(『週刊文春2023年11月9日号』から抜粋)
今、小泉孝太郎がテレビCMで、「膝を切らない再生医療を、ご提案!」と語りかけている。
医療専門紙の記者は、次のように解説する。
「膝がとても悪くなった場合、従来は外科手術でした。
人工関節をはめ込んで、すり減った軟骨の代わりとするのです。
ところが最近は、膝の再生医療を謳うクリニックが増えてきました。」
小泉孝太郎を広告塔にしているのは、「ひざ関節症クリニック」 である。
2015年に開院し、現在は全国に16のクリニックを持つまで拡大した。
同様のクリニックに、「ひざの痛みクリニック」あり、こちらは片岡愛之助をテレビCMに起用している。
膝の再生医療は、「PRP注射」か「幹細胞注射」が一般的だ。
この治療は全額が自己負担で、PRPなら注射1回あたりで5~30万円。
幹細胞ならば注射1回あたり50~120万円である。
名戸ヶ谷(などがや)病院の川口浩・医師は、2013年まで東京大学医学部・整形外科で准教授をした人だ。
2009年にはアメリカ整形外科学会の最高賞をアジアで初めて受賞している。
川口氏は、次のように膝の再生医療のいかがわしさを解説する。
「膝の再生医療は、本来の再生医療とは全くの別物です。
その効果は立証されていません。
PRP注射も幹細胞注射も、軟骨再生の効果はもちろん、鎮痛効果すら立証されていません。
まっとうな整形外科医が勧める治療法でありません。
PRP注射では、世界三大医学誌の1つである『JAMA』に論文がのりました。
その論文の結論は、鎮痛効果も軟骨再生もない、でした。
この研究は、被験者数が288例と突出しており、世界中で信頼されています。」
再び医療専門紙の記者が解説する。
「膝の痛みは、初期はヒアルロン酸の注射で痛み止めをするのが一般的です。
しかし安価なので、医者にとって利益になりません。
そこで再生医療となるのです。」
さらにヒアルロン酸の注射は、整形外科でなくても可能であり、ライバルが多い。
小泉孝太郎が広告塔の「ひざ関節症クリニック」に質問状を送ったところ、次の回答があった。
「(膝の再生医療では)治療後の軟骨量の変化を確認しています。
JAMAの論文は問題点が指捕されてます。
筑波大学の報告では、PRP注射で痛みの軽滅があったとの結果が出ています。」
だか川口浩・医師は、次のように反論する。
「軟骨量を測るソフトは、10年以上も前から世界中で開発されてますが、信頼性や正確性が確立されたものはありません。
FDA(米国食品医薬品局)は、軟骨量を測定する方法はまだない、との立場です。
また、筑波大学の研究論文は、被験者数はわずか10例で、これでは評価対象になりません。」