(『トコトンやさしい土壌の本』4人の共著から抜粋)
厳密には、「土」は総体的な概念である。
「土壌」は、生命体に育てられた、植物や動物の棲息に適した土をいう。
一般的に土壌とは、ふわふわした柔らかい土を指す。
土の元となっているのは、主に崩れた(壊れた)岩石である。
地表にある岩石は、様々な要因で少しづつ崩壊していく。
岩石の裂け目には、藻類や微生物が入り込み、次いで地衣類が住みつく。
枯れた地衣類は、微生物に分解されて、有機物となっていく。
すると有機物を養分とするコケ類が侵入し、さらに養分がたまるとイネ科の植物が生育する。
ここまで来ると、ダニやトビムシなどの小動物や、ミミズやムカデが、岩石を崩していくと共に植物の遺体を分解して、有機物がさらにたまって黒い土ができる。
日本に多い火山灰も、長い時間をかけて微生物の働きで有機物が蓄積していき、やがて黒い土となる。
さらに土は、植物からもできる。
低湿地にできるヨシやマコモなどは、生育と枯死をくり返して、そこに堆積していく。
さらにワタスゲやマヌガヤ、ミズゴケなどが繁茂して、これらの遺体が堆積し、有機物に富んだ土ができる。
つまり土は、岩石や植物の遺体などを材料として、様々な生物が関わることで、数千年~数十万年かけて作られるのである。
土は、1つ1つの粒子の大きさで、サラサラするか、ネバネバするかが決まる。
大きさが直径2mm以上の粒子は、「礫」と言い、これは土には分類しない。
2mm以下のものを土粒子に区分して、粗い順に「粗砂(そさ)」「細砂(さいさ)」「シルト(微砂)」「粘土」と呼ぶ。
肉眼で粒子として見えるのは、細砂までである。
実際の土は、大きさの違う粒子が集まって出来ており、「埴土」(しょくど)は粘土の割合が高くて粘着性が強い。
粘土は、粒子が細かくて多くの土を含むので、雨が降ると靴につく。
粗砂や細砂は、粒子の間のすき間が広く、表面電荷をもたないので、粒子の凝集力も粘着性も弱く、さらさらした土になる。
粘土と砂の割合が半々の「壌土」は、中間的なほど良い土といえる。
埴土は、肥持ちや水持ちは大きいが、水はけは悪く、耕うんはしづらい。
砂土は、肥持ちや水持ちは小さく、水はけは良いが、少し耕うんはしづらい。
壌土は、肥持ちや水持ちは中くらいで、水はけも普通で、少し耕うんはしやすい。
土を構成している元素は、酸素が49%で最大である。
次がケイ素の33%で、その次はアルミニウムの7.13%、その次は水素の5%である。
この4つを足すと94%になるが、これらは全て無色透明である。
鉄は3.8%を占め、5番目に多いが、これが酸化状態によって赤や黄や褐色や青緑色になり、土の色を決めている。
鉄は、水の影響で還元鉄になると、灰色や青緑色になる。
排水の悪い水田を掘ると、青緑色や灰色の土が見られるのは、このためである。
土を構成する他の元素には、カルシウム、カリウム、ナトリウム、チタンなどがある。
さらに土には有機物が含まれているが、これは「腐植」とも言われ、多いほど土に黒味を与える。
温暖な場所だと、有機物の分解が早いので、土の黒味は薄くなる。
逆に冷涼な場所だと、有機物が分解されずに蓄積するので、土は黒くなる。
また、草原の土が森林の土よりも黒いのは、有機物の生産量が多いからである。
白っぽい土は、鉄や有機物の少ない土である。
一般的に灰色の土は、有機物と鉄は含んでいるが、水はけはやや悪く、肥持ちは普通である。
赤い土は、鉄を多く含むが有機物は少ない土で、乾いており、水はけは良い。
青い土は、有機物が少なく、水はけが悪いと出来る。
土に腐敗臭やカビ臭がある場合、未熟な有機物がまかれていたり、水はけが悪い土と判断できる。
この場合は、耕して土の中に空気を入れ、有機物の分解を進めると良い。
また排水溝を作ってもよい。
土は、土粒子や有機物の集合体である「固相」、孔隙(こうげき=すき間のこと)に存在する水の部分である「液相」、空気の部分である「気相」から成る。
固相率が高いと、水や空気は減って、水はけや酸素供給が悪くなる。
液相率が高いと、水持ちは良いが、水はけや酸素供給は悪くなる。
気相率が高いと、水持ちは悪くなるが、水はけや酸素供給は良くなる。
火山灰土は、固相率が20~25%と低く、水持ちと水はけは良好となる。
湿地や水田の土は、液相率は高く、気相率が低い。
埴土は、固相率が50%くらいで、畑にするのにバランスのとれた土である。
土粒子がバラバラに重なり合った状態を、「単粒構造」と言う。
土粒子が重なって、より大きな粒子群になっている状態を、「団粒構造」と言う。
土の中では、団粒が立体的に集まっており、団粒が多いほど隙間も多くなる。
土の中では隙間が狭いほど、毛管現象で水に強い表面張力が働き、隙間を水が埋める。
直径が0.0002ミリ以下の隙間にある水は、表面張力が強すぎて、植物が吸収できない。
逆に直径が0.05ミリ以上の広い隙間になると、水の表面張力よりも重力がまさるため、水は下方に流れていき、隙間は空気で満たされる。
狭い隙間も広い隙間もある土だと、水持ちも水はけも良い土となる。
土に含まれる養分は、イオン(プラスやマイナスの荷電を帯びた粒子)の形で存在している。
土のうち、粘土や有機物(腐植)もプラスやマイナスの荷電を帯びており、イオンを引きつける力がある。
これにより、土中の養分が水で流れ去るのを抑えている。
粘土や有機物が多い土ほど、養分を貯えられ、保肥力のある土になる。
そのため農家は、土に粘土や有機物を施用する。
微酸性から中性の土では、土はマイナスに荷電している。
この場合、プラス・イオンであるアンモニウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどが引きつけられて保持される。
肥料をやりすぎると、土中にプラス・イオンが増えすぎて、植物は生育不良になることがある。
土には緩衝作用があり、多少の養分の不足はイオン交換や有機物分解で補給される。
土中の小動物(ミミズなど)や微生物は、有機物を分解して無機の養分に戻す役割をこなしている。
土の中には、微生物が生息しており、肥沃な土だと1gのなかに1億以上が生息していると言われる。
これらの微生物は、極小のため土に含まれる有機物の1%にも満たない。
微生物の中では、糸状菌類(しじょうきんるい)は最も活力が高く、有機物の分解で大きな役割を担う。
ただし活力が高いため、植物病の原因となる菌も多い。
キノコや植物と共生する菌根菌(きんこんきん)も、糸状菌の仲間である。
(2024年1月14、19日に作成)