このアルバムは、ソニー・ロリンズが、1957年4月に録音したものです。
Vol.2となっていますが、特に続編という訳ではなく、「ブルーノート・レーベルにおける2枚目のリーダー作」という意味です。
このアルバムでのロリンズは、まさしく絶好調で、すばらしいプレイをしています。
音にひらめきと輝きがり、自信に満ち溢れています。
この時期(1950年代後半)のロリンズは、実に沢山のアルバムを発表していますが、このアルバムはその中でも5指に入る出来だと思います。
ロリンズのすばらしさだけでも買いなのですが、さらにこのアルバムには『セロニアス・モンクとホレス・シルバーの、偉大な二人のピアニストが参加する』という特徴もあります。
何と1曲では、モンクとシルバーの共演すら実現しています。
モンクが他のピアニストと共演するなんて、奇跡と言っていい事です!
他のメンバーもすばらしいプレイをしていて、特にトロンボーンのJJ・ジョンソンがかっこいいです。
私は基本的にジャズ・トロンボーンがあまり好きではないのですが、このアルバムでのJJのプレイには聴くたびにしびれます。
まず、参加メンバーを紹介します。
ソニー・ロリンズ(ts) JJ・ジョンソン(tb)
セロニアス・モンク ホレス・シルバー (p)
ポール・チェンバース(b) アート・ブレイキー(ds)
ジャズにある程度詳しい人だと、このメンバーを見ただけで、「おっ! 何か面白い事になりそうなメンバー構成だな」と思うでしょう。
こういった個性やアクの強いメンバーが集まると、噛み合わなくてボロボロになるパターンもあります。
しかし、この録音ではそれぞれの個性がプラスに働いて、グレイトな内容になりました。
ここからは、各曲を解説していきます。
まず、1曲目の「Why Don't I」です。
曲の構成が「8+8+4+8」の小節数になっており、少々変わっています。
8の部分がA、4の部分がBの、AABA形式の曲です。
テーマでは、「ンタタタ、ンタタタ」というリズムを連発して、煽る感じを出していますね。
ジャズのテーマではあまり見ないリズムで、珍しい作曲といえます。
アドリブに入ると、普通の4ビートになります。
テーマの後は、ロリンズのソロになるのですが、これが最高なんです!
めちゃくちゃカッコイイです。
太い音で、ぶりぶりと音を出していくロリンズを聴いていると、「最高じゃん! この日のロリンズは絶好調だなー」と感じます。
ロリンズは2コーラスのソロを取るのですが、2コーラス目に入ると、
ドラムは「ンタタタ、ンタタタ」というテーマで使っていたリズムを入れ始め、ピアノもそれに合わせて弾き始めます。
このバッキングに対して、ロリンズは素早いフレーズで対抗するのですが、その対比がとてもスリリングでかっこいいです。
続けてJJがソロを取りますが、これもすばらしいです。
トロンボーンはスウィングするのが難しい楽器なのですが、ここでは良くスウィングしており、気持ちいいです。
その後には、シルバーのソロになるのですが、チェンバースのベース音が目立っていて、そっちに耳がいきます。
チェンバースが最高にスウィングした、神レベルのプレイをしているので、ここではピアノではなくベースが聴き所だと思います。
私はいつも、ホレスの音はほとんど聴かずに、チェンバースの力強い4ビートを聴いています。
チェンバースは間違いなく、人類史上最高のベース奏者の一人です。
この頃の彼は、まだデビューしてから2年くらいで、年齢も23歳くらいですが、完全に完成されたスタイルでプレイしています。
彼のベースは、知的で洗練された音で、女性的なナイーブな世界を持っています。
ポン、ポンと軽やかに進むリズムが特徴で、私が大好きなベース奏者です。
彼のベースは、低音部を強く弾いた時に、「ギシッ」と弦のびびる音が出てしまう事があるのですが、なぜかその音に色気や情熱を感じて痺れてしまう。
普通だとミストーンなのですが…。何なんですかねー。
そしてこの後は、ソロイストとドラムの4小節ソロ交換になります。
ここがまた格好良いのですが、2コーラス目に入るとソロ交換がきちんと進まず、ロリンズとブレイキーのドラムが被ってしまい、ぐちゃぐちゃになります。
狙ってやっているのか、間違えてしまったのか…。
まあ、かっこいいので、間違えたのだとしても全然OKなのですけどね。
クラシックなどと違い、ジャズは格好良ければ間違えてもOKなんです。
アドリブをしている時点で、リスクを取っているわけで、『ハイリスク、ハイリターン』を志向する世界なのです。
たまに、ジャズに完璧さを求める(ミスをすると評価を下げる)人がいますが、ジャズを分かっていないと思います。
次は、3曲目の「Misterioso」です。
ここでの聴き所は、何と言ってもモンクとシルバーが共演している事です。(曲の途中でピアノを交代している)
モンクがこんな事をするなんて、想像もできないのですが、実際に音として残っているので、「そういう事もあるものなんだな」と思うしかないです。
二人のスタイルの違いを聴き比べられるのが、楽しいところです。
アドリブソロでは、ロリンズのソロが一番創造的で、すばらしいと思います。
次の4曲目は、「Reflections」です。
この曲はモンクの作曲で、私はとても美しい曲だと思うのですが、あまり演奏されないですね。
モンクの曲は、演奏するのが難しい曲が多いのですが、この曲もそうですねー。
メロディがふらふらしていて把握しづらいし、コード進行も尋常ではないです。
ロリンズはこの難しい曲を、自然にダイナミックにプレイしており、演奏し慣れているのを感じさせます。
モンクの伝記に書いてあったのですが、モンクは自宅でワークショップを定期的に開いていた時期があり、ロリンズは頻繁に参加していました。
ロリンズは50年代前半からこの録音の頃までは、モンクのバンドに参加していましたし、この曲にも馴染んでいたのだと思います。
そうでないと、ここまで完成度の高い演奏はできないです。
ロリンズは最初から最後まで、完璧なプレイを見せており、メロディのフェイクのさせ方も実に粋にこなしています。
低音部から高音部まで自在に駆使して、ダイナミックに仕上げていますね。
本当に圧巻です。
ロリンズの幾多の名演の中でも、屈指の演奏だと思います。
特に、モンクのソロの後に取る1コーラスは、最高にスリリングで決まっています。
聴くたびに、「すげーよ。原メロディを活かしながら、こんなに沢山のかっこいいフレーズを加えていけるなんて、超人だな!」と思います。
サビの部分での、躍動感と意外性のある創造力に満ち溢れたフレーズが、特に好きです。
モンクも1コーラスのソロを取るのですが、ゆったりとマイペースに、彼ならではの世界を構築していますね。
このマイペースさが彼の魅力なのですが、理解できない人だと「リズムはずれまくっているし、何をやっているんだ?」と感じてしまうのでしょう。
モンクのリズムは、メトロノームみたいな正確なものではなく、海の波とか心臓の鼓動みたいな流動的なリズムなんですよ。
実に活き活きしているし、最高にかっこいいリズムなのですが、理解できない人は多いようです。
残念至極です。
この曲は「8+8+8+8」の小節数で、AABA形式ですが、曲の最後だけはBAが追加されて、Bはモンクが、Aはロリンズが担当しています。
素敵なアレンジになっているのですが、これはロリンズがモンク先生を立てたのでしょうか。
モンクの作曲だという事もあり、全体的にモンク色のとても強い演奏になっています。
5曲目は、「You Stepped Out Of A Dream」です。
これは、超アップテンポで演奏しています。
ロリンズは調子が良いと、アップテンポでもリズムがずれず、正確に楽器をコントロールして見事にスウィングします。
ここではそういう、凄みのあるロリンズが堪能できます。
良い時のロリンズのすばらしい所は、単にリズムがずれないだけではなく、『リズムに絡みつくような』ノリを出せる事です。
粘り気のある、黒人ならではのノリを生み出せるんですよ。
ここでのロリンズのソロは、「きゃー、かっこいいー!」といつも感動しますね。
とにかく、もの凄いスウィング感です。
彼は、ソロの出だしをゆっくりとしたトリルで始めるのですが、実にクールです。
すごい演出だと思います。
何でもないアイディアに見えるかもしれませんが、やってみろと言われたら、ほとんどの人が尻ごみすると思います。
これをクールに緊張感を持って出すのは、大変ですよ。
さらに、ソロの途中ではえらく早いフレーズを「ドダダダー」と繰り出すのですが、リズムがちゃんとキープできているんですよ。
「なぜ出来る? あなたは人間なの?」と思っちゃいます。
ロリンズに続くJJのソロも、最高です。
このアルバムでの、JJの一番良いソロだと思います。
様々なリズムを織り交ぜて、ドラムのブレイキーを刺激するJJを聴いていると、「良いセンスをしているなー」と感嘆します。
刺激されたブレイキーは熱いフレーズを次々と入れ始めるのですが、それに合わせていくJJを聴いていると「この人は大人だなあ」と思います。
JJは周りを活かすのが上手いですね。サッカーで言うと、名ボランチといった感じです。
その次にはシルバーのソロが続きますが、まあまあなので省略します。
そしてその後には、チェンバースの弓弾きソロになります。
さりげなく演奏していますが、これは神技です!
ウッドベースの弓弾きを、これだけの早いテンポで、ここまでスウィングし、音程も正確で、メロディアスなフレーズを展開していくのは、超むずかしいんですよ。
チェンバースは弓弾きソロの名手として名高いですが、ここまで弓弾きがかっこ良かったジャズ・ベーシストは、他には居ませんね。
ベースソロの後は、ドラムを交えたソロ交換になります。
ここもかなりなものです。
が、しかし! その後の『ロリンズとJJのソロ交換』が、凄いんです!
ロリンズがアイディアを提示して、それにJJが応えるのですが、そのやりとりがジャズの香りをプンプンさせていて、最高なんです。
ロリンズのぶっ飛んだフレーズへのJJの応答が実に的確で、「すげえよ…JJ。」とその対応力に脱帽します。
最後の曲は、「Poor Butterfly 」です。
ロリンズは低めのキーに設定して、低音を活かすプレイをしています。
そこが、まずかっこいいですね。
テナーサックスは、低音で「ブワー」とやるだけで痺れてしまうほど、低音に魅力がある楽器です。
テナーサックスの低音って、単に厚みや深みがあるだけではなく、色気がありますよね。
そこに、ロリンズの音色の美しさやニュアンス表現が加わるので、テーマメロディを吹いているだけなのに、まいってしまうんです。
ソロは、JJ→シルバー→チェンバースと取っていくのですが、シルバーは最高のプレイをしていて、このアルバムで一番のソロを弾いています。
シルバーというと、一般的にはアップテンポの曲で輝く人というイメージがあるみたいです。
でも私は、落ち着いたゆっくりめのテンポでプレイした時のシルバーが、好きです。
ここでは、リラックスした、無駄なフレーズの無い、最高のソロを弾いてます。
音色も美しいです。
チェンバースのソロもすてきです。
彼は、本当に美しい音色をしていますね。
チェンバースのソロの最後の小節では、ロリンズは先食いして「タラララ」と吹き入ってきます。
普通これをされると少し驚き戸惑うものですが、チェンバースは冷静沈着に「トトトト」と絶妙のバッキングをしてサポートします。
献身的な愛を感じますね。
チェンバースの後は、ロリンズがもう一度テーマ・メロディを吹いて曲が終わるのですが、ここでのロリンズは「1オクターブ上げて」テーマを吹いています。
曲頭では低音を活かした落ち着いたプレイで魅せましたが、ここでは1オクターブ上げて、叫ぶ様な激しく狂おしいプレイで魅せます。
いかした演出ですねー。
この演出により、曲の終局だというのを、上手く聴き手に意識させています。
曲の解説は以上です。
このアルバムは、ロリンズの作品の中では知名度が低いです。
でも、充実した内容の傑作だと思いますよ。
ぜひ、聴いてみて下さい。
(2012年12月15日作成)