東京オリンピックの経費膨れ、利権と再開発

(以下は、『毎日新聞 月刊なるほどり2013年10月号』から抜粋)

東京招致委員会は、五輪の総額を7340億円と見積もっている。

主な内訳は、スタッフの人件費や警備費などの運営費(3103億円)と、競技場や選手村などを整備する建設費(3855億円)である。

計画によると、運営費はテレビ放映権・スポンサー料・チケット売上などで賄い、建設費の大半は国と東京都で負担する。

国が負担するのは、国立競技場の立て替え費で、約1300億円かかる。

他の10会場は都が負担し、予算は1538億円と見積もられている。

都は、五輪招致のため2006~09年度の4年間に、毎年1000億円ずつ積み立てていた。
その「開催準備基金」が4000億円ある。

東京五輪では、首都高速道路や駅の整備もする事になっていて、上記の費用とは別に6392億円がかかる予定である。

だが、「五輪がなくても整備するから」という理由で、開催費に入っていない。

2012年のロンドン五輪では、出費額は最終的に、当初計画の4倍近い1.1兆円に膨らんだ。

東京都は、2016年五輪と2020年五輪に立候補し、その際に招致活動費として計137億円を投じている。

東京五輪では、半径8km以内に競技施設の8割を配置する計画で、大きな課題は「渋滞対策」である。

五輪専用の道路を設置して、競技関係者はそこを使う方針だ。

鉄道については、「1日に2600万人を輸送できる世界屈指のインフラがある」として、新たな整備はしない。

運営を支えるボランティアは、8万人を集める予定である。

だが、都内最大級のイベントである東京マラソンでも1万人にすぎず、人数確保が課題だ。

(以下は『東京新聞 2015年7月18日』から抜粋)

安倍首相は7月17日に、東京五輪の主会場になる新国立競技場の建設計画を、白紙に戻すと表明した。

現行計画は、工費が2520億円まで膨らみ、世論の批判が高まっていた。

槇(まき)文彦らが見直しを求める声を上げていたが、計画選定から2年8ヵ月経ってようやく見直しになった。

日本政府は今秋までに、新たな計画を策定する方針だ。

前回のようなデザインだけを選定する国際コンペは行わず、設計や施工を一括して決めることで時間を短縮する。

2019年秋に日本で開かれるラグビーW杯は、新国立競技場の使用を断念する事になった。

計画の見直しについて、安倍首相は「時間がかかる」などと言って否定していた。
だが安保法案への反発が強まっているため、内閣支持率の低下に歯止めをかける思惑から方針転換したようだ。

槇氏は2013年9月23日の本紙インタビューで、「建設費は1300億円と言われているが、もっとかかるという声がある」、「うまくいかないと、税金のような形でツケが回る」と指摘していた。

多くの人が建設計画に懸念を示していたが、政府は計画見直しを拒み続けていた。

本紙も2014年10月5日の朝刊で、槇氏らの予測を基にして、「総工費は900億円増、実は2500億円?」と書いていた。

最近のオリンピック主会場は、最も工費が高かった2012年ロンドン五輪でも580億円だ。

安倍首相らの姿勢から見えるのは、巨費を投じることへの責任意識の薄さだ。

2520億円という費用は、ロンドン五輪の4倍、北京五輪の6倍に相当する。見直しは当然だろう。

安倍政権は、巨額な工費の原因となっていた2本のキールアーチ構造について、「デザインは民主党政権時代に決まった」と強調し、批判の矛先を民主党に向けようとしている。

だがデザインが決まったのは安倍政権発足の1ヵ月前であり、安倍首相は2013年9月の五輪招致の演説では「どんな競技場とも似ていない新スタジアム」とアピールしている。

その後、「工費は3000億円になる」との試算が出ると、いったんは計画を縮小したが、再び膨張し、屋根の建設は五輪後に先送りするなど、迷走していた。

安倍政権は、新国立競揚場をめぐっても強気に進めていたが、支持率が低下傾向に あるため世論に配慮せざるを得なくなった。

日本スポーツ振興センター(JSC)も見直しに否定的だったが、そこには東京五輪の組織委員長である森喜朗の存在がある。

森喜朗は7月17日に、報道陣にこう話した。

「(迷走が続いたが)誰にも責任はない。金をかけるな、と(国民が)言うのだから仕方ない。

国がたった2500億円も出せなかった、という不満はある。
みんなが高いと言うけど、何を基準に言うのか。」

(※全く反省せず開き直っている。どうしようもない人である。
こんな人がなぜ権力を持っているのか。)

新国立競技場の建設地では、住民が来年1月の立ち退きを迫られている。

ここに長く住む柴崎俊子さんは、「立ち退かなくてもいい小さな競技場になれば嬉しい」と語る。

近隣住民の女性は、「今の計画は、周辺への悪影響が大きすぎる。近隣住民の言い分を聞いてほしい」と語る。

国会前で安保法案に抗議する若者の1人は、「法案の衆院通過後というタイミングで、計画変更を表明した。国民が喜ぶだろうという下心を感じてしまう。」と話した。

デイサービス事業所の経営者である三上博至さんは、「新競技場はパラリンピックの 主会場にもなる。バリアフリーの徹底を」と希望した。

(以下は『毎日新聞 2015年7月24日』から抜粋)

東京都が描いた五輪の会場計画は、様変わりしている。

2014年6月から計画の全面見直しをして、既存施設を活用して10競技の会場を変更した。
だが、2競技の会場はまだ確定していない。

都が招致段階で算定していた恒久施設の整備費は、1500億円だった。

しかし見積もりは一時は4500億円まで膨らみ、現在は2500億円となっている。

2015年7月22日に大会組織委員会の森喜朗・会長は、「開催費は2兆円を超すかも」と発言した。

招致段階では開催費用の見積もりは7340億円だったが、招致の時は国民の支持率を上げるために甘い見積もりを示したようだ。

ギリシャの経済危機は、2004年のアテネ五輪の財政負担が引き金になったとも指摘されている。

(以下は『東京新聞2021年12月24日』から抜粋)

東京オリンピック・パラリンピックの開催経費が、1兆4530億円だったとの見通しを、同大会の「大会組織委員会」が発表した。

この金額は、招致した時の見通しの2倍である。

2013年の招致ファイルには、開催経費は7340億円と書かれていた。

「大会組織委員会」は、オリンピックが1年延期され、コロナ感染対策もあったので、3000億円の追加経費を見込んでいた。

しかし無観客試合にしたり、海外関係者を絞ったことで、1000億円ほどですんだ。

国と東京都の追加経費は生じないという。

しかし、経費の中身はブラックボックスになっている。

「大会組織委員会」は、民間の公益財団法人であることを理由に、支出の細かな内訳を明らかにしていない。

さらに言えば、経費は、国や都の他の予算に付け変えられているものも多い。

(以下は『東京新聞2023年3月18日』から抜粋)

音楽家の坂本龍一が、明治神宮外苑の再開発について、見直しを求める手紙を、小池百合子・東京都知事らに送った。

「100年かけて守り育ててきた樹木を犠牲にすべきではない」と訴えている。

東京都は、再開発事業を許認可する立場にある。

外苑の再開発は、三井不動産や明治神宮などが行う。

都はこの再開発計画のために、建築規制を大幅に緩和した。

東京新聞の取材に、坂本龍一はこう説いた。

「私は3年近く厳しい闘病を続けてきましたが、未来のことを考えた時、あの美しい場所を守るため、後悔しないように陳情の手紙を出すことにしました。

樹木は万人に恩恵をもらたしますが、開発は一部の既得権者と富裕層だけに恩恵をもたらします。

現在の開発案は、近視眼的な既得権者のためとしか思えません。

あの場所はオアシスの様で、都市の中に自然の豊かな姿を見せてくれています。

パリやローマといった都市は、100年変わらずに歩ける街で、観光資源としての大きな魅力があります。

都市の風景や自然環境を守ることは、可能だと考えています。」

(2015年7月24日に作成。2023年5月19日、2025年4月15日に加筆)


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