貝殻も、炭酸カルシウムの肥料である。

カキ殻は効き目がおだやかで、キュウリやピーマンの生育中に振りかけると、ほとんどの病気を抑える。

「苦土石灰」は、アルカリ性で、石灰岩の中でもドロマイトを粉末にしたもの。
これはマグネシウム(苦土)を含む。

「硫酸石灰(石膏)」は、中性で、過リン酸石灰の抽出残渣(抽出した後の残りかす)である。

pHが5.5以下なので、中性からアルカリ性の土壌向き。

「過リン酸石灰」は、酸性で、リン鉱石に硫酸を加えてつくる。

pHは3と低く、石膏を50%ほど含むリン酸質の肥料である。

「塩化カルシウム」は、酸性で吸湿性が高い。
薬害を生じやすいとも言われる。

「硝酸カルシウム」は、酸性で、水によく溶けて速効性がある。

チッソ肥料に指定されていて、液肥などが市販されている。

ここからはマグネシウム(苦土)の話に移るが、リン酸が貯まっている(リン酸が過剰の)畑には、マグネシウムを入れると良い。

苦土とリン酸は仲良しで、植物の体内を移動する時に同じように動く。

また、リン酸は土中で動きにくいが、苦土はリン酸を動きやすくする。
(石灰とくっついたリン酸を、苦土は石灰と別れさせて自分と結びつける)

苦土は葉緑素の元で、苦土が効くと葉の緑が濃くなる。

キウイの葉だと、緑が濃くなって油ぎったような照りが出る。

ナスで苦土が欠乏すると、トラ模様に葉が黄化する。

苦土は、いろんな酵素反応を活性化させる。

しかし土中で流亡しやすい。

苦土は、生長の激しい部分、つまり新しい葉や果実にとても必要である。

本来ならば必要な分を根からすぐに吸収するが、根が傷んでいると苦土欠乏になる。

根が元気なのに苦土欠乏になる場合は、土中の苦土が不足している。

苦土は、苦土石灰のイメージしかないが、れっきとした多量要素肥料で、しっかり与えたい肥料成分である。

カリとの比率から見て、日本は苦土が不足している畑が全国的に多い。

肥料成分はプラスとマイナスの電気(電荷)を持つせいで、ケンカしやすい。

ケンカが起きにくい割合は、石灰5:苦土2:カリ1である。

すでに土中に石灰が十分にあったら、苦土石灰ではなく、苦土肥料を使うべきである。
その場合、畑のpHが中性かアルカリ性なら硫酸苦土を、酸性なら水酸化苦土が良い。

硫酸苦土は、酸性で水溶性で速効性がある。
苦土鉱石を硫酸で溶かして作っている。

水酸化苦土はアルカリ性で、ク溶性で緩効性である。
主に海水やニガリを加工して作っている。鉱石を砕いたものもある。

化成の硫酸苦土だと、硫酸と酸化マグネシウムを反応させるのが主流である。

なお、土壌の診断は業者に依頼しなくても、自分でできる「ドクターソイル」とか「みどりくん」を買う手もある。

〇農家の青木恒男の話

肥料はこれまで、チッソ、リン酸、カリが「3要素」と呼ばれ、それ以外は「その他の肥料」として扱われてきた。

これは18世紀からヨーロッパで発達した「肥料学」を、日本がそのまま輸入した影響である。

しかし、雨が少なく石灰質に富んだヨーロッパの土と、雨が多く石灰質の乏しい日本の土では、違いがあるはずだ。

近年、石灰の肥料としての重要性が言われ始めた。

農家が作物の病気と思っている症状は、石灰(カルシウム)と苦土(マグネシウム)の欠乏症と思われる例もよく見かける。

カルシウム(石灰)は、植物の細胞の骨格として必須で、しかも体内での移行性が小さい。

またカルシウムは、糖やデンプンの転流にも関わっており、体内で生成される有機酸を中和して体内のpHを中性に保つ働きもしている。

「生石灰(酸化カルシウム)」は、ふつうは石灰岩(炭酸カルシウム)を高温で焼いてつくるが、空気中の二酸化炭素と反応すると元の炭酸カルシウムに戻る。

だから使う時は、速やかに水をかけるか、土にすき込んで水酸化カルシウムに変える必要がある。

「消石灰(水酸化カルシウム)」は、乾燥した状態で空気中にさらすと、次第に炭酸カルシウムになる。

土中にすき込んだ消石灰は、長くカルシウムとして効くが、尿素や硫安と反応してアンモニア・ガスを発生させることがあるので注意が必要だ。

「炭酸カルシウム」は、石灰岩やカキ殻などを原料にしていて、尿素や硫安などと反応しないので同時に散布できる。

マグネシウム(苦土)は、葉緑素の中心になるもので、欠乏すると葉は黄化する。

またマグネシウムは、種子にリン酸を送り込む役目もしており、タネ取り用や種子を食べる作物に必要である。

「硫酸マグネシウム」は、硫酸とマグネシウムの化合物で、水溶性が高く苦土欠乏が見られる作物への急な追肥に便利である。

「水酸化マグネシウム」は、成分の半分以上が苦土で、強アルカリ性の肥料である。

しかもク溶性で緩効性なので、長く効く。

カルシウム、マグネシウム、カリ(カリウム)は、「アルカリ金属」や「アルカリ土類金属」に分類される。
つまり水に溶けるとアルカリ性で、酸性土壌を改良するのに使える。

(2022年10月30日~11月4日に作成)


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