リー・モーガンの「ザ・サイドワインダー」のおまけ記事として、同アルバム収録の「Hocus-Pocus」のコード進行を紹介します。
皆がぶりぶり吹き弾いていく勢いのある演奏なので、コード進行はシンプルなのかと思っていました。
ところが調べたら、けっこう複雑な作りをしてました。
作曲者のリー・モーガンは、やんちゃで不良なイメージがあり、天才肌で勉強なんてしないタイプに見えますが、実は楽理を熟知した知性派なのだと気付かされましたよ。
A
|FM7 |Gm7 C7 |FM7 |B♭7 B♭7(♯11)|
(B♭m7 E♭7
|Am7 A♭7 |Gm7 G♭7 |F A♭7(13) |D♭7(13) G♭7(9,13)|
Am7 D7 Gm7 C7 FM7 D7 Gm7 C7 )
A'
|FM7 |Gm7 C7 |FM7 |B♭7 B♭7(♯11)|
(B♭m7 E♭7
|Am7 A♭7 |Gm7 G♭7 |F |B7(♯11) |
Am7 D7 Gm7 C7 FM7 Cm7 F7 )
B
|B♭ G7 |Cm7 F7 |B♭ |Am7-5 D7 |
|Gm7 |Am7-5 D7 |G7 |C7 |
(Gm7 C7 )
A
|FM7 |Gm7 C7 |FM7 |B♭7 B♭7(♯11)|
(B♭m7 E♭7
|Am7 A♭7 |Gm7 G♭7 |F A♭7(13) |D♭7(13) G♭7(9,13)|
Am7 D7 Gm7 C7 FM7 D7 Gm7 C7 )
〇 コード進行の解説
この曲は、裏コードをたくさん使用しているのが特徴となってます。
裏コードというのは、セブンス・コードの代理コードの1つで、代表的なのはⅤ7に対する♭Ⅱ7です。
基本的には、ベース音を半音で下降する滑らかなものにするために使われます。
Aの5~8小節目は、裏コードのオンパレードになってます。
5~6小節目は、A♭7とG♭7が裏コードですが、ベース音が半音下降になっていて、典型的な裏コード使用例ですね。
7~8小節目は、最初のF以外は裏コードの連続になっていて、ベースラインが滑らかでなく、これは特殊な使い方です。
ちなみに、A'の8小節目のB7も裏コードです。
Bは、前半はB♭キーに転調していて、4小節目でAmキーに転調します。
7小節目で、Amに解決すると思わせておいて、いきなり元のFキーに転調してG7(Ⅱ7)に進む。
ここが格好いい所ですね。
アドリブ・パートに入ると、コード進行がけっこう変わります。
それを下の( )内に書きました。
Aの4小節目はⅣmに変えられていて、その後も裏コードではなく通常のコードが使用されてます。
あと、ピアノがアドリブを終えると、Aの部分ではテーマ・メロディの簡略版とドラム・ソロの交換となりますが、そこもコードが変えられてます。
こうなります。
|FM7onC |Gm7onC |FM7onC |Bm7-5 B♭7 |
|Am7 | ドラムソロ | ドラムソロ | ドラムソロ |
エンディングは、最後のコードであるG♭7(9,13)の所でリズムがストップし、そのままG♭7(9,13)で終了します。
トニック・コードに戻らないで曲が終わるので、どこか中途はんぱな響きですが、それが「祭り(演奏)が終わったけど、まだ物足りないなあ」という、心残りな空気を醸し出しています。
エンディングに解決感が無いから、消化不良に感じて、頭からもう一度聴きたくなるんですよね。
そこまで計算して(何度も聴くように)作ってたとしたら、凄いですね。
(2017年6月21日に作成)