(東京新聞2015年6月12日から抜粋)
安倍政権が成立させようとしている安保法案は、アメリカ政府と合意した『新ガイドライン』の内容を色濃く反映している。
新ガイドラインを踏まえて、「自衛隊の活動の地理的制約を撤廃すること」や、「集団的自衛権の行使要件として存立危機事態の設定」を、法案に盛り込んだ。
自民党(日本政府)のアメリカ従属は、今に始まった事ではない。
1991年の湾岸戦争では、130億ドルの財政支援をしたが、アメリカから「小切手外交(カネだけの貢献だ)」と非難されたため、『PKOへの協力法』をつくった。
2001年のアフガニスタン戦争では、アメリカ軍を支援するために『テロ特措法』をつくった。
そして、海上自衛隊がインド洋で給油支援をした。
2003年のイラク戦争では、『イラク復興支援の特措法』をつくって、アメリカ軍の要請でバグダッドへ多国籍軍の兵士を輸送した。
最近では、「欠陥機」と指摘されるオスプレイの購入を決定した。
(安倍晋三・首相の訪米直後に、オスプレイ17機を3600億円で買う方針を決めた)
1972年の沖縄返還の時も、アメリカが支払うとされていた「米軍用地の現状回復費」400万ドルを、日本が肩代わりする「密約」を交わしている。
日本が負担している『在日米軍の駐留経費(思いやり予算)』は、2014年には1848億円まで膨らんでいる。
アメリカが旗を振るTPPでも、自民党は「聖域なき関税撤廃を前提にする限り、交渉に参加しない」と公約していたが、政権をとって間もない2013年3月に一転して交渉参加を表明した。
アメリカは毎年、『年次改革要望書』を日本政府に送って、規制緩和を指南してきた。
大規模小売店舗法の廃止や、郵政民営化は、この要望書に基づいて行われた。
これほどアメリカに従順な自民党だが、なぜか憲法だけは例外扱いして、「今の憲法を作ったのはアメリカ人で、改憲抜きにはいつまでも敗戦国」と主張している。
なぜ憲法だけを特別視するのか。
内田樹(思想家)
「戦後の日本は、憲法だけでなく、教育・医療・土地など国家体制の全部がアメリカの押し付けだ。
与党の政治家たちは、対米従属を通じて主権や国土の回復を図るという、『迂回戦術』を受けいれざるを得なかった。」
白井聡(京都精華大学の講師)
「アメリカは、『天皇制の温存』や『戦前・戦中の支配層の戦争責任をあいまいにすること』を許可することで、日本を円滑に従属国として統治してきた。
朝鮮戦争の時に、アメリカは日本に再武装を求めたが、首相の吉田茂は憲法9条を理由に拒否した。
ベトナム戦争の時も、憲法9条があったから出兵を回避できた。」
内田樹
「1980年代の半ばに、日本に転機が訪れた。
戦争体験者が表舞台から退くと、日本政府(自民党)は対米従属を積極化した。
主権回復のための方便だった対米従属は、いつの間にか日常化してしまった。
国策を自己決定する意識が消えて、アメリカの許しそうな外交政策しか起草しなくなった。
(こんな所にも、根性無しの自主規制が存在するとは…)
この動きの中で、自民党のタカ派には特殊な考え方が芽生えた。
タカ派には、『明治維新から敗戦に至るまで、軍事力を背景に列強に対抗できた』という幻想があり、「主権国家とは、戦争のできる国」との妄想が生き残っていた。
タカ派は、軍事的に対米従属しつつ、戦争できる国を目指すことにした。
戦争で手が汚れれば主権が回復されるかのように、主権の意味を矮小化した。
これは、『属国でありつつ主権国家のつもりになりたい』という、倒錯した意図に基づいている。
『憲法の押し付け論』は、この倒錯した考えを隠す演出だ。
アメリカは、これを理解した上で、日本を軍事戦略にもっと組み込みたいので許している。
アメリカにとっての障害は憲法9条だから、改憲は許諾するに決まっている。」
白井聡
「安倍首相らは、アメリカの意向を忖度することでしか物事を考えられないほど、深く従属している。
その一方で、アメリカの置き土産である憲法を憎悪する。
彼らは、隷属の不満の代償として、憲法を憎むのだろう。
(実のところ、彼らはバカでカネの亡者なので、アメリカにいいように操られているんです。痛い人々ですよ。)
安倍首相は、『戦後レジームからの脱却』を叫んでいるが、その出発点のポツダム宣言すら読んでいない。
(※国会の答弁で、それが明らかになった)
彼は、読みたくないのだろう。
政治家の世襲が続く中で、権力は劣化してしまった。
彼らは、『押し付け憲法を嫌えば嫌うほど、対米従属を深めることになる』という仕組みを理解していない。
『戦前からの支配層の維持』という日本の戦後体制は、アメリカの思惑(支配プラン)が具現化されたものだ。
押し付けが嫌ならば、戦前からの支配層の系譜に属する安倍さんは、身を引くべきだ。
でも、それをしない。
彼らは、単なるご都合主義者だ。」
内田樹
「戦争ができる国になる許可をアメリカからもらう事を、自立と信じる人達が、(アメリカが望んでいる)安保法制の成立を急いでいる。
彼らは、壊してよいと許されたものを壊して、満足したいだけだ。」
(2015年6月21日に作成)