ケニー・ドーハムの「クワイエット・ケニー」②

ここからは、『クワイエット・ケニー』の残りの曲を紹介していきます。

最初に、参加メンバーを再び書いておきます。

ケニー・ドーハム(tp) トミー・フラナガン(p)

ポール・チェンバース(b) アート・テイラー(ds)

まず、5曲目の「Blue Spring Shuffle」です。

この曲は、シンプルなブルース曲です。
ドーハムはたくさんのブルースを演奏していますが、ここでの演奏は特にかっこいいと思います。

とにかくアレンジがいいんですよ。
展開の素晴らしさに、しびれますねー。

イントロは、ポール・チェンバースの独奏で始まります。

ポールは最高のリズム感をしているので、シンプルに4ビートで弾いていくだけなのに、めちゃくちゃかっこいいです。

この味は、ポールじゃないと出ないですねー。
彼は、深い音色と、優しくも激しいビートをしていて、私は大好きです。

テーマ・メロディは、良くある感じのメロディです。

ここでは、アート・テイラーのハイハットが聴き所だと思います。
「チーー、チッチ、チーー」とごく普通の形で叩いているのですが、スーパー・スウィングしています。

切れ味やバネがはんぱではなく、躍動感に溢れていますね。
この軽やかなスウィング感は、テイラーならではです。

要所に「ダアッ」と入れるスネアも、ツボを心得ていて、決まってます。

そして、ドーハムのソロが始まります。

何気なく吹いてますが、メロディアスで、1つ1つのフレーズにしっかりとした歌心があります。

ほんと、この日のドーハムは絶好調ですね。
肩から力が抜けている感じで、とても自然に演奏しています。

ドーハムの後には、フラナガンのソロが続きますが、こちらも粋で軽やかに歌っています。

フラナガン・ソロの後は、『第2のテーマ・メロディ』が出てきます。

曲頭のテーマ・メロディとは別の、もっと軽やかな、リズムを強調したウキウキするメロディです。
曲の中間にこのメロディを入れる事で、休憩というか景色を変えるような構成にしています。

このアレンジが、実にすてきなのです。

特に、ドーハムとポールがユニゾンでメロディを奏でる所が、最高にジャッジーで素晴らしい。

トランペットとウッドベースがユニゾンで奏でるなんて、なかなか聴けないです。

スーパー・テクニシャンのポールだからこそ、ここまでスムーズに管楽器と溶け合えるのです。
普通のベーシストには、まず無理な芸当です。

ウッドベースでここまでの軽やかさを出すのは、信じられない位に大変なんですよ。

「ンンダ、ダダダ、ダーダ」というメロディの隙間に、合いの手として入る、ドラムのスネアの「ンタ!」というフレーズも、最高ですねー。

これぞジャズ! といった雰囲気で、良い気分になります。

第2のメロディで遊んだ後は、ベース・ソロになります。

いつも通りのポールのすてきなソロが披露されるのですが、最後に『第2のメロディ』を弾き始めます。

そして、そのメロディの合間に、ドーハムがドラムと一緒に「ンパ」と合いの手を入れるのです。

ドーハムは最初は沈黙をしていて途中から合いの手を入れ始めるので、即興で入れたと思うのですが、素晴らしいアイディアだった思います。
演奏に温かいエネルギーを注ぎ込む効果をもたらしていますね。

この曲では、全員に一体感があり、リズムは躍動しているのに自然な響きを保ち、とても滑らかな感じがします。
この滑らかさが、スウィングするのには大切なんですよねー。

次は、6曲目の「I Had The Craziest Dream」です。

この曲がこのアルバムのハイライトだと思います。

私はこの演奏が、大大大好きなのです。

初めて聴いた時から、「何と美しい演奏なのだろう」と、感動しっぱなしです。

この演奏は、とにかく最初から最後まで、美しいの一言です。

最高にスウィングしているし、ドーハムのソロは完璧な構成です。

これ以上に素晴らしいドーハムの演奏は、聴いた事がないです。

これを聴いて何も感じなかったら、ジャズは向いていないのではないでしょうか。
そう言える位に、圧倒的な名演です。

テーマ・メロディは、ドーハムはシンプルに飾り気なく吹くのですが、メロディの小粋さがドーハムの柔らかい音色と最高にマッチしていて、大感動します。

彼の吹き方が(ニュアンスの付け方が)素晴らしいため、メロディが耳に焼き付いてしまい、聴くたびに一緒に歌ってしまいます。

彼はアドリブに入ってからも最高で、私はこの曲でのドーハムは、残された全録音の中で一番のアドリブをしていると思います。

最初から最後まで、一音も無駄になっていない、最高のアドリブです。 
奇跡のアドリブです。神秘的なエネルギーを感じるほどです。

ドーハムの後は、フラナガンのソロになりますが、このソロも美しいです。

ここまではベースは2ビートでしたが、ここからは4ビートになり、一気に演奏が華やかになります。

前奏者のドーハムに比べて、フラナガンは3連符的な「タータ、タータ」というリズムを強調していて、ぐいぐいとリズムを引っ張っていきます。

ドーハムの「タタ、タタ」という普通の8分音符的なリズムからは、がらりと空気が変わります。

この変化が、おしゃれなんですよー。

少し話が脱線しますが、ドーハムは基本的に、あまり3連符的なリズムにしない人ですね。

8分音符を「タータ、タータ」という3連符のニュアンスにすると、すごくスウィングするのですが、やかましい響きになってしまう時があります。

ドーハムは、静かな優しい表現や微妙なニュアンスを重視するスタイルなので、あまり3連符にしたがらないです。
マイルス・デイビスも同じ傾向にあります。

逆に、クリフォード・ブラウンは常に3連符にします。
これでもかというほどに、3連符のリズム感で演奏してきますよねー。

話を戻しますが、フラナガンのソロの後にはテーマ・メロディに戻ります。

最初の時と同じに、メロディをそのまま崩さずに吹いていますが、表情が豊かなのでまったく飽きがきません。

ドーハムの表情の付け方の上手さには、ほんと脱帽します。

これで『クワイエット・ケニー』からの紹介は終えますが、別のアルバムですが、どうしても紹介したい大好きな演奏が1つあるので、おまけとして追加したいと思います。

私のウェブサイトでは、他のケニー・ドーハムのアルバムは紹介しない予定なので、蛇足になるかもしれませんが無理矢理に追加いたします。

紹介したいのは、『JAZZ CONTRASTS』というアルバムに入っている、「But Beautiful」です。

この演奏は、とんでもなく美しい、天国の音みたいな内容です。

マジでお薦めです。 ぜひ聴いてみて下さい。

3分足らずの短い演奏ですが、ドーハムはスロー・テンポで、この曲のメロディを最高の解釈で吹いています。

この曲は、切なく甘いメロディをしていますが、なかなかメロディの良さを表現できない難易度の高い曲です。
それを、完璧なものとして仕上げているのです。

このアルバムでは、ジャズでは大変に珍しい事に、ハープが数曲で参加しています。
これが効いているんですよ。

ハープが、いい感じに音の隙間(空間)を埋めて、スモール・コンボだと薄いサウンドになりがちなバラード曲を、密度の濃いものにしています。

アレンジも優れており、イントロではドーハムがルバート・テンポぎみで吹き始め、ベースが弓弾きでサポートします。

そして6小節目から、ベースは指弾きに替えて、「ドオーッ、ドオーッ」と弾きはじめます。

この指弾きになる瞬間が、とてもかっこいいです。
それまでの緊張が解き放たれる感じで、ぐっと来ます。

このアルバムでは、ベースはオスカー・ペティフォードが弾いています。

ペティフォードは、音が太くて重厚だし、リズムも落ち着いているし、素晴らしいベーシストですね。
若くして亡くなったのが残念です。

この曲でのドーハムの音色と表情は、真に最高です。

心にしみじみと響きます。
油断すると涙が出そうになるくらいです。

エンディングもしゃれていて、ドーハムが同じ音をずーと伸ばしている間に、バックのピアノとベースがコード・チェンジしていくという、「ペダル・ノート」という音楽手法を使っています。

「ペダル・ノート」の手法は、作曲やアレンジでは定番なのですが、ここまでかっこ良く決まっている事は滅多にないです。

かなり長い間、ドーハムは音を伸ばし続けて、切らさずに吹いています。
肺活量がありますねえ。

ドーハムが美しいメロディの曲を、メロディを崩さずに(フェイクせずに)ゆったりと素直に吹くと、芸術品が作られます。

それなのに彼は、ブルース曲やアップテンポの激しい曲や、難解な自作曲を演奏する事が多かった。
「もったいねー!」と、私は感じていますよ。

良いアレンジャーを起用して、スタンダード曲を丁寧に吹くアルバムを作っていたら、もっと彼は評価されていたと思います。

誰にも真似できない美しい音色と、優しく円やかな表現力を持っていましたから。

(2013年9月4日に作成)


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