(『今さら聞けない肥料の話』農文協編から抜粋)
〇ハウスでミニトマトを栽培する高木理有の話
トマトの追肥には、主に硝安、硝酸カリ、燐安、硝マグ(硝酸マグネシウム)を使ってきた。
ぜんぶ単肥である。
硝安は、硝酸態チッソとアンモニア態チッソが17.5%ずつ含まれている。
硝酸カリは、主成分が水溶性カリ46%で、副成分が硝酸態チッソ13%である。
燐安は、水溶性リン酸61%に、副成分がアンモニア態チッソ11%。
硝マグは、水溶性マグネシウム15%に、硝酸態チッソが10%。
つまりウチは、どれも副成分がチッソの単肥を選んでいる。
単肥は必ず、アルカリ性の成分と酸性の成分をくっつけて安定させてある。
硝酸カリでいえば、アルカリ性のカリと酸性の硝酸がくっついている。
カリは、溶けやすさで言えば、塩化カリ、硝酸カリ、硫酸カリの順だ。
いちばん速効性があるのは塩化カリだが、その分、土のECが上がりやすい。
海外から塩化カリが輸入され、それに硫酸を加えたのが硫酸カリで、硝酸ナトリウムを反応させたのが硝酸カリだ。
だから塩化カリが一番安い。
硝酸カリは少し高価だが、副成分のチッソも効く。
ハウストマトの場合、ECが上がるとカルシウムが吸われにくくなって、尻腐れが出やすいから、塩化カリは使えない。
硫酸性の肥料も、硫酸根が土に残るとpHが下がるので、使いたくない。
〇米を栽培する薄井勝利の話
硫黄はチッソと共にタンパク質をつくる成分で、イネの分けつに欠かせない。
だから茎肥までは硫安を使う。
穂肥は、もう分けつも止まるから、副成分がない尿素でOK。
日本は火山国で硫黄が土に豊富にあるから、施肥しなくていいと言われているが、多収を狙うと硫黄を補給する必要がある。
それと、茎肥でやる過リン酸石灰にも硫黄が含まれている。
カルシウムは過リン酸石灰を10アールに40kgふれば十分で、苦土石灰は使っていない。
〇青木恒男の話
石灰の欠乏対策は、消石灰のふりかけが一番手っ取り早い。
でも粉状だと風で舞い上がるから、顆粒状のタイプが使いやすい。
きゅうりやナスなどに上からバサバサ散布するのは、顆粒状がおすすめ。
私はすべての作物を、元肥なしで必要な量だけ追肥している。
作物ごとに吸収する成分のバランスが違うし、生育の段階でも必要な成分は変わってくるから、オール10などの化成肥料だけで生育をコントロールするのは不可能。
私も就業直後の数年間は、土壌改良と元肥をかねて牛糞堆肥や石灰を何トンもすき込んでいた。
しかしこれを何年もやると、様々な弊害が現れてきた。
下の表は、私の地元で調達できる、安価な有機質肥料の成分である。
乾燥鶏糞 チッソ4~6%、リン酸6~8%、カリ3~4%
ナタネ油の粕 チッソ5~6%、リン酸2~3%、カリ1~1.5%
鶏糞+オガクズ堆肥 チッソ1~2%、リン酸3~4%、カリ1~2%
牛糞+オガクズ堆肥 チッソ0.5~1%、リン酸0.5~2%、カリ0.5~1%
腐葉土 チッソ0.3~1%、リン酸0.1~1%、カリ0.2~1.5%
ストック(※花の一種)の一作に必要なチッソ量を30kgとすると、牛糞堆肥を0.7%で計算するならば4.3トンが必要になる。
これを尿素でまかなえば、20kg入りを3袋でいけるから、はるかに安上りとなる。
有機物は、C/N比(炭素とチッソの比率)が15~20くらいを境にして、それより低ければ化学肥料と同じ作用を、高ければ土壌改良剤として作用する。
これで考えると、麦ワラ・モミガラは、C/N比は60~80で土壌改良剤だ。
稲わらも50~60なので同じ。
トウモロコシ残渣と牛糞堆肥は、15~20なので中間的な存在。
ナタネ油粕と鶏糞は、6~8なので低度の化学肥料とほぼ同じだ。
私は、「施肥」と「土づくり」は別と考えている。
これを、土壌の「化学性」と「物理性」に言い換えると、理解しやすい。
土の化学性とは、肥料成分量などを計測したりして、数値で表せるものをいう。
土の物理性とは、腐植や団粒構造のできやすさや、保肥力や排水性をいう。
作物に必要な食べ物は単肥で化学的に、作物の居心地の良さは有機物で物理的に管理すればいいと考えている。
〇佐藤善博の話
過リン酸石灰は、最近は大粒タイプが流行だが、私は果樹でも野菜でも粉状を使っている。
過リン酸石灰は速効性だと言われるが、水に溶ける量が少ないから、実は効果が出にくくて、粒状ならなおさらだ。
肥料代を安くするには、単肥を混ぜる方法があるが、組み合わせには注意がいる。
硫安や硝安は、消石灰と混ぜると化学反応が起きて、アンモニア・ガスが出る。
毒性があって危険だし、チッソ成分が逃げてしまう。
尿素に大豆油粕を混ぜても、アンモニア・ガスが出る。
また、水溶性リン酸や水溶性マンガンを、石灰などのアルカリ性肥料と混ぜると、リン酸やマンガンが溶けにくくなる。
尿素と塩化カリは、混ぜると吸湿性が上がり、固まりやすくなる。
自分で混ぜた場合は、すぐに使うべきである。
種や農薬と違って、肥料には有効期限はない。
だけど開封したら使い切ったほうがいい。
特に消石灰は湿気で固まりやすい。
〇杉本正博の話
肥料が余った場合は、コンテナに入れている。
米ヌカなどの有機肥料はネズミに狙われるが、コンテナに入れれば防げる。
〇肥料を売る松元信嘉と小林国夫の話
正直、何が入っているか分からない肥料も結構ある。
信頼できるのは、袋に「保証票」がちゃんと付いているもの、成分がしっかり書いてあるものだ。
例えば「オール8」ならば、カリは8%入っているが、カリの原料が硫酸カリの場合と塩化カリの場合がある。
人参は塩化カリを使うと美味しいものができる。
逆にメロンは硫酸カリを使うと糖度が上がるという話がある。
硫酸カリのような硫酸由来の肥料はpHを下げるし、硫黄がキュウリなどのウリ科に効くと味が良くなる。
ところが「オール8」とかの化成肥料は、袋に原料が書いてない。
だからメーカーに問い合わせるのが一番だ。
今は緩効性の肥料が流行っているが、あれはコーティングされている。
例えば硫安は水に溶けやすくて速効性があるが、コーティングして溶けにくくしている。
熔リンは、リン酸肥料だが苦土やケイ素も入っている。袋には書いてないが。
熔リンはク溶性でじわじわ効くし、鉄やアルミナと結合しにくいのも良い。
ただし、土壌診断してリン酸が160mg以上入っていればもう十分である。
(2022年10月30日に作成)