おまけ① 「Jiant Steps」「Spiral」のコード進行

ここからは、おまけとして、『ジャイアント・ステップス』の中の曲から、5曲のコード進行を紹介します。

まず、1曲目の「Jiant Steps」です。

この曲は、本文でも書きましたが、コード進行が異常なほど難しいです。

私は、この曲は難しすぎると思うし、人前で演奏する曲ではなく、『練習曲』だと思います。

ライブで取り上げて、好演にするのは不可能だと思います。

正直に言って、誰かのライヴを聴きにいって、「次の曲は、Jiant Stepsです」とアナウンスされたら、(ぐちゃぐちゃのひどい演奏を聴かされるのだな)と思い、(しょうがない、我慢しよう)と考えるでしょう。

私自身が演奏して、深い心の傷を負った経験もあるし、ここで取り上げるか迷いました。

でも、アルバム・タイトルにもなっているし、取り上げないのは片手落ちな気がするので、書きます。

外で演奏する際は、くれぐれも気をつけて下さい。
うかつに演奏すると、痛い目をみて、トラウマを生じます。

「Jiant Steps」  キーはB  形式はABAB

 A

|BM7  D7   |GM7  B(13)|EM7    |Am7(9)D7  |

|GM7  B7   |EM7  G(13)|BM7     |Fm7(9)7  |

 B

|EM7     |Am7(9)D7  |GM7       |Cm7(9)(13)

|BM7     |Fm7(9)(13)|EM7      |Cm7(11)7  |

 A

|BM7  D7   |GM7 B(13)|EM7     |Am7(9)D7  |

|GM7 B7  |EM7  G(13)|BM7     |Fm7(9)7  |

 B

|EM7      |Am7(9)D7  |GM7     |Cm7(9)(13)

|BM7     |Fm7(9)(13)|EM7     |Cm7(11)7  |

○ コード進行の解説

Aは、「BM7→GM7→EM7」、「GM7→EM7→BM7」と、『2度下のキーに転調していく』構造になっています。

間に入ってくるD7などのセブンス・コードは、スムーズに転調するために挿入されたドミナント・コードです。

これは、いわゆる「ドミナント・アプローチ」という奴です。

Bは、EM7→GM7→BM7→EM7と、『3度上のキーに転調していく』構造になっています。

こちらも「ドミナント・アプローチ」が使われていますが、ドミナント・コードはⅡ-Ⅴに分割されています。

この説明で分かるように、この曲は『がんがん転調していく曲』です。

いちおう基になるキーはB(1小節目のキー)ですが、どんどん転調するので、基本のキーはあって無い様なものです。

この曲は、転調を練習するための曲と言っていいでしょう。

それ以外に、こんな難しいコード進行にする理由は考えられません。

転調というものは、普通は1曲の中に1~3回くらいです。
あまり転調をしすぎると、聴き手が混乱してしまいます。

コルトレーンのこの曲は、作曲のセオリーを完全に無視した、アドリブの探究に特化したものです。

この曲は、私が演奏した中では、いちばん難しい曲でした。
ジャズの曲の中でも、最も難易度の高い曲の1つでしょう。

くり返しになりますが、外で演奏する際は、細心の注意を払って下さい。
単なる騒音を出す事になる可能性は、極めて高いです。

攻略法としては、がんがん転調はしますが、出てくるキーはB、G、Eの3つだけなので、「次はこのキーだ」と転調先を把握し続ければいいです。

ただし転調のスピードが速いので、常人では頭が混乱してきて、追いつけなくなります。

「Spiral」  キーはD  形式はAABA

 A

|GonD       |GonD      |FonD      |EonD      |

|EonD      |D          |Gm       |Gm  F(♭13)

|Bm7      |Cm7(-5)7 |Bm7     |Em7  A7   |

 A

|GonD        |GonD       |FonD      |EonD      |

|EonD      |D         |Gm        |Gm  F(♭13)

|Bm7      |Cm7(-5)7 |Bm7     |Em7(9)A7(13)

 B

|G7         |G7       |Bm7       |Bm7      |

|Em7       |A7       |DM7  Em7   |F   A7   |

 A

|GonD        |GonD       |FonD      |EonD      |

|EonD       |D         |Gm       |Gm  F(♭13)

|Bm7       |Cm7(-5)7 |Bm7     |Em7  A7  |

○ コード進行の解説

この曲は、Aが12小節、Bが8小節で、12+12+8+12という、変わった構成をしています。

Aの前半部分は、Dの音がベース・ノートとして続きます。

いわゆる「ベース・ペダル」です。

Dのベース音に乗って、上のコードはG→G→F→E→Eと、半音で下降します。

この動きは、理論的に説明すると、Dのキーの中で、Ⅳ(G)のコードから半音で降りていく進行です。

このⅣ(サブ・ドミナント)からⅠ(トニック)に半音下降していく進行は、ジャズではエンディングでよく使われます。

しかし、テーマの最初に使う例は、まずありません。
とても変わった(とんがった)曲ですね。さすがコルトレーンです。

Gから半音下降していって、トニック・コードのDに6小節目でたどり着くわけですが、Dに来た時には、すでに7小節目からのGmのキーに向かっています。

6小節目のDは、トニックというよりも、7小節目のGmに対するドミナント・コードになっています。
ドミナント・コードの響きがします。

7小節目からはGmのキーになりますが、8小節目でF7を入れて、9小節目にはBmのキーに移ります。

そうして、12小節目にはEm7 A7を入れて、元のDのキーに戻ります。

(Em7 A7は、DキーのⅡ-Ⅴ進行です)

Ⅱ-Ⅴ進行を入れて、Dに行くかと思わせておきながら、13小節目ではGに行くわけです。
そうして、また半音で下降し始めます。

ああ、ややこしい!

Bに入る直前のEm7ーA7(24小節目)ですが、ここから次のコードのG7に進むのは、かなり強引な進行になります。

そのため、Em7(9)A7(13)とテンション・ノートを入れて、柔らかい感じにした方がいいようです。
フラナガンは、そうやっています。

Bに入ると、Bmのキーになります。

最初のG7は、BmのキーのⅥ7です。

Bの5小節目からは、元のDキーに戻って、Ⅱ-Ⅴ-Ⅰ-Ⅱ-Ⅲ-Ⅴと進行します。

8小節目のF(Ⅲ)は、短調からの借用和音で、Ⅰmの代理コードです。

ちなみに、この曲のエンディングは、こうなっています。

 エンディング (最後のAの9小節目から)

|Bm7      |Cm7(-5)7 |Bm7     |Cm7(-5)7 |

|Bm7      |Cm7(-5)7 |Bm7     |F(♯9)   |

|Bm7     |

どうですか? このややこしい曲たちは。

これを愛奏曲にするには、ミューズにならないと無理です。

練習曲として活用するのが、ベストですねー。

残りの3曲のコード進行は、おまけ②に書きます。
こちらの曲たちも、難曲ですよ!

(2013年11月6日に作成)


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