肥料について①
チッソ肥料

(『今さら聞けない肥料の話』農文協編から抜粋)

硫安(※チッソ肥料の1種で、速効性がある)は15日で効き、化成肥料ならば30日で効く。

しかし実際は、土壌の状態で効きは変わってくる。

硫安や尿素を施肥すると、十分な水と温度があれば3分で土に溶けてしまう。

化成肥料の中のチッソは、溶けにくいリン酸やカリと混ざった化合物になっているため、もう少し時間がかかる。

マグネシウムを含むと、さらに溶けにくくなる。

硫安(硫酸アンモニア)は速効性があり、硝酸カルシウムはさらに速効性がある。

オール14は、硫安よりも遅い。

「有機態チッソ」とは、タンパク質やアミノ酸に含まれているチッソのことで、土の中で微生物に分解されてから植物に吸収される。

タンパク質は、まずアミノ酸に分解され、その後にアンモニア態チッソ(肥料袋にはアンモニア性チッソと書いてある)になる。

アンモニア態チッソは、水田だとそのままイネに吸収されるが、畑だとさらに硝酸態チッソに変わってから吸収される。

分解の過程があるため、有機態チッソは効果が出るのに時間がかかる。

「尿素」は有機態チッソで、人体でも作られる。

しかし尿素は、微生物の働きで直ちにアンモニアに変わるので、速効性がある。

夏のトイレでアンモニアの臭いがするのは、小便の中の尿素が微生物によって分解され、アンモニア・ガスが発生するからである。

尿素(尿素態チッソ)は、チッソの割合が46%と高く、散布が少量ですむ。

大量に使うと、アンモニア・ガスで作物に障害が出ることもある。

尿素は、土が酸性だと水によく溶けて気化しないが、土がアルカリ性だとアンモニア・ガスを発生する。

「硫安」のチッソ含有割合は21%である。

成分量の低い硫安のほうが散布にムラが出にくくて撒きやすいという人もいる。

硫安は土中で、アンモニア態チッソと硫酸根(硫酸イオン)に分解される。

「硝安」は、チッソの含有割合は41%で、土中でアンモニア態チッソと硝酸態チッソに分解される。

硝酸態チッソは、速効性は高いが、マイナスイオンなので土に吸収されず、水で流れやすい。

肥効の速度は、速い順に硝酸態チッソ、アンモニア態チッソ、尿素態チッソである。

「塩酸アンモニア(塩安)」は、チッソの含有割合は25%で、土中でアンモニア態チッソと塩酸根(塩素イオン)に分解される。

(硫安から生まれる)硫酸根と、塩酸根は、土中をフラフラと漂う。

硫酸根は、そこに含まれる硫黄は作物の必須元素である。
ただし土中を漂うので、pHを下げ土は酸性に傾く。

カルシウムがあると硫酸カルシウム(石膏)となって安定する。

塩酸根は、イネと強くしたり、タケノコなどの品質を良くすると言われる。
ただし硫酸根と同じく土中を漂い土を酸性化する。

また塩酸根は、塩素が繊維質をつくる材料となり、イモや根菜の食感を悪くするとも言われる。

チッソ肥料を撒きすぎると、土が酸性に傾く(pHを下げる)イメージがある。

たしかに硫安は土のpHを下げるし、あまり下がりすぎるとカルシウムやマグネシウムやリン酸を植物が吸収しにくくなる。

だがpHに影響するのは、肥料の副成分である。
主成分は作物に吸収されるが、副成分は土に残ることがあるからだ。

硫安の副成分の硫酸根は、土に残って酸性に傾けてしまう。

塩安も副成分の塩素が残って、酸性に傾ける。

一方、同じチッソ肥料でも尿素は、副成分の炭酸イオンがすぐに水と二酸化炭素に分解されるので、土を酸性に傾けない。

硫安のようなpHを下げる肥料は、「生理的酸性肥料」と呼ばれる。

尿素は「生理的中性肥料」で、消石灰などpHを上げる肥料は「生理的アルカリ性肥料」と呼ばれる。

ちなみに化成肥料の多くは、硫酸根や塩素を含むため、生理的酸性肥料である。

「硝酸態チッソ」と「アンモニア態チッソ」では、植物の吸い方が違う。

「硝酸態チッソ」はマイナスの電気を帯びているので、土にくっつかず、水と一緒に自由に移動して、作物が水を吸収するのと一緒にどんどん吸収される。
ただしマイナス・イオンなので雨に流されやすい。

「アンモニア態チッソ」は、土にくっつくので、植物の根がそこに近づいてから初めて吸収される。

「硝酸態チッソ」は、根から吸収されると葉に運ばれて、酵素の働きで亜硝酸→アンモニアへと変えられる(酸素を取る)。

そしてアンモニアは、光合成で作られた炭水化物と合成されて、アミノ酸になる。

最後にアミノ酸を材料にして体(タンパク質)をつくる。

硝酸態チッソは、細胞内の液胞や道管に貯蓄できる。

これを切り崩しながら、植物は体を生長させる。

ただし硝酸をたくさん貯め込むと、害虫が来やすくなる。

「アンモニア態チッソ」は、アンモニアは有害なので、根は吸収するとすぐに炭水化物を使って、アミノ酸に同化する。

ただし、アミノ酸に同化するのが得意な植物(好アンモニア性の植物)と、苦手な植物(好硝酸性の植物)がある。

〇農家の青木恒男の話

チッソ肥料は、私は3つのグループに分けている。

①硝安、塩安、硫安
強い酸とアンモニアとの化学反応でつくられた肥料で、水に溶けやすく速効性がある。

②尿素、IBチッソ、オキサミド
化学合成でつくられた有機物。尿素以外は水溶性ではなく、生物による分解で肥料化する。

③硝酸カルシウム、石灰チッソ、リン酸アンモニア(燐安)
肥料要素を反応させた化合物。

まず①のグループだが、強酸と弱アルカリ性のアンモニアを化学反応(中和)させて作った、簡単な塩である。

どれも乾燥状態では安定しているが、水に溶けると酸イオンとアンモニアイオンに分かれて、別々なふるまいをする。

硫安の場合、アンモニアは植物に利用(吸収)されるが、もう一方の硫酸イオン(硫酸根)は土中を漂い土を酸性化する。

硫酸根が安定するには、アルカリ性の物質と結びつく必要があり、石灰(カルシウム)がその相手となる。

つまり硫安は、最終的には硫酸カルシウム(石膏)として土中に蓄積されるので、これが「単肥や石灰を多投すると土が酸性化してカチカチに固まる」と言われる所以だ。

硝安は、非常に吸湿性が高く、放置しておくと湿気を集めて1日で溶けてしまう。

水に溶けると効き始めるので、極めて速効性が高い。

また硝酸は作物に吸収されるので、クリーンな肥料ともいえる。

厳冬期にキャベツやブロッコリーなどのアブラナ科の露地栽培で抜群の効果がある。

逆に夏は、活性が高すぎて塩害を起こしかねない。

次に②のグループだが、尿素はチッソ成分が46%と高く、水溶性なので、追肥や液肥で使いやすい。

ただし土中の石灰と反応して、アンモニア・ガスが発生することがある。
だから消石灰や生石灰との近接散布は避ける。

石灰でも、炭酸カルシウム(カキ殻や苦土石灰など)ならば激しい反応は起きない。

IBチッソとオキサミドは、ほとんど水に溶けず、微生物のエサになって分解された後にチッソ成分として効き出す。

粒状のIBチッソは(溶けにくいので)夏でも肥効が100日ほどあり、他の肥料と化学反応も起きないので、果菜類の元肥に最適である。

③のグループは、複数の肥料成分を含んでいるので、一般的には複合肥料として扱われるが、水に溶けた時点で硫酸根のような副生物を残さないので、水耕栽培の液肥などに便利である。

植物を構成する主要な元素には、酸素、水素、炭素、チッソがある。

このうちチッソ以外は、水や二酸化炭素として自然界から調達できる。

チッソは大気中に大量にあるが、植物は直接には利用できない。

根粒菌やラン藻といった限られたバクテリアは、空中にあるチッソを固定化でき、植物に供給できる。

さらに有機物のリサイクル(食物連鎖)でも、植物はチッソを得られる。

こうやって植物は、その場に留まって世代交代している。

人間が作物を栽培して収穫した場合、収穫して持ち出した分のチッソを補充しないと辻褄が合わなくなる。

(2022年10月28日、11月4日に作成)


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