(毎日新聞2014年2月2日から抜粋)
安倍晋三・自公政権は、雇用政策の見直しを加速させている。
労働規制を「壊すべき岩盤」と見なして、打ち破ればもっと多くの人が仕事に就けると言う。
だが「安上りの労働者を増やす」「正社員の座がますます遠のく」との懸念も出ている。
横浜市に住む男性(33歳)は、2006年に大手派遣会社に登録したが、派遣会社からの電話1本で、イベントの案内係、倉庫、オフィスと、職場を転々としてきた。
今の手取りは月に23万円だが、「そろそろ正社員にならないと」と焦っている。
男性はこう話す。
「派遣の仕事で予定が埋まり出したら、それに適応して抜け出せなくなった。
ずっと日雇いのため、職歴が無くて、面接で履歴書の空白を説明できるか分からない。」
2012年度の全労働者に占める非正規雇用の割合は、38.2%だった。
これは20年前に比べて16.5%も増えている。
正社員を非正規社員に置き換える流れは、安倍晋三・自公政権が今国会に提出する「労働者派遣法・改正案」で、加速するだろう。
企業が派遣社員を使える期間は3年が上限だが、この改正案が成立すると、どんな仕事でも労働者を3年ごとにクビにすることで、ずっと派遣に仕事をさせられる。
これは、民主党政権が決めた日雇い派遣の原則禁止の方針を廃棄するもので、「基本は正規雇用で、派遣は例外」という理念を捨てるものである。
その改正案を、経団連の米倉弘昌・会長は、「派遣社員のキャリアアップも盛り込まれ、バランスが取れている」と評している。
(毎日新聞2014年11月29日から抜粋)
○ 嶋崎量(弁護士)の話
衆院解散で廃案となった『労働者派遣法の改正法案』について、改めて問題点を指摘したい。
安倍政権は、「この改正は、派遣社員の待遇改善や正社員化につながる」と力説している。
だが、そもそも派遣労働という形態が、雇用の安定とは対極にある。
もともと派遣労働は、「賃金の中抜き」や「雇い主の責任が曖昧になること」から、厳しく規制されていた。
それが、1985年に派遣法が成立して以来、規制緩和が続いて現在に至っている。
今回の改正案は、「派遣の利用は臨時的・一時的」という大原則を放棄している。
現行制度では、専門26業務以外は、派遣社員の受け入れは最長で3年である。
ところが改正案では、専門26業務という区分(縛り)を廃止し、3年ごとに人を入れ替えれば、ずっと派遣社員に任せられる。
この改正案が実現すると、結局は派遣労働者は増え、正社員も増えないだろう。
正社員が派遣労働者に置き換えられる恐れがある。
派遣労働を増やせば、将来の展望を描けない家庭が増えて、少子化は加速してしまう。
この改正案は、安倍政権の成長戦略の1つである。
(2014年12月11日に作成)