繰り返しになってしまいますが、もう一度録音データを書いておきます。
録音日は1953年1月30日。参加メンバーは次の通りです。
マイルス・デイビス(tp) ソニー・ロリンズ(ts)
チャーリー・パーカー(ts) ウォルター・ビショップ(p)
パーシー・ヒース(b) フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds)
ここからは、各曲を解説していきますよ。
まず、1~2曲目の「The Serpent's Tooth」です。
ここでは同じ曲を、テンポを変えて2度演奏しています。
1曲目は通常のミドル・テンポ、2曲目はやや速めのミドル・テンポです。
テーマ・メロディは、パーカーとロリンズのダブル・テナーのユニゾンで、荒っぽくやっつけ仕事的な適当さで吹かれていくのですが、ジャッジーな味わいがあり格好良いですねー。
私はこの曲をコピーした事があるのでよく理解しているのですが、このテーマ・メロディはくねくねしていて音が跳躍するので、かなり難しいラインです。
典型的なビバップ・ラインと言っていい、メロディ・ラインです。
その難しいラインを、適当な感じで吹いてもしっかりとこなしてしまう2人には、「参りました」と言うしかないです。
たまに2人がずれる辺りにも、ジャズの香りを感じてしまい、ミスしているとは全く思わないです。
このいい加減な感じが、いいんですよー。
並みのプレイヤーがいい加減にプレイすると、「ちゃんとやれ」と思ってしまいますが、このクラスのプレイヤーだと「う~ん、かっこいい」になってしまいます。
なんなのでしょうか。カリスマ性? 愛嬌? 不思議ですねー。
この2曲での聴き所は、何と言っても『ロリンズのアドリブ・ソロの素晴らしさ』です。
彼の2つのソロは、どちらも最高なのですが、とくに2曲目のソロはグレイトですね。
この時期のロリンズは、メロディに遊び心とひらめきがあり、挑戦的なのに美しい響きを保てる特別な輝きがあります。
この曲のコード進行は、よく使われる進行なのですが、そのありきたりなコード進行でここまで斬新な(今聴いても斬新なのだから凄い!)ソロ・フレーズを生み出せるロリンズには、ただただ感動するしかないです。
ロリンズのソロ・フレーズを細かく話すと、特にサビの部分でのフレーズが好きです。
1曲目の2コーラス目のサビの出だしのフレーズは、音を外しているように聴こえるかもしれませんが、完全に狙って出しています。
あえて外したような音を出して緊張感を高め、聴き手をドキドキさせておいて、そこから自然な解決をして「おおっ、効くぜー」とうならせるロリンズ。
最高です!
2曲目でのロリンズのソロは、あまりに素晴らしいソロなので、その後にソロを取るパーカーは動揺してしまい、少し間を置いてからソロを吹き始めているほどです。
ここでのパーカーは、ロリンズのソロに触発されて、ロリンズ的なリズム・アプローチを取り入れてソロを組み立てていきます。
その貪欲なチャレンジ精神は、正にジャズのマスターです。
この2曲目では、ロリンズはパーカーを完全に圧倒しています。
パーカーにはいつものアルト・サックスではないというハンディはありますが、それにしても人類史上でも最高のミュージシャンの1人であるパーカーをここまで霞ませるとは…。
恐るべし、50年代のロリンズ!
マイルスとパーカーは、この2曲ではやや不調といっていいでしょう。
この録音の頃のマイルスは、麻薬で身体を壊していた時期なので、音に安定感が無いし、にごった音をしています。
それでも、間を活かした(休符を活かした)ソロの構成力は、いつも通りにすばらしいです。
パーカーも、録音直前に酒を大量に飲んでいたため、音に元気が無く、かなりにごった音をしています。
でも、パーカーはやっぱりカッコイイんですよね。
後輩のロリンズの神がかったソロに刺激されて、必死に頑張っているパーカーを聴いていると、愛おしくなってきます。
最後の辺りでは、マイルスとフィリー・ジョーのソロ交換があるのですが、そこでのフィリー・ジョーのソロがとてもかっこいいです。
彼の音は、おしゃれで小粋で、スマートなんですよね。
大胆に叩いても、そこに汚さが出ないのです。 本当に大好きです。
フィリー・ジョーは、顔だけ見ると垢抜けない田舎の農夫みたいなのですが、音は洗練された世界であり、顔と音が一致しない人です。
たまにいますね、そういうミュージシャンが。
次は、3曲目の「'Round About Midnight」です。
この曲はセロニアス・モンクの代表曲であり、マイルスはこの曲を数年後に再び録音し、それは伝説となっているほどのクオリティです。
そのヴァージョンと比べると完成度において見劣りしますが、ここでの演奏もなかなかのものですよ。
特に中間部にあるパーカーの1コーラスのソロが、私は素晴らしいと思います。
パーカーにしては珍しいほどの音数の少なさで、ソロをじっくりと吹いていきます。
いつもと違うテナー・サックスだからでしょうけど、探り探りで音を出している感じで、とても不安定な雰囲気です。
でも、聴いていて癒されるのです。
パーカーの音には、常に高い知性があります。
それが聴き手に一種の安心感を与え、癒しにつながるのだと思います。
マイルスも好演していると思います。
音に極度の切迫感があるのが、終末的でクールな世界に仕上がっています。
最後に、4曲目の「Compulsion」です。
これが、最高なんです。熱い熱~い演奏になっています。
イントロの「ドーーー、ドーーー」というピアノの音から、すでに熱い雰囲気が全開で、しびれます。
そこにトランペットなどが絡んでくる展開が、絶妙ですね。
すばらしいアレンジだと思います。
この曲のテーマ・メロディは、ハード・バップ的な粘り気のある熱さがあって、休符を活かした凝った造りになっているし、聴くたびに元気をもらえます。
管楽器が3つある編成を活かした、厚みのあるアレンジになっているのが、かっこ良さのポイントだと思います。
この曲は、フィリー・ジョーのプレイが最高なんです。
曲の始めから最後まで、演奏全体にエネルギーを注ぎ込み続けています。
曲を通してドラムの躍動感は、はんぱじゃないです。聴いていて、身体が高揚します。
彼は演奏の熱気を冷まさないために、要所で煽りのフレーズを入れていくのですが、そのセンスが彼ならではのイカしたもので、耳に残るほどの存在感があります。
特に、ピアノ・ソロの途中に入れる、シンバルの「カカッカー」というフレーズが、意外性があって印象的です。
その場面は、何度聴いても「いいね~」と感心します。
各人のソロも、すてきですよ。
特にパーカーのソロが、切れ味がありスリリングで、胸が躍ります。
パーカーの後に続くロリンズも、独特のアクセントを付けたフレーズを展開しており、知的で8分音符を活かしたステキなソロです。
ソロのバックに何度か入る「テンンン、テンンン、テンンテ、ンンテー」というリフが、曲を盛り上げるアクセントになっているんですよねー。
いかにもジャズらしい演出で、盛り上げ方を心得ているアレンジです。
この演奏は、全体のまとまりがあって、ここで紹介した4曲の中では一番の完成度を誇っています。
もしどれか1曲をダウンロードするなら、この曲がおすすめです。
このアルバムを初めて聴いたのは、もう10年位も前になります。
聴いてすぐに大好きになったアルバムですが、世間的な知名度はほとんどない作品です。
その最大の理由は、録音してから発売するまでに数年かかってしまったからでしょう。
おそらく、パーカーが契約の関係から本来は参加できないのに、チャーリー・チャンという偽名で参加している録音のため、彼の生前に発売するのが困難だったのだと思います。
パーカーは1955年に亡くなり、その後によくやく発売できる状況になった。
内容は素晴らしいので、もっと多くの人に知ってもらいたいです。
このアルバムは、ジャケットの絵がださいんですよ。
ジャケットがかっこ良かったら、多少は評価が違っていたかもしれないです。
CD時代になるとジャケットの存在は稀薄になりましたが、LPレコードの時代は『ジャケットがお洒落かどうか』も売り上げに影響していました。
ジャズ・アルバムのジャケットはお洒落なものが多いので、このアルバムのだささは余計に目立ちます。
本作品を出したプレスティッジ・レーベルって、たまにとんでもなく酷いジャケット・デザインがあります。
常に高クオリティのブルーノート・レーベルとは大きな差がありますね。
(2013年5月15日に作成)