mRNAの注射、その技術背景

(以下は『週刊文春 2023年10月26日号』から抜粋
2026年7月12日に作成)

遺伝情報は、DNA→RNA→タンパク質へと一方向に流れる。

これはセントラル・ドグマ(中心教義)として、生物学の基本になっている。

細胞核に格納されているDNAは、その二重らせん構造がほどけてコピーが作られて、 mRNA(メッセンジャーRNA)になる。

mRNAはタンパク質の設計図で、リボソームというタンパク質の合成装置に読み取られて、その設計図(配列情報) に従ってタンパク質が作られる。

作られたタンパク質は、多様な働きを細胞内外でする。

貧血の人は、赤血球が少なくなっているが、赤血球をつくるよう刺激するのは「エリスロポエチン」というタンパク質だ。

そこでエリスロポエチンの設計図となるmRNAを投与すれば、貧血を治せるのではないかと、カタリン・カリコは考え、カリコは動物実験を始めた。

mRNAは非常に分解されやすく、普通に動物に注射してもすぐに壊れてしまう。

壊れなくするため、mRNAを油の膜で包んで投与した。

すると油の膜が細胞の膜と融合し、mRNAは細胞の中に入りやすくなった。

だがmRNAを注射された動物は、体調不良を起こした。
そのmRNAが外部から入った異物と認識され、炎症反応を起こしたのである。

不思議なことに、tRNAの投与では、炎症や食欲低下は見られなかった。

tRNAとは、アミノ酸の運搬をするRNAで、mRNAとは違う。

人工合成したmRNAと、細胞から取ってきたtRNAでは、なぜ反応が違うのか。

tRNAには、ウリジンという化学修飾が入っている。
そこでカリコは、人工的にmRNAを作るさい、ウリジンに同じ修飾が入っているもの(DNA)を材料にしてみた。

これを投与すると、炎症反応は起きず、mRNAはすぐに壊れなかった。

細胞は、自分のRNAのウリジンを修飾することで、外来のRNAと区別していたのだ。

この技術がコロナウイルスのワクチンに使われ、カタリン・カリコは2023年のノーベル生理学・医学賞を受賞した。


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