(『Newton 2021年11月号』から抜粋)
集中や集中力という表現は、科学ではあまり用いられず、「注意」と心理学では呼んでいる。
注意は、「自分から向けるもの」と、「外部からの刺激で起きるもの」の、2つがある。
自分の名前を呼ばれて振り向くのが、後者の注意である。
集中力とは、自分から向ける注意で、関係ないことは無視している状態である。
多くの人が集まってワイワイと会話している騒がしい場所でも、人は特定の相手と会話することが出来る。
これを「カクテル・パーティ効果」という。
人は、特定の相手との会話に注意を向けることで、周りの音(他の会話や雑音)を無視できるのだ。
脳がどのようにこれを行っているかは、十分には解明されていない。
最新のAI(人工知能)でも、複数の会話から1つの会話だけを取り出すのは難しいが、人は「注意を向けるだけで」行っている。
どれだけ集中していても、外部からの刺激が強いと、そっちに注意が奪われてしまう。
だから集中したい時は、他人から話しかけられない状態にしたり、スマホを側に置かないといった事が大切である。
また、「宣伝」は人の注意を引くために作られている。
だから宣伝の多い、テレビやインターネットからは距離を置くべきである。
要するに、集中するには環境を整える必要がある。
自然の中で暮らす野生動物たちは、常に周りに注意を向けて生きている。
人も、1つの事に集中し続けるのを防ぐため、注意を他に向ける仕組みが脳にあると考えられる。
つまり、集中は時間が経つと途切れるようになっている。
だから、上手く休憩を入れるのが良い。
休憩を入れながら学習するほうが、脳に定着しやすいことは、心理学では常識である。
切れてしまった集中力を回復させるには、自然の中に身を置き、自然に触れるのが有効だと、研究で分かっている。
映像や写真で自然を見るだけでも、効果はあるという。
2010年にNature誌に発表された研究によると、脳トレーニングをするゲームの効果は限定的だという。
脳トレをしても、そのゲームの操作は上手くなるが、集中力が上がるかは定かではない。
集中力を鍛えるとして近年さかんに研究されているのが、「瞑想」である。
目をつむって自分の内面を観察するのだが、10分程度でも集中力を鍛える効果や、脳の活動に変化が見られると、報告されている。
一方で、大学生に瞑想をさせたが、効果が無かったとの報告もある。
心理学者のミハリ・チクセントミハイは、極めて高い集中をした状態を「フロー」と名付けた。
この状態だと、完璧に没頭していて、非常に楽しく、すべてが上手くいくという。
アスリートが経験する「ゾーン」の状態もこれで、ボールが止まって見えたりする。
チクセントミハイの研究では、充実した活動をしている人がやりたい事に取り組んでいる時は、自分の存在さえ忘れるほどの集中をして、作業に没頭する時間がある。
その間は、物事が自動的に完璧に進むという。
体験者たちの多くが「その時間は水の流れ(フロー)の中にいるようです」と話すことから、チクセントミハイはこの体験を「フロー」と名付けた。
フローを体験するには、少なくとも10年くらいはトレーニングを積み、高度なスキルを身につける必要がある。
自由自在に道具や身体を使える所まで熟達しないと、フローは訪れない。
チクセントミハイは、作業の難易度と技能(スキル)のレベルをグラフにした。
そして難易度とスキルの両方が高い状態を、「フロー」と位置づけた。
(※つまり高い技能を持つ者が、難しい作業をした時にフローは訪れる)
難易度が高くてスキルは普通だと「覚醒」に、難易度が高くてスキルが低いと「不安」になる。
スキルが高くて難易度が普通なら「コントロール」に、スキルが高くて難易度が低いと「寛ぎ」になる。
(2022年8月5日に作成)