ここからは、おまけとして、『ジャイアント・ステップス』の中の曲から、5曲のコード進行を紹介します。
まず、1曲目の「Jiant Steps」です。
この曲は、本文でも書きましたが、コード進行が異常なほど難しいです。
私は、この曲は難しすぎると思うし、人前で演奏する曲ではなく、『練習曲』だと思います。
ライブで取り上げて、好演にするのは不可能だと思います。
正直に言って、誰かのライヴを聴きにいって、「次の曲は、Jiant Stepsです」とアナウンスされたら、(ぐちゃぐちゃのひどい演奏を聴かされるのだな)と思い、(しょうがない、我慢しよう)と考えるでしょう。
私自身が演奏して、深い心の傷を負った経験もあるし、ここで取り上げるか迷いました。
でも、アルバム・タイトルにもなっているし、取り上げないのは片手落ちな気がするので、書きます。
外で演奏する際は、くれぐれも気をつけて下さい。
うかつに演奏すると、痛い目をみて、トラウマを生じます。
A
|BM7 D7 |GM7 B♭7(13)|E♭M7 |Am7(9)D7 |
|GM7 B♭7 |E♭M7 G♭7(13)|BM7 |Fm7(9)B♭7 |
B
|E♭M7 |Am7(9)D7 |GM7 |C♯m7(9)F♯7(13)|
|BM7 |Fm7(9)B♭7(13)|E♭M7 |C♯m7(11)F♯7 |
A
|BM7 D7 |GM7 B♭7(13)|E♭M7 |Am7(9)D7 |
|GM7 B♭7 |E♭M7 G♭7(13)|BM7 |Fm7(9)B♭7 |
B
|E♭M7 |Am7(9)D7 |GM7 |C♯m7(9)F♯7(13)|
|BM7 |Fm7(9)B♭7(13)|E♭M7 |C♯m7(11)F♯7 |
○ コード進行の解説
Aは、「BM7→GM7→E♭M7」、「GM7→E♭M7→BM7」と、『2度下のキーに転調していく』構造になっています。
間に入ってくるD7などのセブンス・コードは、スムーズに転調するために挿入されたドミナント・コードです。
これは、いわゆる「ドミナント・アプローチ」という奴です。
Bは、E♭M7→GM7→BM7→E♭M7と、『3度上のキーに転調していく』構造になっています。
こちらも「ドミナント・アプローチ」が使われていますが、ドミナント・コードはⅡ-Ⅴに分割されています。
この説明で分かるように、この曲は『がんがん転調していく曲』です。
いちおう基になるキーはB(1小節目のキー)ですが、どんどん転調するので、基本のキーはあって無い様なものです。
この曲は、転調を練習するための曲と言っていいでしょう。
それ以外に、こんな難しいコード進行にする理由は考えられません。
転調というものは、普通は1曲の中に1~3回くらいです。
あまり転調をしすぎると、聴き手が混乱してしまいます。
コルトレーンのこの曲は、作曲のセオリーを完全に無視した、アドリブの探究に特化したものです。
この曲は、私が演奏した中では、いちばん難しい曲でした。
ジャズの曲の中でも、最も難易度の高い曲の1つでしょう。
くり返しになりますが、外で演奏する際は、細心の注意を払って下さい。
単なる騒音を出す事になる可能性は、極めて高いです。
攻略法としては、がんがん転調はしますが、出てくるキーはB、G、E♭の3つだけなので、「次はこのキーだ」と転調先を把握し続ければいいです。
ただし転調のスピードが速いので、常人では頭が混乱してきて、追いつけなくなります。
A
|GonD |G♭onD |FonD |EonD |
|E♭onD |D |Gm |Gm F♯7(♭13)|
|Bm7 |C♯m7(-5)F♯7 |Bm7 |Em7 A7 |
A
|GonD |G♭onD |FonD |EonD |
|E♭onD |D |Gm |Gm F♯7(♭13)|
|Bm7 |C♯m7(-5)F♯7 |Bm7 |Em7(9)A7(13)|
B
|G7 |G7 |Bm7 |Bm7 |
|Em7 |A7 |DM7 Em7 |F A7 |
A
|GonD |G♭onD |FonD |EonD |
|E♭onD |D |Gm |Gm F♯7(♭13)|
|Bm7 |C♯m7(-5)F♯7 |Bm7 |Em7 A7 |
○ コード進行の解説
この曲は、Aが12小節、Bが8小節で、12+12+8+12という、変わった構成をしています。
Aの前半部分は、Dの音がベース・ノートとして続きます。
いわゆる「ベース・ペダル」です。
Dのベース音に乗って、上のコードはG→G♭→F→E→E♭と、半音で下降します。
この動きは、理論的に説明すると、Dのキーの中で、Ⅳ(G)のコードから半音で降りていく進行です。
このⅣ(サブ・ドミナント)からⅠ(トニック)に半音下降していく進行は、ジャズではエンディングでよく使われます。
しかし、テーマの最初に使う例は、まずありません。
とても変わった(とんがった)曲ですね。さすがコルトレーンです。
Gから半音下降していって、トニック・コードのDに6小節目でたどり着くわけですが、Dに来た時には、すでに7小節目からのGmのキーに向かっています。
6小節目のDは、トニックというよりも、7小節目のGmに対するドミナント・コードになっています。
ドミナント・コードの響きがします。
7小節目からはGmのキーになりますが、8小節目でF♯7を入れて、9小節目にはBmのキーに移ります。
そうして、12小節目にはEm7 A7を入れて、元のDのキーに戻ります。
(Em7 A7は、DキーのⅡ-Ⅴ進行です)
Ⅱ-Ⅴ進行を入れて、Dに行くかと思わせておきながら、13小節目ではGに行くわけです。
そうして、また半音で下降し始めます。
ああ、ややこしい!
Bに入る直前のEm7ーA7(24小節目)ですが、ここから次のコードのG7に進むのは、かなり強引な進行になります。
そのため、Em7(9)A7(13)とテンション・ノートを入れて、柔らかい感じにした方がいいようです。
フラナガンは、そうやっています。
Bに入ると、Bmのキーになります。
最初のG7は、Bmのキーの♭Ⅵ7です。
Bの5小節目からは、元のDキーに戻って、Ⅱ-Ⅴ-Ⅰ-Ⅱ-♭Ⅲ-Ⅴと進行します。
8小節目のF(♭Ⅲ)は、短調からの借用和音で、Ⅰmの代理コードです。
ちなみに、この曲のエンディングは、こうなっています。
エンディング (最後のAの9小節目から)
|Bm7 |C♯m7(-5)F♯7 |Bm7 |C♯m7(-5)F♯7 |
|Bm7 |C♯m7(-5)F♯7 |Bm7 |F♯7(♯9) |
|Bm7 |
どうですか? このややこしい曲たちは。
これを愛奏曲にするには、ミューズにならないと無理です。
練習曲として活用するのが、ベストですねー。
残りの3曲のコード進行は、おまけ②に書きます。
こちらの曲たちも、難曲ですよ!
(2013年11月6日に作成)