花總まりの初アルバム「エスペシャリー・フォー・ユー」を聴いた
(2016.4.23~24.)

4月19日に、ミュージカルの『1789 バスティーユの恋人たち』を観劇してきました。

その感想は、別の記事にして書きました。

観劇の際に、劇場入口にて出演者の1人である『花總まりさん』のCDが売っているのを発見しました。

受付の人に聞いたところ「ファースト・アルバムを出したが、けっこう評判が良い」との事。

私は、そのCD『エスペシャリー・フォー・ユー』を購入しました。

帯を見ると、今年は彼女が初舞台から25年、宝塚退団から10年という節目の年で、それを記念した作品らしい。

彼女に歌の才能があるのは明らかだし、この作品がそれなりに売れれば、セカンド・アルバムも作られると思う。
むしろ、これまで1枚もアルバムを制作しなかったのが不自然でした。

翌日に、さっそく全曲を聴いてみました。

そうして、色んな感想を持ちました。

まりさんがさらに進化する為の手助けになると思うし、感想を細かく書いていきます。

まず、アルバム全体の印象ですが、ゲスト・ミュージシャンはおらず、彼女がばんばん歌う硬派な内容でした。

選曲も優しく温かい歌ばかりで、彼女の性格に合ったものになっています。

アレンジもそれなりだし、制作費をかけないで作った感はあるけど、良質な部類に入るアルバムだと思います。

ただし、「日本に現存する女優の中で5指に入る花總まり」の歌唱力を遺憾なく発揮しているかといえば、そうではなかったです。

気になったのは、どの曲でも同じような歌い方をしていることです。

彼女の実力をもってすれば、曲ごとに歌い方を変えて、もっとカラフルな作品に仕上げることができたはず。

ここからは、1曲づつ感じたこと(主に改善したらいい点について)を書いていきます。

はっきりいって、凡庸な歌手が相手だったら、こんな事はしません。

彼女は天才だし、少しのアドヴァイスをしただけで多くを理解できる感性を持っていると分かっているので、厳しい事も含めた指摘をしたくなるのです。

私は、彼女が宝塚に在団中に、何度も手紙を書き、その多くは演技についてのアドヴァイスの内容でした。

私以外からも、多くの方から手紙をもらったりアドヴァイスを受けているでしょうけど、私が手紙で指摘したことはその後に反映される事が多かったです。

だから、(もしかしたら誤解かもしれないが)信頼関係をある程度は築けていると感じています。

以前は手紙だったが、今はネットを通して行います。

2人以外の多くの方の目にも触れるが、それも面白いと思う。

情報公開の一種ともいえます。

まず1曲目の『カノン~アヴェ・マリア』の感想から。

曲が始まると、カノン部分はクラシックの名曲のメロディ(歌は無し)でした。
で、その後にあの有名なアヴェ・マリアを、まりさんが歌うのかと思った。

でも、そうじゃなかった。
Giulio Cacciniという方の作曲した、別のアヴェ・マリアでした。

曲が始まってからしばらくは、まりさんの歌が登場せず、「まさかの1曲目からインストのパターンか? それは最悪のパターンだぞ。」と心配しました。

ごくたまにあるんですよね。ボーカリストのアルバムなのに、1曲目が歌無しというずっこけてしまうパターンが。

まりさんの歌が入ってきた時には、心底からホッとしました。

歌詞はとても単純で、アヴェ・マリアとの言葉を繰り返すのがほとんどです。
それでも聴かせるのだから、さすが花總まり。

このアルバムを聴いていて思ったのですが、彼女は以前よりも声に深みがありますね。

年齢を重ねて、落ち着いた大人の雰囲気を表現するようになった。

声質や声の響かせ方は、もう完璧といえるレベルだと思う。
とても魅力的です。

次に、2曲目の『広がっていくよ』です。

なんと作詞が、まりさんです。

で、けっこう良い歌詞を書いている。

この曲は、4分の3拍子(4分の6拍子)が採用されて、ジャズのリズムが基調になっています。

バックのベースやドラムスは、ジャズの感覚で演奏しています。

で、柔らかい感じでスウィングしているのですが、そこに乗っかるまりさんは違ったリズム感で歌っている。

バックがジャズなのだから、この曲ではまりさんもジャズ的な軽やかで切れのある歌い方にすると、ばっちり決まると思うのです。

まりさんは、1つ1つの歌詞をしっかりと色を(表情を)付けながら歌っているし、表現している内容は素晴らしいのだが、リズムがゆったりしすぎている(躍動していない)。

バックの出すリズムに合わせれば、もっと心に響く軽快で気持ちのいい歌になりますよ。

具体的に言うと、まりさんの出だしの部分は、リズム隊が休んでいるので、録音されている通りでいい。
ドラムスがブラシでサポートしている間も、ゆったりした歌い方でいい。

だが、ドラムスがスティックに持ち替えてチンチンとシンバルを叩き出す所からは、それまでとは表情を変えて、もっとフワッとした軽いノリ(いわゆるジャズの気持ちいいノリ)に変えたほうがいいです。

基本的に、シンバルを叩き始めてからは、「タン、タン、タン」というビートをしっかりと身体で感じて歌ったほうがいいです。

もっと拍子ごとに沈み込む感じが(そこに重みがある感じが)ほしい。

だけど、歌が重くなってはいけない。スウィングしなければいけない。
それがジャズの極意です。

上記の歌い方をすれば、この曲は2倍の魅力になると思います。

ジャッジーな感覚をもっと出して、リズムに粘り気を少し加えれば(まりさんが表現できるようになれば)、さらにかっこ良い曲に仕上がるでしょう。
ヒット曲になってもおかしくないです。

次は、3曲目の『愛の夢』です。

リストの有名な曲ですが、いい感じに歌っていると思います。

歌詞も良いね。

転調していくのに、全く無理がないのは素晴らしいと思います。

同じ音程が続く時でも、単調にならない。
1つ1つの音に力があるので、飽きがこない。

素直に拍手をします。
普通の歌手には絶対にできない事をしているから。

私としては、もう少し地に足のついた雰囲気がほしいですね。

おとぎの国の話を聴いているみたいで、現実感を得られないのがやや寂しいです。

これからまりさんが豊かな人生経験をさらに重ねていくと、もっと深い情感を込めて歌えるようになるのだと思う。

次に、4曲目の『You light up my life』です。

この曲は、評論しづらい。

なぜなら、英詞で歌っているからです。
歌詞が分からないと、きちんと表現しているかが見えてこないです。

だけど、バックのミュージシャンとは割と一体感がある。

2曲目よりも、はるかに一体感はある。

メロディは美しいし、良い曲だと思う。歌詞が分からないけど。

まりさんは、途中で数回、声が崩れて(乱れて)いますね。

修正していない(録り直していない)ので、ライブ感があり、興味深いです。

乱れているのは、歌詞が英語だからもある気がします。

彼女は、音を曲げたりタメたりする技術に、まだ未熟さがあると思いました。

今まであまり気がつかなかったけど、アルバムが発売されて、彼女の歌を自宅という落ち着ける環境でじっくりと聴いていたら、それが分かった。

音の曲げやタメを滑らかにスムーズに出来るようになり、時には粘っこく曲げたりタメたり出来る技術(黒っぽいフィーリングを出すこと)まで身につけたら、日本で最高の歌手になれます。

どうせなら、そのレベルまで行ってほしいな。

次に、5曲目の『青い地球』です。

この曲は、初めて聴いたのですが、素晴らしい曲ですね。

私が愛している「神との対話」の世界観を、表現しています。

で、その素晴らしい曲を、まりさんは一生懸命に歌っている。

気持ちが入っているのが、ひしひしと伝わっている。

だが惜しいことに、「あらゆる生命の繋がり」を表現しきれていません。

この曲では、もっと粘りとか躍動感(生命力)を出して欲しいです。

今までのまりさんの得意とする方向ではないが、表現できるようにきっと進化できる。

このバージョンだと、優しさ、柔らかさ、温かさしかない。

生命は、もっと多くの表情(表現)を見せている。
もっと沢山の事が、地球では起きている。

地球で起きている愛の表現を、全て歌に込めてしまうのだ。

まり、君ならできる。

あと気になったのは、この曲はキーが低くて、低音で歌うのが基本となっていますが、声に張りがなくてかすれてしまっている事です。

まりさんは元々(宝塚歌劇団でデビューしてから宙組に移籍するくらいまでは)、声が少しかすれていました。
その弱点は努力の成果で改善したけど、この曲では昔の声に戻ってました。

低音だと声がかすれるなら、それを克服してほしいです。

意図的にささやくような声で歌っているのなら、あまり効果的だと思わないです。

歌詞の内容からみて、実在感のある濃い声で、雄大な壮大な荘厳な雰囲気で歌ったほうが、感動的かつ説得力のあるものになるでしょう。

もっと情熱的に歌い上げていいと思うんですよ。

その方が感動できると、私は確信しています。

次に、6曲目の『ダッタン人の踊り』です。

この曲は、もっとフワフワと漂い、自由に遊ぶ感じが出るといいです。

具体的に言うと、音にもっと強弱をつけたり、音符を自分の感性で縮めたり伸ばしたりすると、パラダイスの雰囲気が出る。

この録音だと、妖しさとか楽しさとか不思議さが感じ取れないです。

もっと自由に崩して歌っていい。

次は、最後の曲で『道』です。

この曲では、開放感と軽やかさがもっと必要ですね。

時にはスタッカートぎみにして(あえて1つ1つの音を短く切り)、歩いていく感じがほしいです。

「行こうよー、顔上げて~」と盛り上がる場面では、力強く叫んでいいけど、それでも柔らかさと軽やかさを内包しておくべき。

どの場面でも、余裕感を維持した方がいいと思います。

この曲こそ、バック・ミュージシャン達に盛り上げさせておいて、自分はその上にフワッと乗っかればいい。

2曲目の『広がっていくよ』とは逆のやり方で、後ろにはガツガツやらせて、自分は違ったリズム(もっとゆったりしたリズム)を出していいと思います。

コンサートで歌う時には、笑顔全開でお客さんに手拍子を要求する曲にしてもいい。

そういう曲だと思うんですよ。
頑張りすぎると(一生懸命に歌いすぎると)、かっこ悪くなる曲だと思う。

最後になりますが、このアルバムからシングル・カットするならば、『広がっていくよ』と『青い地球』が良いと思います。

この2曲が、1番こころに響く力があると感じました。

私の助言も参考にしつつ、もっと歌い込んでから録音をし直せば、多くの人に評価される作品になるんじゃないかな。

1990年代からは、日本の音楽はずっと低調です。

だから、まりさんのような実力派が説得力のある練り上げられた作品を発表したら、大ヒットする可能性は高いと見ています。

応援してるよ、まり。


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