(『新婦人しんぶん2014年7月3日号』から抜粋)
(以下は、関根佳恵・愛知学院大学准教授の話の抜粋である)
2014年は、『国際家族農業年』である。
これを国連が定めた背景には、農業開発への反省がある。
これまでの世界の農業政策は、「小規模な家族農業は消えゆく運命にある。そこに予算を投入しても意味がない。国が支援すべきは効率的な大規模農業だ。」との考え方を基盤にしてた。
ところが、世界的に大規模農業を支援して、市場の自由化を進めてきた結果、貧富の格差が開き、貧困・栄養不足の人口が増えてしまった。
大規模農業の手法により、環境汚染と資源の枯渇も深刻化してきた。
この矛盾が誰の目にも明らかになったのは、2007~08年に発生した世界的な食料危機だった。
食料危機をうけて国連では対策が検討され、小規模・家族農業が再評価される事になった。
世界の農業の8割が、小規模・家族農業である。
大規模農業が主体のアメリカやオーストラリアは、世界全体から見ると少数派だ。
小規模農業は、効率が悪いと思われがちだが、実際には「単位面積当たりの収量は、大規模経営よりも多いこと」が分かった。
兼業農家についても、世界的に気候変動が激しくなる中で、リスクに強い事が分かった。
日本でも、東日本大震災の後に農業を再生していく核になったのは、兼業農家である。
また、家族農業の半数以上は女性が担っており、女性の役割は大変に大きい。
小規模・家族農業は、雇用創出や貧困削減に貢献している。
さらに、国土保全・景観維持・文化伝承などの機能も果たしている。
EU諸国では、小規模・家族農家に支援が進められている。
対照的に日本では、今なお農業への企業の参入や、輸出志向型の農業が進められている。
TPPなどの日本の農業(食の安全)を犠牲にする方向は、国際的な流れに逆行するものだ。
日本の「有機農業」や「地産地消」「里山保全」は、世界のモデルになっている。
いま日本の農業に求められているのは、市場自由化や規制緩和ではなく、小規模・家族農業を中心とした新しいモデルの構築である。
国際社会は、すでにそれに向けて一歩を踏み出している。
(2014年7月17日に作成)
(しんぶん赤旗・日曜版 2022年1月23日号
『関根佳恵・愛知学院大学准教授の記事』から抜粋)
2020年時点で世界人口は79億人だったが、それを養うのに十分な食料が生産されたのに、3分の1が廃棄され、9億人が食料不足に苦しんだ。
この悲惨な状況を変えるには、現行の工業的な農業から、家族農業や小規模農業に転換する必要がある。
そのため国連総会は、全会一致で2019~28年を『家族農業の10年』と定めた。
大規模で企業経営的な手法の農業は、合理化を優先するため、化学農薬・化学肥料や、遺伝子組み換えの作物、抗生物質、化石燃料を使い、自然環境に負荷をかける。
これに対し、小規模な家族農業はこうした手法をあまり使わない。
家族農業は非効率と長い間思われてきたのは、「労働生産性」と「土地生産性」を基準にしていたからだった。
しかし、「エネルギー生産性」で評価すると、大規模な工業的農業は非効率だと分かってきた。
国際NGOの「ETCグループ」の2017年の試算では、世界の小規模・家族農業は、農業全体で消費される資源量(土地、水、化石燃料など)の25%の使用で、食料の70%を生み出している。
逆に言うと、大規模農業は資源の75%を消費しているのに、食料全体の30%しか作れていない。
20世紀には、世界の農地面積は2倍に拡大し、食料の生産量は6倍に増えたが、農業のエネルギー消費は85倍になってしまった。
これは、化石燃料を用いる機械や、温室での栽培、化学農薬や化学肥料の普及が原因である。
持続可能な社会を築くには、こうした農業から脱却し、生態系を維持する小規模農業を再評価する必要がある。
(2021年1月25日に作成)