クリフォード・ブラウンの「メモリアル・アルバム」①

このアルバムについては、重要なお知らせが最初にあります。

このアルバムは、『通常盤』と『完全盤』の2種類があります。

絶対に『完全盤』の方を買って下さい。
完全盤には8曲が追加されていますが、その中にかっこいい曲があります!

私が持っているのは、「ルディ・ヴァンゲルダー・エディションの完全盤」です。
日本の会社が出しているバージョンは、通常盤が多いです。

このアルバムは、「1953年に録音された2つのセッション」が収録されていて、前半と後半では違うメンバーで演奏されています。

前半のメンバーは、次の5人です。

クリフォード・ブラウン(tp)  ルー・ドナルドソン(as)

エルモ・ホープ(p)  パーシー・ヒース(b)

フィリー・ジョー(ds)

(後半のメンバーは、クリフォード・ブラウンの「メモリアル・アルバム」②に書きます)

このアルバムは、クリフォード・ブラウン名義で出されていますが、前半のセッションは元々はルー・ドナルドソン名義で発売されたものです。

つまり前半部分の主役は、一応ルーです。

でもルーと同じ位に、クリフォードとピアノのエルモ・ホープもフィーチャーされていて、実際には『前半部分は3人が主役』です。

いっぽう後半部分は、クリフォードが明確に主役となって、録音されています。

クリフォード・ブラウンは、ジャズ史上最高のトランペッターの一人です。

彼は20代の半ばで事故死してしまったのですが、それにも関わらず未だに聴き継がれるジャズの名盤をいくつも遺しています。

非常に早熟だったミュージシャンで、存命中は「将来はジャズ界を背負って立つだろう」と言われていました。

このアルバムの頃(1953年)には、彼はまだデビューしたてですが、すでに完成されたプレイをしていますね。

彼は、デビューした時からすでに高いクオリティにあり、天才肌の人です。

でも、「ピアノもプロ級の腕前だった」との証言があるように、感性一発の人ではなく、音楽の基礎をしっかりと押さえており、むしろ基本に忠実な中庸をいく人だったと思います。

彼のトランペットの特徴は、「華やかさ」「強弱の付け方の上手さ(ダイナミックレンジの広さ)」「リズムの切れの良さ」「音程の正確さ」などです。

とにかく元気のいいプレイスタイルで、ケニー・ドーハムの様なしっとりしたブルーな世界とは、正反対のスタイルです。

トランペットは、楽器の特性的に明るく力強い派手な音が出るので、ブルーな雰囲気の方が異色であり、クリフォードは正統派といっていいでしょう。

私はマイルス・デイビスやドーハムの様な、落ち着いたしっとりしたトランペットが好きなので、初めてクリフォードを聴いた時は「うるさいなー、もっと抑えてプレイしろよ」と思いました。
慣れるまで少し時間がかかりましたね。

クリフォードは、高音でも思いっきり吹くんですよ。
だから聴き手は、耳が「キーン」となるんです。

これが気持ち良く感じられるまでは、「うるさいぞ!」と思っていました。

クリフォードの世界は、スポーティーな体育会系の色が濃いです。

ぐいぐいと共演者を引っ張る、筋肉質なリズム感が特徴的で、季節で例えると夏の人です。

もっと年齢を重ねたら違ってきたのかもしれませんが、深い精神性を表現するタイプではないですね。

一応のリーダーになっている、ルー・ドナルドソンについても説明しておきましょう。

ルーは、チャーリー・パーカー直系のアルト・サックス奏者で、徐々にスタイルを分かり易い庶民的なものに変えていき、「ソウル系」とか「ファンキー系」と呼ばれるジャズ・スタイルのスターになりました。

でも私は、スターになった頃の演奏よりも、このアルバムで展開されるような、硬派で芸術性の高い『彼の初期の演奏』が好きです。

彼はデビューした当初には、ビバップ・スタイルの創始者であるチャーリー・パーカーをモロに真似していましたが、パーカーが圧倒的に格調高い芸術的な世界を創る人だったため、その真似をしたルーの演奏も芸術性の高い深みのあるものになっています。

ここからは曲の解説をしつつ、各プレイヤーの素晴らしさを解説していきます。

まず、1曲目の「Bellarosa」です。

この曲は、通常盤には入っていません。
でも、スーパー凄い演奏です。

この演奏を聴くために、必ず完全盤を選択・購入して下さい。

私はこの曲が紹介したくて、このアルバムを取り上げました!

Bellarosaは、ピアノで参加しているエルモ・ホープの作曲で、素晴らしい曲です。

私はエルモ・ホープが大好きで、「こんなに素晴らしいのに、知名度が低いなんて…。日本人好みの翳りのあるスタイルなのに、何でソニー・クラークのように高い評価を受けないんだろう」と、しょちゅう思っています。

エルモは作曲も良いですが、リズム感がすばらしいんですよ!

このアルバムでも、素晴らしいバッキングをしています。
こんなにスウィングするバッキングが出来る人は、他にはバド・パウエルくらいしかいません。

(セロニアス・モンクも凄いですが、あの人はちょっと世界が異なります)

エルモの『翳りのある、女性的なふわふわしたアドリブ・ソロ』も、私は大好きです。

こんなにナイーブな音を出すジャズ・ピアニストは、他にいません。

彼の音には、優しさがあるんですよ。私は大好きですねー。

彼は、独特のスウィング感を持っていますね。

ベースやドラムの生み出すリズムに乗らずに、淡々と弾いている感じなのですが、不思議とリズム隊と調和し、強烈にスウィングするのです。

なんだかエルモだけで、長文になりましたね…。すっかりエルモ・ラヴの世界になりました。

しかし、しかし!
この曲で一番かっこいいのはルー・ドナルドソンなんです!

この曲でのルーのアドリブ・ソロは完璧で、私が聴いたルーの全ソロの中でも、一番です。

最初から最後まで超スウィングしているし、フレーズがビシバシとコード進行にはまります。

この曲を録音した時のルーは、神の意識とがっちりと一体となっていますね。
神秘的な力を感じるほどに、フレーズが見事に構成されており、まったく隙がありません。

サビに入る手前で、ルーは素早いフレーズを「ババババッ」と一気に吹くのですが、そこが特にかっこいいです。
それを聴いた共演者が「おおっ!」と感嘆する声も収録されています。

ルーが最高のプレイをしたので、その後に続くクリフォードとエルモのソロも、素晴らしいテンションを維持した質の高いものになっています。

この演奏は、全員のソロが最高の出来なので、途中にだれる部分がありません。

そのため、聴いているとリラックスしてきて、気分が爽快になります。

私はこの曲を聴くと、いつも途中で嬉しさで一杯になり、「イエス!」とか「イエェ!」と何回も口にしてしまいます。

この曲は、コード進行がかなり難しいのですが、皆がばっちりとコード進行にはまるソロを取っています。

この時代のジャズ・ミュージシャンって、本当に凄いレベルにありますよ。

(コード進行については、おまけのページに書いています)

テーマに戻ってからのサビ部分で、クリフォードが短いソロを再び取るのですが、ここがルーのソロに続く2回目のハイライトです。

とにかく凄いエネルギーなんですよ! こんなにダイナミックなフレーズを吹けるのは、クリフォードだけです。
かっこいいので、何度も巻き戻して聴いてしまうほどです。

このソロで頑張りすぎたのか、この後にクリフォードはリズムを見失い、一人だけテンポアップして共演者とずれてしまいます。
これはご愛嬌として、見逃しましょう。

演奏全体を通して、ドラムのフィリー・ジョーは素晴らしいアクセントを付けていますねー。

演奏のリズムをコントロールしつつ、上手にソロイストをプッシュしています。
そこも、聴き所の一つです。

次は、3曲目の「Cookin'」です。

この曲も、皆がすてきなスウィングをみせて、良い演奏をしています。

イントロはドラムのフィリー・ジョーが行いますが、バネが効いていて切れ味があり、「さすがフィリー・ジョーだね。クールだぜ。」となります。

短いイントロに、ここまでアイディアをちりばめられるのは、さすがです。

この曲はメジャー・ブルース曲なのですが、コード進行を大幅に変えています。

(このコード進行も、おまけに書いています)

それによりマイナー・コードが多くなり、メジャー・ブルース曲なのにも関わらず全体のムードが哀感を帯びています。

そこが、私の心を掴むポイントです。

テーマのメロディは、リズムが強調された作りで、とても美しい旋律になっており、クリフォードとルーがユニゾンで吹くだけで痺れちゃいますね。

大好きなメロディなので、思わず一緒に口ずさんでしまいます。
ギターでコピーもしました。

各人のソロの中では、クリフォードのソロが一番クオリティが高いと思います。

多彩なリズムを駆使して、変化に富んだソロに仕上げています。

トランペットという楽器は、コントロールするのが難しい楽器なのですが、クリフォードは果敢に難易度の高いフレーズに挑戦していきます。

実によい根性をしている人ですね。

ベース・ソロの時に、バックで弾くエルモのバッキングがめちゃくちゃかっこいいので、ぜひそこにも注目してみて下さい。

注目しなくても耳に入ってくる位に、目立っていますけど。

次は5曲目の「DE-DAH」です。

このタイトルをどう発音するのかは、分かりません。不思議なタイトルですね。

この曲もエルモ・ホープの作曲で、私は大好きです。

エルモの曲は、メロディが個性的で、ジャズ的ではないんですよ。

アジア、特に中東あたりのメロディをイメージさせます。そこが、人気が無い理由なんですかねー。
私は最高だと思うのですが。

彼の曲はリズムも独特で、とてもスウィングするのですが、どこか静けさがあります。

個性的でセンスあふれる、美しいリズムだと思います。

エルモには、スタンダード曲になってもおかしくない曲が沢山あるのですが、ジャズミュージシャンの皆さんは全然取り上げないです。

「俺が取り上げて、復権させてやる」と思っていた時期もありましたが、今は霊的な世界を世に伝えることに注力しているので、誰か取り上げてくれませんかね?

深みのある良い曲が沢山あり、日本人好みの切ないメロディなので、うけると思うのですけど。

今回は1回で終わらせるつもりでしたが、長文になってしまいました…。
2回に分ける事にします。

(続きはこちらのページです)

(2012年10月13日に作成)


『私の愛するジャズアルバム』 目次に戻る

『サイトのトップページ』に行く

『日記』のトップページに行く