ジェフ・ベックは、史上最高のギタリストの一人です。
エレクトリック・ギターの世界では、もはや生きた伝説になっています。
彼はとても柔軟性とチャレンジ精神があり、様々なスタイル(ジャンル)のアルバムを創っています。
今回ご紹介する『ワイアード』は、一般的にはロック・アルバムとされているのですが、私にとってはジャズ・アルバムです。
なぜなら、とってもジャズの香りがするからです。
このアルバムが発表されたのは、1976年です。(私の生まれた年ですね)
当時は「クロスオーバー」とか言って、ジャズとロックなど、複数の音楽スタイルを合体・融合させるのが流行っていました。
このムーブメントは80年代まで続いて、やがて「フュージョン」というジャンルとして確立します。
1970~80年代には、実に沢山のフュージョン・アルバムが発表されましたが、私は『ワイアード』こそが「フュージョン作品の中の最高傑作」だと思っています。
一般的にはフュージョンの最高傑作というと、マイルス・デイビス、ウェザー・リポート、ジョージ・ベンソン、スタッフ、あたりの作品を挙げると思います。
でも私は、ワイアードの方が演奏がかっこいいし、曲もすてきだと思います。
「フュージョン」という音楽スタイルは、様々な音楽の要素を取り入れていますが、中核になっているのはロックとR&Bだと思います。
アドリブがあるのでジャズ的なスタイルだと思われがちですが、リズムも音色も、服装や態度などのファッション性も、ロック・R&Bに近いです。
だから、かっこ良さやエネルギッシュな躍動感がとても大事で、じっくりと聴かせる味わい深さはあまり重視されていないのです。
フュージョンは、ジャズの1ジャンルと位置づけされていますが、「実はジャズではないのではないか」とも思います。
私の感覚では、フュージョンのアルバムは、「ジャズに入るもの」や「ロックに入るもの」など、色んなアルバムがあります。
上記した通り、私はこのアルバムはジャズに分類します。
ジェフ・ベックは、元々はロック出身の人ですが、数多いロック・ギタリストの中でもクールでダイナミックなプレイでは、ジミ・ヘンドリックスと並んでピカイチです。
そして、デビュー当時からアドリブの冴えは伝説的なレベルでした。
だから彼は、「フュージョン」というスタイルにとってもマッチするのです。
このアルバムは、元々フュージョンと相性のいいベックが、ヤン・ハマーという最高のシンセサイザー奏者と共演をし、さらに楽曲にも恵まれたため、凄い傑作の誕生となりました。
ベックはこの作品の後にもフュージョン作品を出していますが、プレイスタイルを変えたため(ピック弾きから、指弾きに変えました)、音から切れ味や攻撃性が失われました。
私としては、何となく物足りないんですよね。
この作品に出会ったのは20歳の頃でしたが、あまりのかっこ良さに、私はギターを弾き始めていたので、耳コピーして真似しました。
しかし、全然真似になりませんでした。
今の時点から冷静に振り返ると、ここでのベックはありとあらゆるギター・テクニックを駆使していて、神技の連続です。
まだギター・テクニックをあまり知らなかった私は、真似できなくて当然でした。
当時は「何でこんな音を出せるのー?」と思いましたが、今聴くと「こんなに多彩なテクニックを次々と使っていたのか。こりゃ、ギターに詳しくないと分からんわ。」と納得できます。
まあ、とにかく凄い作品です。
エレクトリック・ギターの聖典といってもいいでしょう。
楽曲はどれもメロディアスで、リズムも練られた作りになっており、参加ミュージシャンのレベルは高いし、最初から最後まで飽きさせません。
特にギターにこだわりが無い人でも、充分に楽しめる作品です。
万人におすすめします!
ここからは、各曲の解説をしていきます。
まず、1曲目の「Led Boots」です。
イントロはドラムソロで始まるのですが、これがカッコイイんですよ!
「チチドチー」という出だしのドラムフレーズを聴いただけで、「おおっ、ワイアードの世界だ」と思わされます。
アルバムの最初の音から複雑なリズムパターンを出して、「うおっ!」と聴き手に思わせる展開に、ジェフ・ベックの妥協の無い孤高さを感じます。
このアルバムの曲は、どの曲もインパクトがすごくあって、耳に残ります。
そのため何回か聴くと、どこかで曲がかかると、最初の数音を聴いただけで「あっ、これはワイアードの中の曲だ」と分かるように、自然になります。
メロディ、アレンジ、各プレイヤーの演奏と、すべてが凄いから、ここまで印象に残るのでしょう。
イントロの後は、Aメロディになります。
ここでのベックは、高音を基調にした泣き叫ぶような音でメロディを紡ぐのですが、すごい表現力です。
聴くたびに、「ここまでギターを歌わせられるのか」と、衝撃を受けます。
彼は、チョーキング(音を曲げるテクニックの一つ)が上手いですよね。
自然に曲げてくるので聴き逃しがちですが、じっくりと聴くと絶妙な音の曲げ具合です。
Bメロディでは、8分の7拍子という変拍子を使っています。
これによって、知的な雰囲気を曲に加えています。
その後Aメロディに戻って、「ベックのソロ」に入ります。
マシンガンの様に音を出していますね。男臭い、ベック・ワールドの音です。
音数は多くないのですが、一音一音のエネルギーがすごいので、密度を感じさせます。
技術的な話になりますが、ギターアンプをフルヴォリューム近くにして、ノイズが出るギリギリの音量にする事で、この様なハードで表情豊かなサウンドを実現しています。
この「一歩間違うと(少しでもミスをすると)ノイズが出てしまう、リスキーなサウンド設定」が、ベックの真骨頂です。
ベックって、パッと見ると大雑把な荒っぽいプレイをしている様に見えるけど、ライブ中でも細かくアンプやギターの音を調整していますよね。
ベストの音色を狙って厳しいトーン設定はするけど、ノイズが出ないように配慮を怠らず、実際にノイズは出さない。
実は、すごい繊細なプレイヤーです。
そうじゃないと、あの多彩な表情を持つサウンドは作れない。
次は3曲目の「Goodbye Pork Pie Hat」です。
この曲は、偉大なジャズ・ベーシストであるチャールズ・ミンガスの作曲です。
ミンガスが演奏したオリジナル・ヴァージョンも聴いた事があるのですが、どんなだったか忘れてしまいました。
聴いた時に「ベックのヴァージョンの方が、かっこいいな」と思った記憶があります。
この曲はテンポが遅いので、私が20歳でフレーズ・コピーをした時に、結構真似する事ができた記憶があります。
ただし、細かいニュアンスについては、全然近づけることが出来ませんでした。
当時は分かりませんでしたが、ここでのベックは「チョーキング」「ハンマリングオン&プリングオフ」「スライド」「アーミング」「ヴォリューム奏法」「ピッキング・ハーモニクス」「ミュート奏法」といった、物凄い数のギターテクニックを次々と使用しています。
これらのテクニックを使い分けて、最適な場所で使用しているのですから、まさに神技です。
説明不要の名演なのですが、玄人的な解説をすると、『音の強弱の付け方』『様々な音色の使い分け』が、並みのギタリストと大きく違う点です。
普通のロック系ギタリストだと、バラードでも弱音をあまり入れずに、全体を通して「ドカーン」と激しくプレイしてしまうんです。
ロック系のギタリストは大抵、「ナチュラルな音色」と「弱音を活かしたプレイ」が苦手なのですが、ベックは違うんですよ。
様々なギタースタイルを、よく勉強していますねー。
彼は、自分が一番すごいと思うギタリストに、伝説的なジャズ・ギタリストである『ジャンゴ・ラインハルト』の名を挙げていました。
私もジャンゴは大好きですが、ロック・ギタリストでジャンゴをリスペクトしていると発言する人は、なかなか居ないです。
ベックの他には、ジミー・ペイジとジェリー・ガルシアくらいしか知りません。
ベックを始め、1960年代に出てきたイギリス出身のロック・ギタリスト達は、実に様々な音楽を聴いて勉強していますよね。
その後の世代のロック・ギタリストになると、ロック以外は聴かない人が多くなってしまい、そのためにロックが味気ない単調なものになってしまいました。
すごく残念です。
※ 長文になりそうなので、2回に分ける事にします。
(続きはこちらのページです)
(2013年1月17日に作成)