(以下は『マイルス・デイビス 自叙伝』から抜粋
2026年9月20日に作成)
🔵18歳のマイルスは、地元のセントルイスでBのバンドを聴く
オレの人生で最高の瞬間は、セックス以外では、ディズ(ディジー・ガレスピー)とバード(チャーリー・パーカー)が一緒に演奏しているのを初めて聴いた時だ。
1944年のミズーリ州セントルイスでのことだ。
オレは18歳で、リンカーン高校を卒業したばかりだった。
ミスターB(ボーカリストのビリー・エクスタインのこと)のバンドにいるディズとバードを聴いたんだが、オレは「これは何だ!?」 と叫んだよ。
凄すぎて恐ろしくなったほどだ。
あのバントには、バディ・アンダーソン、ジーン・アモンズ、 ラッキー・トンプソン、アート・ブレイキーもいたんだ。
あの音がオレの身体の中に入ってしまった。
あれにはオレの聴きたいことが全部あった。
しかもオレは幸運にも一緒に演奏できたんだ。
ディズとバードのことは、レコードで聴いてすでに知っていた。
オレはディズの吹いた「ウッディン・ユー」のレコードを持っていて、彼のソロをそっくりそのまま吹こうと真似していた。
Bのバンドは、白人のギャングが経営する『プランテイション・クラブ』に出演するためセントルイスに来た。
あの頃のセントルイスはギャングがのさばり歩いていた。
クラブの白人経営者は、黒人たちのBのバントに裏口から出入りしろと命じた。
だがBたちは臆せずに正面から入ってきたので、その場でクビになった。
この話を聞いた黒人政治家のジョーダン・チェンバースは、Bのバンドを黒人専用クラブで自分が経営している『リビエラ・クラブ』に出演させたんだ。
Bのバントがリビエラに出演すると聞いて、オレはトランペットを持って友人とリハーサルを見に行った。
セントルイスではオレはもう有名なトランペッターだったから、入口のボーイは中に入れてくれた。
中に入ると、「トランペッターか!?」と聞きながら駆け寄ってくる男がいた。
「もちろんトランペッターだよ」
「ユニオン・カードは持っているか?」
(※ユニオン・カードはミュージシャン組合が発行する身分証明書で、これがないとクラブで演奏できなかった。)
「ああ、持っている」
「トランペッターの具合が悪いんだ。代わりに手伝ってくれ。」
その男はオレをステージに連れて行き、楽譜を並べ始めた。
少しして分かったが、彼こそディズだった。
演奏が始まると、オレは楽譜を読むどころじゃなかった。
みんなの演奏を聴くのに精一杯だった。
ディズもバードも吹き始めたら、音ですぐに彼だと分かった。
バンドはバードがソロを取るたびに絶頂を迎えていた。
当時のバードのソロは8小節だったが、その中で奴がやった事は未だに信じられないほどで、奴が吹き始めるとみんなカスんでしまうんだ。
オレが演奏を忘れたみたいに、他の連中も聴き惚れていた。
だからみんな自分のパートによく出遅れていた。
バンドにはヴォーカルのサラ・ヴォーンもいて、彼女が歌い始めるとディズやバードがもう一人いるみたいだった。
皆がサラをもう1本のホーンみたいに感じていた。
彼女が「ユー・アー・マイ・ファースト・ラブ」を歌った時は、バードのサックス・ソロが始まったのかと思ったくらいだ。
ああ、皆があの演奏を聴いていたらなあ。
オレはものすごい音楽を、あの夜に一気に聴いてしまったんだ。
あのバンドがオレの人生を変えた。
オレはその夜に決心したんだ。「こんな凄いミュージシャンたちがいるニューヨークに行こう」ってな。
初めてディズとバードを聴いたあの夜のフィーリングが欲しいんだ。
もう少しという所まで行ったことはある。近い所までは行くんだ。
オレは毎日演奏する音楽に、あれを求めている。
もう一度味わおうと、あの音を感じようと求め続けている。