(毎日新聞2014年12月9日から抜粋)
アベノミクスによる円安と株高で業績を伸ばす大企業が、自民党への献金額を増やしている。
証券大手では、5倍以上に増やした会社もある。
自民党の政治資金団体「国民政治協会」は、2013年度の報告書を11月28日に出した。
企業・団体からの献金総額は、19億5408万円で、前年比で43%増である。
野党時代の2010~12年は、13億円台だった。
献金額上位50社を見ると、46社が増額している。
献金額のトップ10は、次のとおり。
1位 トヨタ 6440万円 (前年比25%増)
2位 キャノン 4000万円 (60%増)
3位 住友化学 3600万円 (44%増)
4位 新日鉄住金 3500万円 (9%増)
5位 三菱重工業 3000万円 (3倍)
6位 日産 2900万円 (41%増)
7位 東芝 2850万円 (2倍)
7位 日立 2850万円 (2倍)
9位 野村ホールディングス 2800万円 (5.6倍)
10位 ホンダ 2500万円 (39%増)
10位 大和証券・本社 2500万円 (3.6倍)
増額が大きかったのは、証券大手2社である。
野村が5.6倍、大和証券が3.6倍となった。
商社も増額が大きく、伊藤忠は4.5倍、丸紅は3.7倍にしている。
三菱商事、三井物産、住友商事も、4倍近くに増やした。
重電も同様で、三菱重工業は3倍、東芝と日立は2倍にした。
(この3社は、原発の3大メーカーである)
原発輸出を成長戦略の1つに掲げている安倍晋三・首相は、海外に行って原発を売り込んでいる。
それに合わせるように、原発メーカーは献金額を増やし、協力姿勢を打ち出している。
トヨタは、前年に続けて献金額がトップである。
2010~12年度も、毎年5140万円の献金をしてきた。
自公が2013年1月にまとめた『13年度税制改正の大綱』では、「消費税率を8%に引き上げる際のエコカー減税拡充」「10%に引き上げる際の自動車取得税廃止の実施方針」が決まった。
自動車メーカーの献金額の増加は、こうした政策への謝礼とも見える。
上脇博之(神戸学院大大学院の教授)
「一般庶民にしわ寄せが行くアベノミクスを、財界が献金で後押しする。
その後押しを受けて、安倍政権は大企業への利益誘導をし、アベノミクスを強化する。
この相関関係が出来上がっている。
税金を原資とする『政党交付金』があるのだから、企業献金は法律で禁止すべきだ。」
企業・団体献金は、ピークの1990年には447億円に上った。
その後、政財界の癒着への批判が高まり、民主党政権時代の2011年には最低の16億円まで減った。
しかし、自民党が政権復帰すると、2013年には24.8億円に増えてしまった。
経団連は今年になってから、「加盟企業(約1300社)への政治献金の呼びかけ」を、5年ぶりに再開している。
(要するに、民主党政権になって止めていたものを、復活させたということ)
この呼びかけにより、2014年の総額はさらに増えていると思われる。
経団連は2013年10月に、各政党の活動が財界の要望に沿っているかを検証する「政策評価」を、4年ぶりにまとめた。
さらに、加盟企業への献金の呼びかけをした。
この動きは、経団連が各企業や業界団体に献金額を割り振ってきた「55年体制時代」への、先祖返りを連想させる。
岩井奉信(日大の教授)
「自民党への企業・団体献金の大幅な増加は、アベノミクスと無関係ではありません。
アベノミクスは、自民党に献金を呼び込む「打ち出の小づち」と言える。
「政治家個人の財布の1つ」とされる党支部への献金が伸びており、党本部へのそれを大幅に上回っています。
これは、族議員による利益誘導の再来を予感させます。
「政治とカネ」への監視を、強めていく必要があります。」
2013年度の自民党の『党本部の総収入』は、233億円で、5年ぶりのトップとなった。
2位は共産党の225.4億円、3位は公明党の142.7億円、4位は民主党の94.3億円である。
『政党本部の収入総額に占める、政党交付金の割合』は、2013年度には平均で56.4%となっており、各党は国費への依存が常態化している。
政党交付金は、議員数に応じて配分される。
2013年度に自民党が受け取った政党交付金は、48.3%増の150.6億円である。
野党に転落した民主党は、51.8%減の94.3億円だった。
共産党は、政党交付金を受け取っていない。
2013年7月の参院選では、自民党は、現職には1700万円、新人には1500万円を配った。
生活の党は、3億円を借り入れて、現職には3000万円を配ったが、議席は獲得できなかった。
岩井奉信
「今秋は、小渕優子・経産相などの汚職疑惑が相次ぎました。
ここで問われているのは、『不適切な支出』です。
政治とカネの問題は、以前は「入」を巡るものが中心でした。
政治資金規正法の度重なる改正により、「入」については改善してきました。
だが、「出」は手付かずのままなのです。
現行の政治資金規正法は、「入」を律するものであり、「出」は何ら規定していません。
「出」は全くの自由で、野放しの状態が続いています。
そのため、国民の納得がいかない使われ方がまかり通ってきました。
忘れてならないのは、野放しの支出が、政治資金の総額を押し上げている事です。
無駄な支出を減らせば、総額の抑制につながる。
だから、支出を律する制度が必要です。
手始めに、政治資金規正法の総則に、「適切な支出に努める旨」を明記すべきです。
その上で、支出の在り方について、ガイドラインの作成などに取り組む。
英国などで制度化されている、『年間支出に上限を設けること』も、議論の対象にすべきです。」
(2014年12月11日に作成)